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第9話 【ビビアンの部屋】、そして初めての食べ物

 配信切り忘れ事件から数日後。

フォロワー数は一万人を超え、配信を始め数分すると入室者が百人を超えるようになっていた。

定時配信は夕食後にすると決め、

配信自体にもずいぶん慣れて余裕が出てきている。


そして今日もいつものように手鏡に映った自分の姿を、念入りにチェックする。

ヘアースタイルは自慢のブロンドの縦ロール。

ドレスの色に合わせて、リボンは水色にした。

よし、準備OK!

配信開始!


「皆さま、ごきげんよう!ビビアンです。」


配信と同時に入室者数がどんどん伸びていく様子を確認しながら、

私はリスナーさんたちと話をする。


「今日のおしゃれポイントは、今、こちらの世界で人気の水色リボンですわ。

わたくしの縦ロールに似合うかしら?」


(おおおー、可愛いー)

(ビビアン、回って見せて)


「あら、よろしくってよ。こうかしら。」


私は、カメラの前でブロンドの髪がふわりと動くように、ドレスの裾を持って一回転してみせた。

いいねの数がどんどん増えていく。


(ビビアンの私室って相変わらず素敵なロココ調だね!異世界っぽさがたまらないなぁ)


「あら、わたくしにとっては皆さまのいらっしゃる世界が異世界ですわ。

スマホという不思議な物で、こうしてリスナーの皆さまとお話できることが

最初は本当に驚きでしたの。

いつも来てくださりありがとうございます。」


私がリスナーさんとそんな話を交わしていると


(お邪魔します。初見です!この配信、最近いつもランキング上位なんで、気になって見にきました)


「まぁ、初見さんですの?いらっしゃいませ!【ビビアンの部屋】へようこそ!」


【ビビアンの部屋】それがこの配信のタイトル。

リスナーさんが私の部屋を見て

他の配信にはない特徴だから配信タイトルにしたらどうだ?

と提案してくれた。


(異世界での配信って聞きましたけど、

どうして異世界に住むあなたが

スマホを持っているんですか?)


この配信に来た初見さんは皆、同じ質問をしてくる。


「わたくしがスマホを手にしたのは、

皆さまの世界からこちらの世界に転移してきた彼が持っていたからなの。」


私は転移してきた彼との出会いを思い出して、説明を始めた。

今までの配信で何度も思い出してきた大切な記憶。

婚約破棄されたその日、雨の中馬車に揺られた帰り道、

衛兵に追いかけられ拘束された彼を見かけて救った話。


「……ということがありまして、彼の窮地を救いましたの。」


(初見さん。ビビアンの言う彼ってのはな?

顔出しNGで声出しもしたくないっていう

ビビアン以外の人は、そいつについて何も知らない謎に包まれた人物なんだw)


とリスナーさんが補足を入れてくれる。


「その後の詳しいことは過去のアーカイブに、

専用の説明配信をしたのが残っているので

お時間がある時にでも見てみてくださいませ」


私は出来るだけわかりやすく

簡潔に彼との出会いを説明し、過去の配信が保存されている

アーカイブへ誘導する。


あまりに毎回聞かれる話だったので

リスナーさんの勧めで、配信することになるまでの一連の話を

説明するだけの配信を行い保存。

初見さんにはそれを見てもらうことにした。


何度も同じ話を枠内でしてしまうと

他のリスナーさんがつまらなくなってしまうため

その対策だ。


最近はこの流れがスムーズにできるようになり

ずいぶん上手くなったと

リスナーさんに褒められるくらいになりましたわ。


しかし毎回この話をすると出会った頃の

気持ちが蘇ってきてすごく恥ずかしくなる。


「ちなみに今日も彼はギルドにクエストを受けに行ってますわ」


(スゲー、マジでギルドとかあるんだ)

(異世界転移して、毎日クエストに行ったらご飯食えるのなんて、最高じゃん)


いつの間にか初見さんが増え、コメント欄は大盛り上がりしていた。


「あら、クエストだけではなく

ちゃんと朝は屋敷内の掃除をしていますわよ?

朝の掃除が終わったら、一目散にクエストに行く姿をこの窓から見えてますもの」


(ちゃんと仕事してから行くのを、ビビアンは窓からチェックしているということね♪)

(行動チェックする気持ちわかるー――!!)

(毎日お見送りとか素敵!)


ハッと気付いた私は、恥ずかしくなり

みるみる顔が赤くなるのがわかった

私の失言にコメント欄は一気に盛り上がる。


(転移してきた彼のことが好きなんだねwwかっこいいの?)


初見さんの会心の一撃!

私に効果は抜群だ!!

そして、その一言で私は恥ずかしさの限界を超えた。


「だだだだ誰が誰を好き!?知りませんわ!!!!

それに彼のことは、私だけが知ってればいいんですの!!

顔出しNGって言っていたから!!!!!」


(ひぇ……)

(こっわ……)

(あっ…限界突破した……)


「た、た、たいしていい男でもないのよ?どこにでもいる顔だし、話もつまらないし!!!!!」


冷静さを失う私。


(そ、そんなモブなんかのことどうでもいいよ!)

