第14話 心配、そしてデリカシー無し男
「お嬢様、もう日が落ちました。そろそろ窓を閉めないと、風邪をひきますよ」
彼はまだ帰って来ない。
「そうね」
彼はいつもなら夕方にはまた中庭を通って帰ってくるのに、
今日はまだ姿が見えない。
もう日は沈んでますわよ?
もしかしてクエストで怪我でもしたのかしら……。
「さ、窓を閉めますよ。夕食は食堂でおとりになりますか?」
もし怪我をしていたら?
そのせいで戻って来れなくなっているとしたら?
「そうね」
私は冒険者登録の仕方を彼に教えてもらいたいのに、
こんな暗くなっても帰ってこないなんて。
やはり、剣術の初心者だからモンスターにボッコボコにされたのかもしれないわ。
どうしましょう……
「お嬢様、夕食はお部屋がよろしいですか?」
もう夕食の時間なのにまだ帰って来ないなんて……
「そうね」
どうしましょう……
「お嬢様?……心ここにあらずですね。夕食は食堂にいたしましょうか」
探しに行った方がいいかしら?
もしかしたらどこか暗い洞窟の中で
一人助けを待っているかも……
「えっと……これは私の独り言ですが、
あの使用人はお昼過ぎには帰ってきております」
ねぇ?あなたは今どうしているの?
「そう……」
私はマリアの一言でハッと我に返る。
「なんですって!?なぜそれを早く教えてくれないの!」
お昼過ぎ?
そんなに早く帰ってきていたなんて。
心配し……てなんかいないわ!
日課が出来なくて寂しいとかもないから!
「今のは独り言ですから、あくまでも」
一通り心の中で言い訳論争を繰り広げた私は
マリアの言葉にコホンと咳払いをして冷静を装う。
私の辞書にはもう手遅れなんて言葉は
載っておりませんの。
「マリア、どうしても彼に会って確認しなければならないことがありますの。
上手く取り次いでくれないかしら?」
セバスチャンに以前言われた通り
マリアを通じて連絡をとる。
「お食事はちゃんととってくださいね。
夕食の準備のついでにセバス様に伝えに行きますから」
さすが私の侍女、個人的にお給金を倍にしたいわね。
リスナーさんが言うところの棒茄子ってやつですわ!
……なんか違う気もしますが、まぁいいでしょう。
——マリアが言うには、夕食をとったら中庭のガゼボに来てくださいとのこと。
さすが自慢の従者に侍女ですわ。
仕事が早くて助かります。
私は鼻歌交じりに髪を整え、待ち合わせ場所に向かった。
ただギルドのことを聞くために会うのに
どうしてこんなにドキドキしているのかしら。
前もこうだったわね……
もしかしたら、胸の病気なのかもしれないわ。
高鳴る鼓動を落ち着かせるため、胸を押さえながらそう思った。
それともこれが恋っていうものなのかしら……まさかね。
セバスチャンがおすすめするガゼボの中で
そわそわしながら彼が来るのを待つ。
火照った頬を夜風で冷やしながら星空を見上げると、
満天の星空が瞳に映る。
「こんなにも綺麗だったのね」
今までは心に余裕がなく、
こんなにゆっくりと夜空を見上げることは出来なかった。
彼が来てからいろんなことを知り
少しだけ心が自由になった気がする。
「本当に…感謝していますわ」
そんなことを考えていると足音が近づいて来る。
コツコツコツ……
きっと彼の足音。
クエストで疲れているのに来てくれたのね。
さっき口にした言葉が急に恥ずかしくなり
ぶんぶんと頭を振り、気持ちを落ち着かせる。
彼が来るのを今か今かと待ちわびた乙女の気持ちは
いつもの黒いぼさぼさ頭をかきながら面倒くさそうに発した
その第一声により打ち砕かれる。
「今度はなんだ?
まさかまた配信中じゃないだろうな?」
乙女の気持ちがぱっかーんですわ。
まったく相変わらず生意気な言葉使いですこと。
確かに先日は配信切り忘れるという失敗をしましたけど、私だって学習しますわ。
「ご心配には及びません。
スマホはちゃんと鍵付きの箱に入れてきました」
私は胸を張り答える。
「で、その鍵をなくしましたぁ、とか?」
彼は、乙女の夢見る時間を一瞬でぶち壊すだけじゃ飽き足らず
私に向かって、無礼な発言を重ねるなんて……
さっきまでドキドキしていた自分が恥ずかしい。
「会っていきなり、わたくしをバカにするなんて、あなたも偉くなったものね。」
私を怒らせたら怖いんですのよ?
どうやらわかっていないようですわね。
「いろいろ誤解するやつもいるんだから、ちょっとは空気読め。」
空気を読まないのはどちらかしら?
もういいですわ!
最終兵器を使うしかありませんわね。
「そんなの誤解させておけばいいんですの。
もういいわ。
あなたに相談しようとしたわたくしが愚かでした!帰ります。
そしてあなたは明日からご飯抜きです」
「すいませんでした。許してください。俺が悪かったです。ごめんなさい」
……こんな光の速さで謝罪されたのは初めてですわ。
ですが、私の心はこんなものじゃ癒えません。
「何それ、心がこもってないわ。」
もう少しだけ意地悪しちゃいます。
「……も、申し訳ございませんでございました。ビビアンお嬢様。」
変な言葉ですが……
まぁこんなものでしょう。
「別に、よろしくってよ。」
私はにこりと笑って返した。
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