表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/58

第22話  テーゼ、そして潜入 ~~テーゼ視点~~

 ビビアンがどこぞの馬の骨と一緒に馬車から降りてきた瞬間を目撃してしまった。

道端で拾ったあんな男と一緒だなんて、どこへ行ってたのかしら。


それに、あのタロットカードのようなものは何?

何を話しているの?

ビビアンったら、侯爵の子息の次はあの馬の骨と変なカードに夢中のようだわ。

何がそんなに楽しいのよ。


婚約者を奪ってやったのに、どうしてそんなに幸せそうな顔ができるの?

ビビアンが顔を赤らめて照れている姿なんて初めて見たわ。

あんなに楽しそうにして……悔しい!!!!

はっ、いけない!こっち向いた!?

隠れなきゃ!



――夕食の時間

いつものようにお父様、ビビアン、私で食卓を囲む。

そこへ執事が夕食を運んでくる。


「こちら鴨肉のスパイシー焼きでございます。」


そう言いテーブルの上に丁寧に大皿を置いた。

暖かい料理のはずだが

切り分けられ目の前に運ばれて来る頃には少し冷めてしまう。

私たちの関係のように……。


「鴨は久しぶりだな。テーゼとこうして一緒に食事できるのもあと何日かしかないのか。」


私の気持ちとは裏腹に、お父様は寂しがっている様子。


「あら、お父様、そんな寂しいことおっしゃって、いやですわ。

わたくしいつでもこの家に帰ってきますわよ。」


もうすぐお別れですもの。

最後までいい子を演じてあげますわ。


「おいおい、侯爵邸からそんなに気軽に帰ってこられたら、わしが困るじゃないか。」


お父様はそう言いながら笑った。


どう、ビビアン?

わたくしはお父様のお気に入りなのよ?

あなたよりもずっとずっと可愛がってもらえてるんだから。


ふと見ると、ビビアンは黙々とお肉を食べ続けている。

まさか、聞いてないの?


「あら、お姉さまったらお話もせずにそんなにお肉を召し上がって、

よほどお腹が空いていたのかしら。」


私は嫌味たっぷりに言った。

ビビアンの手が止まる。


「やだわ、わたくしったら話をしてたなんて気が付かなかったわ。」


まったく聞いてなかったってことですの?

ビビアンのくせに私の話を無視するなんて。


「お姉さま、お腹が空くような出来事でもございまして?」


まぁいいでしょう。

なら私は馬の骨と何をしてきたのか上手く聞き出してやるだけですわ。


「ええ、そうですの。力仕事をしたのでお腹が空いておりましたわ。

もっと体力をつけなきゃ。」


予想外の答えに私だけでなく、お父様もポカンと口を開けた。


「「力仕事?」」


お父様と声を揃えて疑問を投げかける。

しかし、それ以上の答えは返ってはこない。

今までビビアンが力仕事などしたことはなく

私も含め、伯爵令嬢として恥ずかしくないように振る舞ってきた。

そんな最低限のプライドすら捨てたんですの?

哀れですわね。

こんなのが私の姉だなんて腹が立ちますわ。


「ビビアン、大丈夫か?失恋のせいで様子がおかしくなったのか?

静かな森の別荘で静養したほうが良いのではないか?」


こんな安い令嬢に成り下がったビビアンをお父様は心配するんですの?

あなたの理想の令嬢でいる私よりも、哀れなビビアンの方が心配なのかしら。

そんなの許せませんわ。

……そうだわ。いいこと思いついた。


「力仕事なんて言っていますが、お姉さまは、先日拾った殿方と馬車でお出かけしてらしたから、

そのせいでお疲れなのでしょう。」


私はすました顔で報告するとビビアンが驚いてこちらを見た。

驚いた顔は本当にマヌケね。

バレたら困るから隠していたのでしょう?


「お忙しくて大変ですわね。どこまで行かれたんですか?」


と私はダメ押しで付け加える。


「なんと、それは本当かビビアン!」


お父様が激高された。よし、そうこなくっちゃ。


「……本当です。何処かの誰かさんに見られたようですわね。

この家には、コソコソと隠れてのぞき見するノラ猫でもいるのかしら。」


あら、反撃してくるなんて

ビビアンのくせに生意気ですわね。


「開き直りか?

ビビアン、前に言ったはずだ。

お前にだってまた縁談はくると。

どこの馬の骨かもわからぬ者と逢引きは許さん。

おとなしくしていなさい」


そうですわ。負け犬は負け犬らしくしていてくださいな。


「お父様にとって、良い縁談とは何ですか?

ロッソ家の名誉を守るためだけの縁談でしたら、わたくし遠慮しますわ。

自分の嫁ぎ先は自分で決めたいと思います」


お姉さまってバカなのかしら?

ここは、素直に謝っておけば丸く収まるのに、怒っているお父様に反抗するなんて、

火に油を注ぐようなものじゃない。


「そうか、わかった。

そんなにこの家にいるのが嫌なら出ていけばいい。

お前をそんなふしだらな娘に育てたつもりはない。

もうロッソ家の娘とは思わん、今すぐに荷物をまとめて出ていきなさい。」


ほら言わんこっちゃない

でもここは、私の株を上げるチャンス!

演技力の見せどころね。


「お父様の決めたことなら例えお姉さまのことでもわたくしは何も申しません。

でも今すぐなんて無理ですわ。

お姉さまはトロいんですもの。

ここはひと月くらい時間を差し上げませんと。」


この姉思いで優しい妹の演技はどうかしら?

素晴らしいでしょ?


「テーゼ、お前は何て優しい子なんだ。

こんなビビアンに情けをかけるとは……」


そうでしょう?

これがお父様の望む子ですものね。


「お情けどうもありがとう。

ちょうどよかったですわ。

今までは、この家の評判を落とさないように

わたくしから出ていくことはしませんでしたが

お父様からそう言ってくださるなんて、感謝してもしきれません。

これで安心して出ていけますわ」


せっかく綺麗に終わらせてあげようとしたのに

またそんな煽るようなことを言って……

本当におかしくなったのかしら?


「ビビアン!いいかげんにしないか!」


私のせっかくの気遣いを無駄にして。

誰がお父様をなだめると思ってるのかしら。

面倒なんですのよ?


「では、家を出る段取りがありますので、わたくしはこの辺で失礼いたします。

あ、そうそう。

テーゼ、言い忘れてたわ。

結婚式には呼ばないでね。」


ビビアンは、そう言い放ち食堂から出ていった。

最後まで嫌味なことを……

絶対に全て奪ってやりますわ。

見ていなさい。


夕食を食べ終えると

私は使用人の部屋へ行き、ビビアンの動向を探った。

どうやら家を出るために、この時間から街へ買い物に行っている様子。


最近のビビアンの態度……

なんなのよ、あの余裕のある態度は。

面白くないわ。

きっと、あの馬の骨とタロットカードが関係してるはず。

今ならビビアンは屋敷にいない、部屋に忍び込めば何かわかるかしら?


ビビアンにできて私にできないことはないわ。

今までもそうしてきたもの。

絶対、タロットカードの秘密を暴いて、それを手に入れてやる。

その次はあの馬の骨よ。

そうすれば、今のビビアンのように楽しい毎日が手に入るはずよ。

ビビアンだけにいい思いはさせないわ。


お読みいただきありがとうございます。


「面白いなっ」


「このあとが気になる」


と思いましたら、ブックマークか

ページ下部の[☆☆☆☆☆]をタップして評価をしていただけると大変うれしいです。


どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