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第23話  乗っ取り、そしてアンチテーゼ

——カチャ

使用人の部屋からビビアンの部屋へ直行し扉を開ける。


「相変わらず、つまんない部屋ですわね。」


部屋に入り私はそう呟く。


「さて、いつ帰ってくるかもわかりませんし、さっさとあのカードのようなものを……」


と、丁寧に部屋の中を探し始める。

誰かが入ったとバレないように慎重に。


「これですわね。なんて不用心な。」


目的の物を机の上であっさりと見つけ

皮肉たっぷりに言い放った。


「明らかに敵対しているわたくしがいるのに……

こんなんだから、いつまで経ってもダメダメなんですわよ。」


私は薄ら笑いを浮かべた。


「さて、このカード……どう使うのかしら?」


使い方がわからず、ペタペタと触っていると

突然、私が目の前に映った、これは鏡だったの!?と思ったのもつかの間、

文字がたくさん浮き上がり始めた。


(ビビアン来たよー!)

(この配信に来るのがもう日課だよw)

(お邪魔しまーす!!)


配信……?いったい何が起こっているんですの?

それにここに書かれている文章……

全部ビビアン宛ですわ。

それも一人ではなく、たくさんの人がいる。

なぜこんなにもビビアンに人気が……?

許せませんわ。

ここも私のモノにして差し上げます。


「あらぁ、ビビアンじゃなくってごめんなさい。」


私は申し訳なさそうな表情を作る。


(お前は誰だ?)

(ビビアンじゃないやつが映ってる)


「わたくしは妹のテーゼでございます。

お姉さまは急用があるそうで、配信?をわたくしが頼まれましたの」


困った姉を助ける妹という演出でいきましょうか。

文章を送ってくる人たちに、怪しまれないように優しい妹を演じて、

私がビビアンの人気をかっさらって差し上げてよ。


(あーお前が、あの意地悪令嬢のテーゼ?)

(あなたがビビアンの妹なの?婚約者を奪ったっていう)

(ビビアンがあんたに配信を頼むなんて嘘だろ)

(私たち…入れ替わってる~とかならまだワンチャンあったかもなw)

(こいつ、スマホ盗んだんじゃね?)

(配信の言い方が疑問符あるように聞こえたぞw何もわかってなくて草)


何でバレているんですの!?

この文章の人たちは、私の演技を見抜いている。

ビビアンがいろいろ吹き込んでいるのね。

ここで嘘がバレたら人気を奪えないわ。

この人たちの中のビビアンの評価を落とさないと。


「お姉さまの急用って、たぶん、ある殿方との逢引きだと思います。

あ、これは秘密にしといてと言われたんだったわ。ごめんなさい。

今のはここだけの話ね。」


さすがに馬の骨のことまで話してはいないはず。

この人たちの中には殿方もいるようですし

これで嫉妬に狂うといいですわ。


(ある殿方って誰だ?)

(たぶんモブじゃね?)

(まぁ、そうだろうな。)


どういうこと?

モブというのは馬の骨?

そのことを知っているのに嫉妬もしない?

なぜ全て知っていてもビビアンの味方で、こんなにもビビアンを信頼しているの?

どうも上手くいかない。

もっとビビアンの不平不満を書き込みたくなるようにしないと。


「お姉さまはあなたたちよりも大切な人がいるんですわ。

わたくしも心配していますのよ。

自暴自棄になっているのではないかと。

婚約破棄されたすぐ後に、もう新しい殿方となんて……

その殿方のためにこの家を出ることになりましたの。

一か月以内にはこの配信?とかいうのも終わるんじゃないかしら。」


私は目に涙をためてから

それを指で拭う。


(はぁ?お前がビビアンの婚約者を奪ったんだろ!)

(こいつ、さっきから、スッゲー言い方がウザいんですけど)

(俺たちのビビアンを蔑む言い方、気に入らないな)

(妹のテーゼってさ、話に聞いた通りの悪役令嬢だな)

(いや、話以上かもw)

(頼まれて配信してるなんて嘘確定やんww)

(ここの配信も奪おうとしてるとか?)