(そうそう!モブキャラなんて気にしたら負けだよ!!!)


「そうですの!!!!モブですの!!!!!」


と、私はいいながら転移してきた彼を思い出して、顔が火照っていくのを感じていた。

確かに名前は、モなんとかだったような気がする。

聞いたことのない名前だから、はっきりと憶えていないわ。

やだわ、モブって愛称でもちょっと名前カスってるわ……まぁ今さら気付いたんですけど。

でもリスナーさんには絶対教えてあげないんだから!!


(あー…ビビアン?とりあえず落ち着こうか)

(夕方だから西日で顔が赤くなってるように見えるだけだよね!!)

(そうそう!!俺の家も今めっちゃ暑くてさ!ビビアンの部屋ももしかして暑いんじゃない?)


「そうですの!!今日は部屋が暑いんですの!!西日のせいで赤く見えるんですの!!!」


必死に否定すればするほど、私は耳たぶまで赤くなっていくのがわかった。

と同時に、いいねが連打されて急に数が伸びていく。


(ツン……)

(おい貴様…事実だが今は余計なことを言うな)

(ビビアン今日も可愛いよ!)

(こんな彼女欲しいわw)


とコメントが続く。


(あっ、いつの間にか、アイテムのボタンが点滅してる)

(やった!今まで使えなかったのにアイテムが使えるようになってるぞ!)

(ようやくか!ずっと投げたかったんだよねw)

(空気変えよか!!ビビアン何か投げて欲しいものある?)


投げる?アイテム?何のことかしら?

謎の言葉に恥ずかしかった気持ちがスーッと落ち着き

私はあっけにとられる。

そのうちに、リスナーさんたちが、

アイテム欄に表示されている物を教えてくれた。

カレーライスやカップラーメン、ドーナツなど、聞いたことのない言葉が並ぶ。


リスナーさん曰く、全部食べ物の名前だそうだ。

突然の話だったので決めきれず、私は


「みなさまの世界で美味しい食べ物はなんですか?」


と聞いた。


(俺たち大したもの食べてないよ。ビビアンのほうがきっと美味しいもの食べてるよw)

(ビビアン、夕食は何食べたの?)


私が食べたもの…


「子羊とりんごのポアレでした。もう食べ飽きましたの、こういうものは。

みなさまは何を召し上がったの?」


(僕はハンバーガーだった。あとは、ポテトとコーラ。)

(あ、月見バーガーがセットでお得なんだよね、今。)

(月見バーガーとか本当に美味しくて毎日食べたいくらいww)

(……太るぞ(ボソッ))

(あ゛?)

(いえ…なんでも)


リスナーさんがこんなにも盛り上がる食べ物に私は興味を引かれた。


「何ですのそれ!?なんか素敵ですわ!それ、それがよろしくってよ。

わたくしハンバーガーを投げて欲しい!」


(かしこま!)

(ポチッ!!)


それを聞いて数人のリスナーさんがアイテムボタンを押したようだった

すると目の前に黄色い包み紙の美味しそうな匂いがする物が複数個現れた。

これはお肉を焼いた匂いだわ。

私が望んだハンバーガーという物がこれなのかしら?

どこからともなく現れたそれを手に取る。


(あっ月見バーガーだ!?)

(なんで!?)

(そういうシステムなの??)


リスナーさんが今起きた現象について議論している中、

私は美味しそうな匂いに食欲を刺激されて

我慢しきれずそのままかぶりついた。


(ビビアン!?紙は取る!紙は取る!!包んでいるのはただの紙だから!!!)


「え?……あ、あらぁ、知ってましたわ。ほほほほ!わざとですわ、余興ですのよ!」


なんとか失敗を取り繕って、月見バーガー本体を食べてみた。


「これは美味!皆さまの世界では

こんな美味しい物を召し上がっているなんて、ずるいですわ。」


月見バーガーを頬張って、涙が出そうになった。

泣くほど美味しかった、もちろんそれもあるけれど、

それよりも誰かと会話をしながら穏やかに食事するだけで、

これほど幸せな気持ちになることを思い出したから。

私はリスナーさんとの会話に感謝の気持ちでいっぱいになった。


そしてこれは不思議な発見だった。

私の配信では盛り上がると、必要な物がアイテム欄に表示される。

それが贈られると、リスナーさんたちの世界から転送されてくるようだ。

投げ銭用ギフトという仕組みが転移の影響を受けたのでしょうか?

そこは私も、たぶん彼もよくわからない。


でもそんな奇跡のような出来事とリスナーさんたちの優しさのおかげで

私は素敵なことを思い出すことが出来た。

久しぶりに食事が楽しい、美味しいと思えた。

周りの顔色をうかがわなくていい

いつもより何倍も幸せな食事に胸がいっぱいになって涙声になった。

泣きながら月見バーガーを食べる伯爵令嬢の配信が面白可愛いと、またバズってしまったわ。


お読みいただきありがとうございます。


「面白いなっ」


「このあとが気になる」


と思いましたら、ブックマークか

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