第18話 報告、そして甘い考え
配信を始めた私はいつもの挨拶をする。
「皆さま、ごきげんよう!ビビアンです。」
高揚した気持ちを上手く抑えつつ
御者とセバスチャンに聞こえないように小声で話す。
セバスチャンは、配信のことは知っているけど、
クエストの話を聞かれたら絶対に止められる。
私はかぶっていたフードを取り、話し始める。
「聞いてくださる?
今日はわたくし、初ギルド体験でしたのー!!」
(マジか!おめでとう!)
(ビビアン、いつもと服装が違うーーーー!)
「これですか?
伯爵令嬢がドレスで冒険者登録なんてしに行ったら
大騒ぎになるからって、
彼がお古の装備を貸してくれましたの」
私は髪を解きながら説明する。
(ええええ!!モブが貸してくれたの?)
(優しいじゃん、モブ)
「ぜーんぜん優しいとかじゃなくってよ?
気まぐれとかじゃないかしら?
貸してくれたのはいいのですが、彼の匂いに包まれてなんだか…
あ…いえ…な、なんだかこの装備……汗臭いですわ!!」
途中でハッと気付き
取り繕うようにクンクンとわざとらしくにおいを嗅ぐ私。
(なんて幸せ者なんだ。モブって【嫉妬】)
(男物をだぼっと着こなすビビアンもかわいいね)
(解く前の髪型もかわいかった!)
髪型について触れられ
「髪型は…彼の好み……
いえ……ついんてぇるというのをせっかく知ったので、し、仕方なくですわ!!」
と二度目の墓穴を掘り、照れながら早口で話す私。
(何!?なんて奴だ。好みの髪型にしてもらえるなんて……爆ぜてしまえ【泣】)
(ツインテール!いいねぇ♪俺ツインテール好き~)
リスナーさんは思い思いの感想を伝えてくれた。
「それでは本題に移りますが、皆さま!
わたくしは本日、無事に冒険者登録できましたーー!」
私は話題を元に戻す。
大きい声が出そうになるが、慌てて小声にボリュームを絞る。
(すごーい、緊張しなかった?)
リスナーさんからの一言に、
一瞬言葉に詰まるが
「緊張?わたくしの辞書に緊張なんて言葉はございませんわ。」
と、私は自信満々に言った。
でも本当は嘘ですわ。
ものすごくしましたわ。
だって心を読めそうな受付がいたのよ?
周りはムッキムキの男性がほとんどなんですのよ?
しない方が無理ですわ。
でもカッコつけてみたかったんですの!
と心で言い訳の呪文を唱える。
(さすがビビアンw)
(これでいつでもクエスト受けられるね!!)
クエスト。
その言葉に、にやりと笑いながら
「実はわたくし、もうクエストも受注してきましたのよ!!」
再び大きくなりそうになった声を抑えながら話す。
(はっやw)
(行動力の塊かよww)
(何受けてきたの?初めてだし、薬草採取辺りが無難なとこ??)
リスナーさんが予測を立て始める。
「では発表いたします。」
私はもったいぶって一呼吸おいた。
「ビビアンの部屋特別企画!
初めてのクエストはゴブリン討伐に決定いたしました!!!」
私は声を抑えながらも、テンション高めに発表した。
しかし……
(え?電波悪くて変な音声入った?ゴブリンって聞こえたわw)
(まさか、初のクエストで討伐クエスト受けるわけないよなw)
リスナーさんからの反応が悪く
私は少し残念に思いながら
「あら、いけませんの?」
とリスナーさんに尋ねる。
(あのね、ビビアン?クエストに慣れてないし、戦闘も経験のない状態で
立ち回りや予想外の事態とか考えるの大変じゃない?)
(疲れも出るから体力配分なんかも考えなきゃだし)
(俺たちモンスター退治は見たいけど、ビビアンがやられるところは見たくないよ?)
(ゴブリンってどんなやつか知ってる?)
立ち回り?予想外の事態?そんなこともあるんですの?
私は頭の上にハテナをたくさん浮かべながら
「ゴブリンについては存じ上げません。
けど、下級のモンスターだということだけは書いてありましたのでわかってますわ。」
そう答える。
討伐ってそんなに考えることがありますの?
行って倒して終わりじゃありませんのね。
(あー……下級モンスターは正解だけど、ゴブリンは初心者向きじゃないよ)
(ずる賢いし、意外と素早いし、複数体を相手にすることになるはず)
(モブならもう慣れてるかもだけど)
小説などで、いろいろな世界を見ているリスナーさんからの指摘は的確で
なおかつ私を本気で心配してくれているのが伝わってきた。
「わたくしでは無理でしょうか……?」
少し残念そうに言う。
(んー、ならさ!モブと二人で戦えば?そしたらビビアンは安全確保しやすいし、
クエストもきっと達成できるんじゃない?)
(ビビアン『は』安全確保しやすいとか、モブが生贄になってて草)
(でも本当にモブなら前からクエストしてるし、そこら辺も慣れてるでしょ!)
(まぁ何かあったら盾にしてビビアンだけでも逃げてこれるしw)
(体のいい肉壁ww)
確かに、クエストは手伝わないと言っていた彼も
危ないとわかれば手伝ってくれるかもしれない。
「なるほど、名案ですわ!」
私は目を輝かせて指をパチンと鳴らす。
(そうそう!いいアイデアだと思うの!)
(今日の夜にでもモブのところへ行ってきなよ!)
帰ったらすぐにマリアに伝えないとね。
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