(なになに?乗っ取り?)

(ありえねーやつが、【ビビアンの部屋】乗っ取ってるぜ)


なんでこの人たちには私の演技が効かないんですの……

ものすごい勢いで文章が流れる。

私に対する誹謗中傷の嵐だわ。

次々に文章が湧いてきて読むのも追いつかない。

ダメ、この人たちの気持ちを誘導できないわ。

なぜこの私がこんなことを言われないといけないの?


(おぉ、アンチコメントのおかげでバズってギフトが贈れるようになったww)

(スッゲー不名誉なバズり方w)

(なんか面白いギフトが出てるなwww)

(よし、さっそくテーゼに投げるアイテムをイメージしようぜ!)

(みんな、イメージは固まったか?)


誹謗中傷が止まり、話題が変わる。


「何か、わたくしに贈ってくださるの?」


こんなに責めていても、やはりビビアンより私を選ぶのね。

ようやくここの人たちも私のモノになりましたわ。

お詫びとして贈り物なんてわかってますわね。

そう安心した次の瞬間。


(せーの!)


その文章が流れると、

突然、頭上に何かが落ちてきて目がチカチカした。


(ギフトアイテム【天罰】の効果エグいなw)

(ビビアンに今必要だったのは、妹テーゼへの罰だったってわけだww)

(8時じゃないけど全員集合して意思疎通バッチリだったなww)


最後に目に映ったのはそんな文章。

私はそのまま気を失った。



——ここは……?


私は暗闇の中で目を覚ます。

身体はなぜか動かなかった。


「もしかして、私は死んでしまったのかしら……」


不安と恐怖の中、頭は妙に冷静に動いている。


「これもビビアンへの嫉妬に狂った報いなのかしらね……」


昔からビビアンの噂は耳にしていた。

ビビアン様がいればロッソ家は安泰だ、とか

才色兼備で、まるで奥様の生き写しだ、とか


それに比べ私は

テーゼ様?まぁまだ幼いからなぁ、とか

ビビアン様と比べたら可哀そうだろ、とか

そんな話ばかり。


ビビアンは全てを持っていた。

私にはそう思えた。

人からの信頼に期待、美しさや賢さ、お母様との思い出まで……


私には何もなかった。

誰も見てくれなかった。

だから全てを奪おうと思った。


寂しかったから、1人はもう嫌だったから

ビビアンみたいに…私もみんなと一緒に……


お母様が生きていたら……

こんな私でも見てくれたのかしら?

ずっと私の心は真っ暗で、何も見えなかったのに……

誰も助けてくれなかった……

その暗闇に包まれながら、私の頬に熱い何かが流れるのを感じた。


ふと気付くと遠くから、かすかに私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


「テーゼ、テーゼ、大丈夫?」


女性の声?

お母様?


「テーゼ、しっかりして」


この声は本当にお母様なの?

私を心配してくれているの?


「お母様!」


私は起き上がり、叫ぶ。


「キャッ!ビックリした!

テーゼ、大丈夫?わたくしの部屋で何があったの?」


声の主はビビアンだった。


気付いた私はすぐに頬に流れた跡を袖で拭う。

私ったら、何を口走ってしまったのかしら。

ビビアンなんかをお母様だと勘違いした恥ずかしさと気まずさでいっぱいだわ。


「それにしても、何?この金タライの山……

 テーゼは何か知ってる?」


ビビアンのその一言で全てを思い出す。

腹が立つのと同時に、悔しくなった私は


「ビビアンのくせに……」


そう呟くと

私はビビアンの心配の声を振り払い部屋を飛び出した。


お読みいただきありがとうございます。


「面白いなっ」


「このあとが気になる」


と思いましたら、ブックマークか

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どうぞよろしくお願いいたします。

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