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第12話 日課、そして変化

 毎朝、決まった時間に部屋の窓から中庭を見下ろすことが日課になっていた。


そろそろ、彼がクエストに向かうために、

この中庭を通る頃だわ。


あっ!見えた。


口にパンをくわえたまま走ってきた。

彼の使用人としての仕事は朝の掃除。

それをこなしてからクエストに向かうのだけど、

今日は仕事が長引いて時間がないのかしら?

クスッ。

彼が慌てて走っていく姿がおかしくて笑ってしまった。


コンコンとノックが聞こえる。

入るように促すとマリアが入ってくる。


「お嬢様、おはようございます。

今朝もあの使用人をお見送りできましたか?」


バレてる!?

いや!落ち着きなさいビビアン!

ここに立っているのはそんな理由じゃないわ!

そう自分に言い聞かせる。


「い、いやだわぁ、マリアったらそんな勘違いして。

えーっと……そう!

わたくしは毎朝、外の風景が見たくて窓辺に立ってますのよ?

あらまぁ、今日も霊峰ヘブンズ・ドアは美しいですこと」


苦しい言い訳だった。

マリアはふふっと笑いながら話題を変えてくれる。


「でもヘブンズ・ドアにはとんでもない魔物が棲んでいると、古くからの言い伝えですよ?

 なんでも姿を見た者は……」


マリアが何かを話しているが途中から耳に入って来ず、

私は彼が中庭から表門に向かい見えなくなるまでの間、彼の姿を必死に目で追った。

彼が表門への角を曲がり見えなくなる。

いってらっしゃいませ、今日もご無事で。

心の中でそっと祈って、私はマリアに向きなおした。


「で?魔物がなんでしたっけ?」


マリアから小さなため息が漏れる。


「……お嬢様、もうよろしゅうございます」


——お天気も良くて清々しい気分だわ。

今日は部屋の前で、マリアが繕い物をしてくれると言うので、配信を始めた。


「皆さま、ごきげんよう!【ビビアンの部屋】へようこそ!」


(おはよう!)

(え、今日は早いじゃん)

(早いとか言いつつみんな爆速で来てて草)

(今、電車の中で見てます!通学途中です)

(俺は電車乗り遅れた。遅刻確定)

(ビビアンの配信…もう仕事終わった気分だし帰るか…w)

(働け社畜www)


「あら、ごめんあそばせ。皆さまお仕事したり学校に通ったりしているんですのね」


(俺は通勤の途中。勤務先は……ブラック企業だけど)

(みんなが学校や仕事に行ってるとは限らないよ)

(私は主婦だから家で家事してるよ!)

(ボクは学校の記念日で休みだから引きこもってますけど、何か問題でも?)


そういえば、私はリスナーさんたちのことを何も知らない。

リスナーさんがいる世界は彼がいた世界だもの、どんな世界か興味あるわ。


「わたくし、小さなころから家庭教師がついていて学校に通ったことがありませんの。

ここでは学校といえば、女性は修道院、男性は騎士学校とかありますけど、

皆さまの学校ってどんなことをするんですの?」


(どんなって、私は普通に国語、数学、理科、社会とか勉強してるけど)

(俺もそうだな。どこも対して代わり映えはしないと思うよ?)

(ビビアンの世界には騎士学校があるのか!かっけぇ!)


国語?理科?よくわかりませんが、

こちらの世界と違って

どうやら男女ともに同じような学校に通っているようですわね。


「男性も女性も同じ学問ができますのね。素晴らしい世界ですわ」


この世界では、男性なら立派な騎士になれるように剣術を、

女性ならば素敵な淑女になれるように礼儀作法や品格を、学校や家庭で学ぶのが一般的。

彼は学校で向こうの世界で何を学んでいたのかしら。

ん?そういえば……


「ところで皆さまの世界では、剣や弓の扱い方の教育も受けませんの?」


ふと気になったことを聞いてみる。


(ないよーそんなの)

(だいたい、こっちには騎士なんていないからな)

(剣なんて持ってたら、銃刀法違反で捕まっちゃうしなぁ)

(まぁ近いので言うと、剣道とか弓道だろうけど…みんな習うわけじゃないよ)


私は少し考え、言葉を繋げる


「ギルドへ連れて行けと騒いでいた彼は、剣術の経験がない……ということですの?」


ずいぶんと楽しそうにしていたから

てっきり腕に自信があるのかと思っていましたわ。


(小説で読んだことあるけど、ギルドでは初心者向けに剣術を教えるとこもあるみたいだよ)

(そこで鍛えてもらってクエストに行くのか)

(なんで、うちらの方が詳しいわけ?w)

(お嬢様がギルドのことなんか知るわけがないんだよなぁww)

(普通は貴族が依頼出す側なんだろうしw)


なるほど。

そんなのもあるのね。

全くの初心者のくせに冒険に行くとか息巻いていたとは、なんというおバカさんなのかしら。

だからあんなに朝早くギルドに行ってたのね。

剣術を習ってからクエストに向かっていたということなら納得ですわ。

誰にも知られないように努力していたなんて、私ったら何も知らなかったわ。

意外と努力家なのね。


(ビビアンの世界では、モンスターとか出るの?)

(モンスターを見たことは?)


今度はリスナーさんからの質問がくる。


「モンスターは、特定の森や遺跡、洞窟なんかに行けばいるらしいですわ。

人里にはめったに出ないですけど、たまに出てくると討伐依頼をしますの。

わたくしは残念ながら見たことがございませんわ」


彼が戦っている相手。

そう思うと少しだけ興味が出てくる。


(モンスターってなんか熊みたいだな)

(熊なんかと一緒にすんなw)

(そういえばさ、ビビアンは冒険者登録とかしてないの?)


リスナーさんのコメントに私は首をかしげる


「わたくしがですの?貴族の令嬢が登録してるなんて聞いたことがありませんわ」


噂話や足の引っ張り合いが好きな貴族界隈で

令嬢がモンスター討伐なんて野蛮なことをしていれば

すぐ全貴族に知れ渡るはずだが、そんな話を聞いたことがない。

つまり本当にそんな人はいないということだ。


(そうなの?読んでる小説にストレス発散のために登録してクエストに行く、とかあったからさ)

(あくまでも小説じゃねぇかw本物は違うに決まってるだろ?w)


ギルドやクエストの話で盛り上がるリスナーさん。

その中の一つのコメントが私の目に止まる。


(家のストレスもあるし、ビビアンもこっそりモブと一緒にクエスト行ってそうじゃん!w)


彼と…一緒……?

その素敵な響きに私は心を揺さぶられる。


(クエストなんて二人きりだろうし、家から離れていい息抜きになるだろうからさ)


二人きり!?

私の脳内に妄想が広がる。

彼と一緒にクエストに行って…彼と一緒にお昼…

そして彼のピンチを颯爽と助けて……


こうして私は妄想の海へと沈んでいった。


お読みいただきありがとうございます。


「面白いなっ」


「このあとが気になる」


と思いましたら、ブックマークか

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どうぞよろしくお願いいたします。

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