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第10話 家族ごっこ、そして姉妹戦争

「婚約破棄されて傷心のビビアンお嬢様は、

今日もお部屋に引きこもっていらっしゃる」


召使たちの間で、こんな話がまことしやかに囁かれていた。

ここ一週間、私は食事を部屋に運ばせて食べていたから、

食卓で家族と顔を会すこともなかった。


さぞ憔悴していることだろうという皆の心配とは裏腹に、

私は毎日が楽しくてしょうがなかった。

配信しているとリスナーさんといろんな話ができるし、

素のままの私を出しても受け入れてもらえる場所が

配信だったから。

引きこもりながら、実は元気に過ごしていた。


私の事情を知っているのは、従者のセバスチャンと侍女のマリアだけ。


「お嬢様、夕食のお時間です。お部屋に運んでもよろしいでしょうか?」


いつもの通り、マリアは配信の邪魔をしないように扉の外から声をかけてきた。


「そうねぇ、今日はとても気分がいいわ。食堂に行こうかしら」


毎日の配信でリスナーさんとたくさん話し、たくさん楽しみ

十分な気分転換が出来た私はマリアにそう伝える。


「えっ!お嬢様……今日はなんて素敵な日でしょう。

お嬢様が食堂で召し上がるなんて!」


そこまでのこと?

マリアにもずいぶん心配をかけていたみたいね。


「大袈裟ね、マリア。ちょっと食堂に顔を出すだけじゃないの」


私は大したことなかったのだけど、

まぁ婚約破棄なんて普通はよっぽどのことですものね。

そんなことを考えていると。


「あの一件から、同僚のセシリアもビビアンお嬢様のことをとても心配していたのですよ。

セシリアはテーゼお嬢様のやり方にはとても我慢が出来ない、最近は特に!って、

わたくしに言いますもの」


セシリアというのはマリアの同僚で、テーゼのお付きの侍女だ。

たびたび私にちょっかいを出してくるテーゼに呆れて、私のことを心配してくれる。


「セシリアったらマリアにそんな愚痴をこぼしていたの?

みんなに心配をかけてしまったわね」



***



いつものように食事は部屋で摂るだろうと、マリアは準備してくれていた。

しかし急に「食堂で」と言ったため

準備が整うまで、少し時間をおき、遅れて食堂へ入る。

すると食堂から

お父様とテーゼの和やかな笑い声が聞こえてくる。


「そうか、そうか、カルロ様はそんなにお前にぞっこんなのか」


カルロですって?そういえば、そんな婚約者が私にもいたわね。

テーゼは私から奪った婚約者の話を、いい部分だけ切り取ってお父様にしているみたいね。


「おお、ビビアン。体調はもういいのか?

あれからずっと部屋にこもりきりで心配してたぞ」


心配?

そんな雰囲気は微塵も感じませんでしたが?


「お父様、心配かけてごめんなさい」


まぁ実は元気ですし、別にいいんですけどね?

それにしても、テーゼの視線が痛い。


「あらぁ、お姉さま、無理なさってはいけませんわ」


そのセリフの裏は、まだ部屋に引きこもってなさいよという意味ね。


「あまり体調がすぐれないなら、別荘に行かせて静養させようかと思っていたのじゃが、

要らぬ心配だったかな」


と、お父様は言う。

気遣いは嬉しいけれども、別荘に行ったら彼に会えなくなるじゃないの。

それだけはご免こうむりたいわ。


「お父様、ご心配ありがとうございます。

でもわたくしはいたって元気ですから」


私はそう言って、食卓の椅子に座った。


「カルロ様って、食べ物の好き嫌いが多いんですのよ、お父様」


お姉さまの体調を心配しているはずのテーゼは、カルロの話題にすぐ戻した。

私が座った席の目の前で、その話題を続けるのはわざとなのでしょうね。

どこのお姉さまの体調を心配しているのかしら?


「わたくしね、結婚式は豪華にしたいの。だって、カルロ様はヴィスコンティ侯爵のご子息ですのよ?

ちょっとぐらい豪華にしていいですわよね?」


「ちょっとぐらい?思いっきり豪華にしなさい、テーゼ」


私だって豪華絢爛な結婚式にするつもりだった。

親が勝手に決めた婚約者とはいえ、私は侯爵の子息との結婚式を楽しみにしていた。

……幸せなはずだった。


「お姉さま、ごめんなさいね。急にお姉さまの『元』婚約者様が私と婚姻を結びたいとおっしゃってきて

お父様も私も混乱しておりますのよ?」


と、夕食の最中に妹は『元』を強調して言い放つ。


私が着ることになっていたウェディングドレスは、テーゼが着ることになった。

昔からテーゼは私からたくさんの物を奪っていく。


お父様は侯爵家と婚姻関係を結べればいいだけ。

結ばれる相手が私だろうが妹だろうが関係ない。

混乱なんてするはずがないのに……

相変わらずセリフ選びは下手ね。


「お姉さまはスリムな体形でしょう?

