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第17話 ギルド登録、そして叩きつけられたクエスト

 彼に冒険者登録の話を聞いてから数日後の早朝。

私は馬車に揺られギルドへ向かっている。


「お嬢様、身元がバレないようにくれぐれもご注意ください」


セバスチャンに言われて、

もう一度私は自分の身なりを確認した。

彼から借りた彼のにおいの付いた装備を身にまとい、

いつもの縦ロールではなく、

髪を二つに分け、頭の高い位置で結う彼の好きな『ついんてぇる』という髪型にし

マントのフードを深くかぶっている。


「この変装なら大丈夫じゃない?あとは、言葉使いかしらね」


足元の方へ視線を落とし

マントをひらひらさせながら言う。


「まぁ、そうですね。

あまり必要以上にお話にならない方がよろしいかと。

それにしても……ちょっと汗のにおいがきついのでは?

お戻りになられましたら、すぐに湯浴みの準備をさせます」


セバスチャンは、しかめ面をしながらハンカチで鼻を覆った。

そんなに臭いかしら?

でも、かえって好都合だわ。

それだけの汗臭さなら、誰も私を領主の娘

ビビアン・ロッソだとは思わないでしょう。


そうこうしているうちに目的地が近付く。

セバスチャンは御者に言い、

ギルドから少し離れたところに馬車を停めさせた。


「ここからはお一人で大丈夫ですか?」


セバスチャンは心配そうな表情で

声をかけてくる。


「心配には及びませんわ。

帰りは少し歩くから、セバスチャンは街の入り口で待つように」


早朝である今は

まだ人がまばらだが、

さすがに冒険者登録が終わる頃には人も増え

馬車なんて目立って仕方ない。


「かしこまりました」


私は馬車から降りて、ギルドへ向かう。

ここから私は一人で歩いていくのね。

馬車から降り、歩き出したその一歩が自分の人生と重なる。


今までこんな好き勝手に出歩くなんて、

家のことを考えると出来なかった。


でもやっと自分の足で、好きな道を歩んでいけるのだわ。

誰かが作った道を歩かなくてもいい。

今の私は、ドキドキとワクワクが止まらない。


高揚感からか足取りは軽く、すぐにギルドに到着した。

入口の前に立ち、扉を見つめる。

この向こうで待っている運命は、幸か不幸か……

気持ちは高揚しているが、不安や緊張がないわけではない。

私は勇気を振り絞り扉を押す。

扉は思った以上に軽く開き、とうとう私はギルドにその第一歩を踏み入れる。


ギルドの中には早朝にも関わらず様々な人がいた。

筋骨隆々の人、細身だがベテランの佇まいの人、

まだ駆け出しでたどたどしい人、

背格好や立ち振る舞いだけでもそれぞれだ。


そんな人たちの奥には彼が教えてくれた通り『冒険者登録受付窓口』というものがあった。

受付窓口には女性が座っていて、じっとこちらを見ている。


何ですの?入った瞬間から私を見てるなんて。

怪しい者ではありませんわ。

ましてや伯爵家の令嬢でもないですわ。

ハッ!もしや私の心が読めるんですの!?

だとしたらこんなことを考えてたらマズいかしら!?

……いやいや、そんなことあるはずありませんわ。

バレてない、バレてない、大丈夫だから、がんばれ私。


「あ、あの、冒険者登録をしたいんですけど。」


私は少し遠慮気味に声をかける。


「あ、冒険者登録ですね。

こちらの紙に名前と必要事項を記入してください。」


受付嬢は、別に疑うわけでなく慣れた口調で事務的に答えた。

大丈夫とわかりつつも

拭えない不安と緊張で申込用紙に書き込む手が震える。

震えながら書いた文字を見ながら受付嬢は言った。


「ビビアン・ロッジ様?

伯爵家のビビアン様と同じお名前なんですね。」


私はビクッとして

「よく言われます。」と取り繕う。

さすがに本名だとマズいので、名前は偽名を使った。

『ソ』を『ジ』に変えるだけだが、これだけで本人だとはバレないはず。

呼び方はビビアンのままなので呼ばれて気付かないなんて事故も減る。

なんて天才的な発想!自分が怖いですわ。


「では、登録でき次第お名前をお呼びしますのでしばらくお待ちください。」


登録が無事に終わりそうで胸を撫で下ろす。

待っている間に、クエストボードを見てみることにした。

昨夜、彼が言ったように初心者向けの依頼書がいくつか貼ってあるのが確認出来た。

初心者は薬草採集とかドブ掃除などから始まると言っていたけど、本当みたいね。

薬草採集?ドブ掃除?

私がこんなことをするなんてありえないわ。

第一、これじゃ配信にならないじゃないの。

せめて、お手軽に退治できる弱いモンスターとかいないのかしら?

あら?これなんてよさそう。

などとブツブツ独り言を言ってると、


「ビビアン・ロッジ様、お待たせいたしました。

こちらがあなたのギルドカードです。

登録したての方はFランクからのスタートになります。

お仕事は、あちらのクエストボードから……」


「これに行きます!お願いします!!!」


私はさっき見つけた依頼書を、受付嬢の前に叩きつけた。



——外に出て、セバスチャンが待っている馬車まで急ぐ。

ギルドでのことを、早くリスナーさんに伝えたい、誰かと情報を共有したいと初めて思った。

私の顔はきっとにやけてだらしなくなっていたと思う。

馬車に着く手前で表情と息を整える。


「お嬢様、大丈夫でしたか?」


馬車に着くと心配した声色でセバスチャンが話しかけてきた。


「全然問題ないですわ。

 全て上手くいきました。

それとセバスチャン、

申し訳ないけど馬車の中ではなく御者の隣に座ってくれる?」


セバスチャンは一瞬戸惑いの表情を見せたが


「…………かしこまりました」


と言い、

不服そうではあるものの、どうやら察してくれたようで

私を馬車に乗せ、セバスチャンは御者の隣に腰かけた。

馬車はゆっくりと動き出し、ガタガタと揺れ始める。

それと同時に私は配信ボタンを押した。


お読みいただきありがとうございます。


「面白いなっ」


「このあとが気になる」


と思いましたら、ブックマークか

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どうぞよろしくお願いいたします。

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