第11話 初めての本音、そしてリスナーの支え
部屋に着くと私はすぐさまスマホをセッティングする。
ロッソ家での鬱積した気持ちは、ライブ配信で発散するのが一番。
(こんばんはー)
(お邪魔しまーす!)
(待ってました!よろしく!)
「ごきげんよう!ビビアンです!!皆さま、いらっしゃいませ!
今夜も楽しいひとときをわたくしと共に過ごしましょう!!」
夕食後の決まった時間、毎日配信しているのがリスナーさんにも定着してきたようだ。
一斉に入室してきてくれる。
お父様や妹なんて
私にはもう関係ないと思おう。
今の私には配信があって、そこにはリスナーさんがいてくれるから。
ありのままの私を受け入れてくれる居場所がここにはある。
「今日は久しぶりに自分の部屋から出て、食堂で食事してきましたの!
あの事件があってからだから、一週間ぶりくらいかしら?」
入ってきてくれたリスナーさんに
今日のことを報告する。
(マジか!?よく頑張ったね!)
(あんなことがあったら、私なら一生出れなさそう)
そんな話をしている間にもどんどん入室者は増えていく。
(こんにちはー)
「今、夜ですわよ?」
私はツッコミを入れる。
(なら…おはこんばんにちわ!)
「何それ!クセが強すぎですわ!」
リスナーさんのコメントを読みながら、
私は笑ってしまった。
そんなやり取りで気持ちが落ち着いてきたからか
「わたくしの枠に来てくださって本当にありがとう。」
リスナーさんたちに明るく迎えられ嬉しくなった私は胸が熱くなり
感謝の言葉を伝える。
(どうかしたの?ビビアン?)
(目が潤んでるみたい)
(泣いているの?)
優しいコメントに癒され
気持ちが緩んでしまった
「わたくしが泣いている?そんなことないですわ。
わたくしは今日も元気いっぱいですの!!」
心配をかけないように
精一杯元気に強がって見せる。
(なんかビビアン無理してるっぽい)
(何かあったのなら話を聞くよ?)
(俺たちでよければ話してくれ)
しかし、リスナーさんには見透かされている様子。
家族ごっこの食卓から逃げるように自分の部屋に戻り、
私はリスナーさんたちに安らぎを求めるように配信を始めた。
配信中は、明るく楽しくをモットーにしているが、
リスナーさんたちに気付かれるほど、私の心は疲れていたのかもしれない。
心配してくれるみんなに促され話し始める。
「妹のテーゼの婚約が整いまして、本当はおめでたい話なんですけど……」
私は食卓での出来事を説明していく。
(くっそムカつく妹だな)
(今まで、ビビアンはどれだけ妹に盗られたんだよ…)
(ぬいぐるみに服だろ?楽器、友達、それで今回は婚約者にウェディングドレス?)
(どうしてビビアンのモノ奪うのかな?)
(お姉ちゃんのことが羨ましいとか……?)
「はい!愚痴はおしまい!あースッキリしましたわ。おバカな家族劇場でした。
皆さま付き合わせてしまい申し訳ありませんでした。」
悩み事は誰かに話してしまえば、気持ちが軽くなる。
例えそれで何も解決しなかったとしても、解決したような気分になる。
「考えてみれば、かわいそうなところもあるんです。
テーゼを産んで体調を崩しお母様は亡くなりました。だからテーゼにお母様の記憶はありませんの。
わたくしとお父様だけが知っているお母様の姿形、優しい声。
それが羨ましいのかもしれないわ。
わたくしも、もう少し寄り添ってあげられるとよかったのですけど。
なかなか上手くいかないものですわね……」
私は冷静にテーゼの立場に立って改めて考えた。
その時だった。
コツコツと足音が近付きこの部屋の前で止まる。
誰も入らないようにとマリアに部屋の前で待機してもらっているが
マリアともう一人、男性の声が聞こえてきた。
誰?
……この声はお父様の執事?
お願いマリア、上手く追い払って。
(急にどうしたん?)
(ビビアン、お話しやめちゃった)
私は、画面に近づいて小声で状況を説明した。
「今、お父様の執事が部屋の外に来てるんですの。
だから、大きな声を出したらヤバいんですの」
(ヤバいってwそんな言葉どこで覚えたのビビアンww)
(俺らの影響だろ?w)
(これは…俺たちも言葉遣いに気を付けないとビビアンに悪影響ですわ!)
(うっわ…きもっww)
(ふざけてる場合か?これは、配信がバレたら大変なことになるパターンやろ?)
(親フラじゃなくて、執事フラだな)
(言いにくくね?執事フラって)
思いがけない執事の登場にコメント欄は盛り上がっている。
「執事フラってなんですの?」
そんな中で聞き慣れない言葉が気になり小声で聞いてみた。
(フラグ、旗の意味だよ)
(例えば、配信中に急に親が入ってきたりした時には『親フラだ!』とかって使うよ。)
(親の声や会話の内容が聞こえないようにミュートにしたり、いろいろ大変なのよ)
なるほど。と声を出さずに何度も頷いてみせる。
(ビビアンの食卓での話的にこの状況はまずいね。入ってこない?)
(でも本物の執事見てみたいw)
(おま…ビビアンの一大事なんだぞ?…俺も見てーよw)
(私だって見たいとか……ほんの少ししか思ってないもん!w)
皆さまは執事を見たいようですが
さすがにその願いを叶えてあげることは出来ませんわ。
私は、しばらく声を殺して廊下の様子をうかがっていた。
「体調の優れないお嬢様に何かあった時のため、常に備えております」
マリアが落ち着いた声で執事に答えている。
私の部屋に彼が出入りしていないか確認するように、お父様が執事に指示したのね。
「そうか、するとこの部屋に不審な者が出入りしていることはないのだな」
執事は低く鋭い声でマリアに聞き返す。
「はい、ございません。神に誓って」
マリアよく言ったわ。
「そうか。
ならば誰かがここの周りをうろつくようなことがあれば知らせなさい」
コツコツと足音が遠ざかっていく
どうやら部屋から離れて行ったようだ。
「もう大丈夫のようですわ。皆さまごめんなさいね」
(こんなのあるあるだから大丈夫だよ!)
(しかし、執事が現れるなんて、【ビビアンの部屋】じゃないと体験できないね)
(ほんまもんの執事、見たかったな)
(執事フラ、スリル満点だった)
(どうする?ビビアン、またバズるかもよw)
「皆さまもこんな経験をしながら配信していますの?
わたくしだったら、執事フラが続いたら神経がすり減ってしまいますわ。
別にバズるなんて期待してないんですの…少ししか」
(あっwこうしてまた私たちのことを吸収していくのねww)
(これは本格的に気を付けないといけないか?w)
(お嬢様なのにこの方向性でいいの?www)
コメント欄は笑いに包まれる。
リスナーさんとやり取りをしているこの時間はとても充実している。
いつまでもこの時間が続けばいいのにと、心から願った。
お読みいただきありがとうございます。
「面白いなっ」
「このあとが気になる」
と思いましたら、ブックマークか
ページ下部の[☆☆☆☆☆]をタップして評価をしていただけると大変うれしいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