だからこのウェディングドレスは、

私にはきついって言いましたのよ?。

だけど、着てみたらぜーんぜん余裕でしたの。

あー、よかったわ。ドレスが無駄にならなくて。」


何よ、私が太っているとでも言いたいの?

余裕でしたの。が気に入らない。


テーゼを産んですぐにお母様が亡くなり、

今、この大きなテーブルに着くのは、お父様と私と妹の3人。

だけど、昔からいつも楽しそうに話すのはお父様とテーゼだけ。

私はカルロとの現状報告だけさせられる。

そんな食事の時間が本当に苦しかった。

まぁ今はそんな煩わしいこともないのだけど。


今日の夕食には、野ウサギのローストと豆のスープ、そしてパンが並べられていた。

赤ワインを飲みながらお父様が嬉しそうに言う。


「それにしても、まさか侯爵のご子息がテーゼと婚約してくれるとは、なんと喜ばしいことか。

一時はどうなるかと思ったが……」


こちらに一瞬、視線が向く。

お父様は領地を守るために、何としてでも侯爵家と婚姻関係を結びたがった。

貴族社会を生き抜くためには、相手は名家であることが必須条件なのだ。


女も同じ。

どのような殿方に気に入られ、どんな名家に嫁ぐかで、女の価値が上がる。

テーゼは、貴族社会で生き残る術を身につけていた。いい意味でも悪い意味でも。

今夜も私を貶めようと、わざとお父様に聞こえるように猫なで声で言った。


「お姉さま、最近拾ってきた使用人と仲がよろしいのですね。」


ん?テーゼは彼の存在を知っていると?

私は後ろに控えているマリアをちらっと見た。

マリアは小さく首を横に振る。

ですわよね。

愚痴をこぼすセシリアがばらしたとは思えない。

ということは、マリアとセシリアが会話しているのを、

テーゼが盗み聞きしたってことくらいは容易に想像がつくわ。


「さぁ、何のことかしら?」


そこまでわかったら余計な情報なんか与えない方がいいに決まってる。

私は適当にはぐらかすことにした。


「お姉さまの部屋に、最近、見たことのない使用人が出入りしているのを、わたくし見てしまったの。」


彼から私の部屋に来たことは一度もない。

わざと彼のことを話題に出してカマをかけたつもりなんでしょうけど

その手には乗りませんわ。


「私の部屋には誰も近付かないように伝えていたはずなのにおかしいわね?

 幻覚でも見たんじゃないの?」


私がテーゼからの口撃を上手くかわしていると

顔色が変わったのは私ではなくお父様だった。


「使用人は、やめて出ていく者や新しく入る者などの入れ替わりが激しい。

だから、全て執事に任せているのだが、それはまずかったか。

ビビアン、お前は、私の目を盗んで使用人と逢引きしているというのか?

身分が違いすぎる付き合いなど……世間の笑いものになりたいのか?

お前にだってまだ縁談は来る!勝手なことをするんじゃない!」


叱られているのか、心配されているのか意味不明の言葉。

そして私の言葉は聞いてもらえないことに呆れ返って言葉を失う。


「責めないであげてお父様、お姉さまの婚約破棄の原因を作ったのはわたくしですから…

お姉さまの心が荒んでしまって男遊びするようになったのは、わたくしのせいですの。」


「おお、テーゼあまり自分を責めるな。お前のせいではない。

お前がそんなに悲しい顔するとわしもつらい。」


はいはいはいはい、この辺で感動的な曲でもかけましょうか?

おじさんと子犬が見つめ合う時にかかるような曲がいいかしら?


妹と父の毎日繰り広げられる家族ごっこにはもう飽きてしまった。

このくだらない貴族社会のごっこ遊びに付き合っている暇があったら、

配信してリスナーさんと会話している方が百倍楽しい。

くだらない家族ごっこをしながら食べる味の薄い野ウサギの肉よりも、

リスナーさんと食べる月見バーガーの方が千倍おいしい。


「ごちそうさまでした。」


私は食事の途中だったが、ナプキンで口を拭いた。

席を立ちマリアと共に自分の部屋へ足早に戻った。


お読みいただきありがとうございます。


「面白いなっ」


「このあとが気になる」


と思いましたら、ブックマークか

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どうぞよろしくお願いいたします。

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