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第29話  決意、そして仲間たち

「あぁっ……あぁぁぁぁ‼」


発狂にも似た、悲鳴を上げる。

そこにはボロボロになり地面に横たわる彼の姿があった。

防具の至る所が破損し、彼の頬や頭からは血が流れている。

私の声にも反応せず、目を閉じたままピクリとも動かない。


私のせいですわ‼ 私のせいでこんなことに……‼


私は取り乱し、スマホさえも手放し彼に駆け寄る。

仰向けに横たわる彼の上体を抱きかかえるように起こすと

私の目からは大量の涙が溢れ、彼の額を濡らしていた。

それに反応してか彼は、うぅ……と小さく唸り、微かに目を開ける。


「良かった……!意識はあるのですのね……‼」


少しだけ安心ですが……

ぐったりとしていて予断を許さない状態ですわ。


「ぶ、無事だった……か?こ…んな時までボーッとすんな……

 俺が助けな…かったら大変だったぞ…

 本当に……困ったお嬢様だ……」


彼は悪態をつきながらも、私の心配をする。


「ドラゴンはどうした……?」


と続ける彼。


「無理に喋らなくていいですわ……‼」


私は取り乱しながら叫ぶ。

そして、リスナーさんが送ってくれた小瓶の事を思い出す。


私は急いで腰に下げてあるアイテムポーチの中に手を入れ、小瓶を掴む。

こぼさないように注意しながらコルク栓を抜き、飲み口を彼の口元へ近付けた。


「多分、きっと、回復薬ですわ、これを飲んでくださいませ‼」


“多分”という言葉に引っ掛かったのか、彼は一瞬眉を顰めた。

そんな彼に構わず私は小瓶の口を無理矢理彼の口へ突っ込んだ。

目を丸くしながらも彼は全て飲み干した。


「ゲホッゲホッ…

怪我人にくらいもう少し優しくしたらどうだ…?」


心配なんですもの!仕方ないじゃありませんか!!

……などと言えるはずもなく、黙って彼の傷や表情を観察する。

傷が少しずつ塞がり苦痛の表情が和らいでいくのがわかる。


彼自身も変化に気付き、目を閉じて静かに呼吸を整え始めた。

それでも、今は動けそうにない。

回復薬を飲んだとは言え、すぐに万全になる訳ではなさそうだった。


それより……なんですの?

この気持ち……。


さっきまでの私は、彼がいなくなる事への不安を抱いていた。

しかし、今は違う。


フツフツと煮え滾るようなこの感情は“怒り”かしら……‼


彼に守られてばかりの私自身に、

彼を傷付けたドラゴンに、

ついでにこんな状況を作った神様に、

怒りという感情が爆発しそうになっているのだと気付く。


「……ここで大人しく待っていてくださいませ」


抱きかかえていた彼の上体をゆっくりと地面に寝かせ、私は立ち上がった。

どこへ行く…と聞く、まだ力の入らない彼の言葉を背に、取り乱した時に落としたスマホを探す。

ふと見ると、少し離れた所に、

包帯や回復薬などの道具が、山のように積まれているのを見付けた。


事の重大さをリスナーさんたちが察したのか、大量にギフトを送ってくれていたようだ。

その山を掻き分け、

スマホを見つけるとそこには心配するコメントが目まぐるしい速さで流れている。


(無事なのか!?)

(何でもいいから投げろ!)

(回復薬の弾幕薄いよ!何やってんの!)

(いいから艦長も仕事しな!!)

(あ!ビビアンだ!!)


私の顔を見て安心したのか、絶えず送られてきていたギフトが止まる。

リスナーさんのコメントを読みつつ、一呼吸おいて話をする。


「皆さま、落ち着いて聞いてください。

彼が負傷してしまいましたわ。

でも意識はあり、回復薬のおかげで傷も少しずつですが癒えてきています。」


彼の状態を端的に伝えた。


(モブが!?!?)

(マジかよ……)

(なんで……)

(回復薬、役に立ったのか……よかった)


動揺しているコメントが流れる画面に向かって

私は冷静な口調でさらに続ける。


「ドラゴンには今のところ動きはありませんが

彼の身体が癒えるまで何もないとは言い切れません。

ですので、私一人で“ヤツ”を倒します。

今そう決めました。」


リスナーさんたちがまた困惑のコメントを打ち始める。


(待って待って、無茶だって!)

(一人じゃビビアンもやられちゃう!!)

(ここは一先ず戦略的撤退を!)


リスナーさんからのコメントは正直、嬉しかった。

でも…それでも私は——。


「いいえ、やりますわ!それにわたくしは一人じゃありませんから!」


その言葉にリスナーさんからは


(モブ以外にも助っ人がいるの?)

(従者のイケオジ?)


というコメントが寄せられる。


「いいえ……わたくしの最大で最高の仲間。

 それはここにいるリスナーさんですわ!

だから皆さまの力を貸してください!!」


珍しく熱くなっている事に、私自身が驚いた。

リスナーさんの心配のコメントが

少しずつ決意のコメントに変わっていく。


(そうだな、ビビアン。君は一人で戦ってるんじゃない。俺たちがいる!)

(一瞬のことで、さっきはサポート出来なかったけど、次は任せて!)

(やられてばっかじゃ性に合わないよねww)

(まだだ!まだ終わらんよ!!)

(さぁ、お前たち行くよ!40秒で支度しな!!)


止めどなく溢れる涙をぬぐい、私は立ち上がる。

自分を奮い立たせるように、決意表明のつもりで声を上げた。


「ここで諦めてたまるもんですか!

一人で頑張っていた『伯爵令嬢 ビビアン・ロッソ』はもういないんですの。

今はたくさんの仲間がいる『冒険者 ビビアン・ロッソ』ですわ!」


もう何も怖くない!

彼が帰るとしても

帰れずに残るとしても

ここで命を落としては何もならない。


「彼に手……じゃなくてしっぽを出したことを後悔させてあげますわ!!」


私は今きっと悪い顔をしていると思う。

でも大切な人を傷付けられて

黙ってなんていられません。

倍返しですわ!


(怒ったビビアンも素敵だーー!)

(今度こそしっかりサポートするよ!)

(でもやっぱ危険じゃない?)


画面には応援するコメントもあれば、引き返すよう促すコメントもあった。

確かに、ドラゴンを倒してクリスタルを手に入れてしまえば、

彼は元いた世界に帰ってしまう。

それは私にとって悲しくて耐え難い。

でも、生きて帰ることが彼の幸せだとしたら、私の別れの悲しみなんて小さなこと。


大好きな人のためならば、たとえ相手がドラゴンであろうと戦ってクリスタルを取り返してみせる。

それが私が彼のために出来ることで、精一杯の愛だと思った。


「わたくし、もう迷いませんわ」



お読みいただきありがとうございます。


「面白いなっ」


「このあとが気になる」


と思いましたら、ブックマークか

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どうぞよろしくお願いいたします。

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