第25話 決断、そして最後の企画
……さすがに話についていけない。
彼はきっとギルドからの帰りに、疲労で倒れて頭を打ち、
打ちどころが悪かったのかもしれないわ。
「魔法陣を描いた羊皮紙はここにある。
あとは、ドラゴンを倒してクリスタルを手に入れればいいんだ。」
彼は悔しそうに拳を握りしめた。
羊皮紙を出されたら信じるしかありませんわね。
それにしても、神様はクリスタルを落としても知らん顔なのかしら。
神様への不満からか、落ち込んでいた気持ちが少しずつ落ち着き、
憤りへと変わる。
「神様のミスでクリスタルを落としたのに。責任は取ってくださらないの?」
それくらい神の力でビューン、ヒョイ!って感じに何とかならないのかしら?
「話を最後まで聞いてくれ。
神様はもちろん謝ってくれたさ。
しかし、現世にはあまり手を出せないみたいでな?
その分、ドラゴンが住んでいる場所はもちろん教えてくれたし、
お前の願いをひとつ叶えてやろうとも言ってくださったよ」
言ってくださった?
こんな神様をまだ敬っているのね。
まさか愛の告白どころか、神(の罪)の告白になるなんて思わなかった。
なんなら私にとっては哀の告白だわ。
「『お前の願いは何だ?』って聞かれたんだが、その時は思いつかなくてな。
『急ぐ必要はない。叶えたくなったら念じるといい。』って言ってくださったから
今はとりあえず保留にしてきた。」
そこでなぜ、ビビアンを連れて帰りたいって言わないのよ。
思いつかないなんて簡単に言わないでよ。
あなたにとっての私はその程度でしたの?
「スマホにはそのドラゴンに反応する力を与えたから、
ドラゴンの下へ向かう時には絶対持っていくようにと神様はおっしゃった。」
その高山にいるドラゴンの正確な位置を知るのにスマホが役に立つというのね。
「ドラゴンって強いのですか?」
今日初めてモンスターを討伐した私は
当然、他のモンスターの強さなんてわからない。
「ああ、今まで俺が討伐した奴らより何十倍もレベルは上だ。
それこそゴブリンなんて比較にならない、かなりの強さになる」
そんな話の中、私はとあることを思いついた。
これが彼との最後の瞬間、そしてリスナーさんと居られる最後の配信になるかもしれない。
「もし、ドラゴンにやられたら、死んでしまう……なんてことはありますか?」
「可能性は十分ある」
私は、彼との思い出を
リスナーさんたちの心に焼き付けておいてほしいと思った。
ここに私たちがいたという証明を。
「そう、それならその様子をスマホで配信させてください」
私が、彼の隣でリスナーさんたちと一緒に、
特別な時間を過ごしていたという軌跡を残したいから。
「スマホを持っていくように神様からは言われたが、君を連れていくつもりはない。
そんな危険なところへ連れていけるわけないだろ。
俺一人で行くし、配信もしない。」
大切に思われているようで、この言葉は少し嬉しかった。
でも、彼がいなくなるかもしれない最後の戦いに、私は何もしないというのは嫌だった。
神様のおかげで配信できるようになったと言うのなら、
なおさら最後の時まで彼やリスナーさんと居たい。
「危険だからこそ、私はあなたについて行きます。
一人で行かせるわけにはいきません。
配信してリスナーの皆さまと協力しますわ」
私の決意を感じ取ったのか
彼はまた大きな溜息を吐く。
「協力してくれるのはありがたいが……
もし俺が凄惨な姿になっても、君は耐えられるか?」
そう問われて、一瞬戸惑ったが、
彼の瞳をみつめて私は答えた。
「最後の瞬間まであなたと一緒にいられるのなら」
————回想シーン終わり!
「ということで、重大発表ですわ!!
話を聞いていただいた通り!
今度ドラゴンとの戦いを配信いたします!!!!!」
リスナーさんたちへ話し終えると、そのまま声を張り、改めて伝える。
(うっわ!まじかw)
(面白そう!絶対見に来る!)
(面白がってていいのか?かなり危険じゃね?)
(ドラゴンとの戦いが重大発表じゃなくて、モブが元の世界に戻る方が重大発表じゃん)
(モブはいなくなってもいいが、ビビアンの配信見れなくなるのは嫌だ)
(もしかしたらドラゴンにやられるかもなんでしょ?それも嫌なんだが……)
リスナーさんたちが寂しい、心配といった、たくさんの言葉を送ってくれる。
本当に暖かい人たちだわ。
(っていうかさぁ、ビビアン、本当にそれでいいの?)
迷っている私の心を見透かしたかのような一言が、深く突き刺さる。
「わたくしは……わたくしは正直に言うと、自分でもよくわかりませんの」
確かに彼が元の世界に帰るというのは、私にとってつらい。
彼が帰ってしまったら、スマホも配信も全てなくなってしまうということ。
こんなに優しいリスナーの皆さまともお別れしなくてはいけない。
「皆さま、今日までわたくしの配信【ビビアンの部屋】をご覧になってくださり、
本当にありがとう。
皆さまに出会えたおかげで、
伯爵令嬢としてのわたくしに見切りをつけることができましてよ。」
(ん?どういうことだ?)
しかし、止めても彼は一人でも向かう。
彼がそう望むなら、叶えてあげたい。
離れたくないけど叶えてあげたい。
そんな二律背反な考えの中で出した答えは
『せめて最後のその瞬間まで彼と一緒にいたい』
「ドラゴンの配信が、もしかしたら最後の配信になるかもしれません。
最後の瞬間に言えなかったら困るので、
今のうちに皆さまにはお伝えしようかと思いましたの。
本当に、わたくしは、幸せでした!!」
どれが一番良い選択なのかわからない。
それでもここまでそばにいてくれた
リスナーさんたちには感謝を伝えておこうと思った。
(キャディーズの解散コンサートか?w)
(何それ?)
(昭和のアイドルグループだよ)
しょうわ? あいどるぐるぅぷ? というのが何か知りませんが、
どうやら意図せず、すべったらしい。
(ビビアン?モブに、行かないで!ってはっきり言えばいいよ)
(俺が絶対にビビアンを守ってみせる!!)
(勝ってほしいけど、勝ったら配信はもうないんだよね……)
(でも負けたら生きてないんじゃ……?)
(くっそー、究極の選択じゃねーか!!!!)
ありがとう。素敵なお友達。
お礼になるかわかりませんが、最後までいつも通りの私で、一緒にいますわ。
「さぁ、ドラゴンと戦うために鍛えなくては!
やりますわよー!!
皆さま、応援よろしくお願いします!」
私はぐちゃぐちゃになった気持ちを押し込めて
袖をまくって小さな力こぶを作ってみせた。
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