第19話 楽しそうな彼、そしてパーティ結成
——夜。
私はギルドから屋敷に戻るとすぐに彼に話があるとマリアに伝える。
マリアもこのやり方に、だんだん慣れ
段取りを上手く取れるようになったようで
すぐに伝言が返ってくる。
そしていつものように中庭のガゼボで彼が来るのを待つ。
たまには私が待つのではなく、彼に待っていて欲しいのだけども……
いつになったらそうなるのかしら。
「ごめんなさぁい。お待ちになられました?」
少し小走りにガゼボに来る私。
「今来たとこだよ(イケボ)」
彼はウインクなんてキザなことやってみたり……
投げキッスさせてもいいかもしれませんわね!
私がキャーキャーと、一人でそんな妄想をしていると、
いつものように面倒くさそうな表情でガゼボにやって来る現実の彼。
「何か用事か?」
妄想の彼……カムバァァァァァァック!!
「装備を貸してくださってありがとうございました。
助かりましたわ。
おかげ様で冒険者登録できましてよ。」
私は彼に持っていた装備品を手渡す。
少し名残惜しいですわね。
「おう、よかったな。
ま、地道に薬草採集から始めてクエストに慣れたら
スライムとかで修行して、新しい世界を体験していけばいいさ。」
彼はニコニコと笑顔で話してくる。
クエストが本当に楽しいのだろう。
「あの……」
私は少し申し訳なさそうに割って入る。
「不安なのはわかる。俺だって最初の頃は苦労したもんだ。」
なかなか言い出せずにいる私を見て
彼は不安になっていると思った様子。
「えっと……」
すごく楽しそうに語り出す彼は止まらない。
「戸惑うこともあるかもしれないけど、
薬草採集してたらスライムが現われたりしてさ。
そんな予想外の出来事にも対応しなきゃいけなかったり……」
一生懸命、不安を払拭しようとしてくれていますわね。
申し訳ないですわ。
でもここは覚悟を決めないと。
「実は、もう初クエストはゴブリン討伐に決まりましたの。」
「俺の初めての戦闘はその時のスライムで……はぁ?!」
話の途中で彼は大きな声を上げる。
当然ですわよね。
「リスナーの皆さまが、クエストも初めてで戦闘経験もないのにゴブリンはキツイから
ここは彼に手伝ってもらえとおっしゃっていて……無理でしょうか?」
私は簡潔に説明する。
「意味わかんねー。
登録の仕方は教えるがクエストは手伝わないって言ったはずだぞ。」
まぁ当然そう言いますよね。
「そうですわね。
あなたでもゴブリン退治なんて難しいですわよね。」
残念そうに私は言う。
「誰がそんなことを言った?」
彼は少しムッとした表情をする。
その表情……可愛いですわ。
「わたくしです。」
スンとした表情で即答してみせた。
「その『わたくし』は、俺無しでゴブリン退治できると思ってたのか?」
なかなかに的確なところを突いてきますわね。
「そう思いましたけど、
リスナーの皆さまが、わたくしがゴブリンにやられて傷付く姿は見たくないと。
もしかしたら傷だらけになって、そこで配信も命も終わってしまうかもしれない、
それは嫌だと言ってくださって……」
ここで私は、反省の意味も込めて悲しい顔をする。
「それは……」
彼は少し悲しそうに黙り込む。
あら?意外な反応ですわ。
もしかして私をそんなに大切に思って……
「条件付きで参加してやってもいい。
俺は顔出しNG、常に配信の画面外で戦う。
いいな?」
考えの途中で彼の言葉に遮られ、
ハッとしてすぐに答える。
「う、嬉しいですわ!
さすがわたくしが見込んだ男!
まさに勇者ですわ!
拾われた陰キャのくせに勇者!
陰キャ勇者が私の中で大出世ですわ!」
つい憎まれ口を叩いてしまう。
「その褒め方、あまり嬉しくない。
陰キャ勇者が成り上がったところでどうなのよ。
お世辞にもかっこいいとは言えないだろ」
彼は不満そうに言う。
何はともあれ、見事に彼をゴブリン討伐に参加させることに成功した。
まぁ、何も考えず、相談も無しにクエストを受注してしまったことは
反省もちゃんとしているのですが……
彼には恥ずかしくて素直に言えませんわね。
その後、数日間は戦闘経験のある彼やギルドで教わり、
付け焼刃ではあるが最低限の戦い方を学んだ。
私は意外に飲み込みが良く、戦闘センスが良いと褒められた。
そして、武器にショートソード
防具にドレスアーマー、
採取用の短剣、回復薬などを入れるアイテムポーチなど
冒険者に必要な物をある程度準備し
私たちはゴブリンが出没する初心者用のダンジョンへ向かった。
いよいよ、初めてのクエストが始まろうとしている。
緊張がないわけではないですが、
今までにない未知の体験が待っているなんて
ドキドキやワクワクのほうが勝るに決まっていますわ。
何より……危険だとはいえ、彼と二人きりなのですから楽しみで仕方ないの。
だんだんと目的の洞窟が近付いてくる。
それなりに歩いたはずだが、到着しても疲れは感じなかった。
「ここが指定された洞窟……初心者用ダンジョンですわね。
それじゃ早速、しゅっぱーつ!ですわ!!」
私たちは
その一声とともに、二人で洞窟へと入った。
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