4話
ロカロスという街が出来た経緯は単純だ。
大進化ーーー全人類が神秘やスキル、種族に発現し始めた時期に、世界では多くの弾かれ者が生まれた。
犯罪向きの神秘に目覚めた者、異形の種族へと変貌した者。スキルが強力すぎた者。
逆に、愛され過ぎた人間、崇められたくないのに崇められてしまう人間。
そんな奴らは、まともに生きていく為に寄り集まり、衝突しながらも1つの都市を作り上げていった。
それがロカロスの前身の……なんだっけな、エンピールだっけな?
そのエンピールが、世界中で話題になり……同じ様な連中がまた集まり、規模が大きくなりすぎて。
遂に、ちゃんとした公的機関や福祉、治安維持組織が必要だ……となり、改名。様々な国、組織からの妨害を受けながらも、住民達が力を合わせて。
外れ物達の浮遊都市、ロカロスが出来上がったって訳。
世界各地からの妨害に備えて、住民達は種族も異能も思想も無視して、お互いの強さと技術を磨き続けた。
それから、200年弱。
お互いを高め合うというこの都市の性質は受け継がれ、
今も技術交流は盛んだ。
と、いう事で。
俺は今、2ヶ月に1回行われる、技術者達の交流会に来ている。
それぞれの地域の技術、研究に携わる人間がお互いの情報を全オープンする発表会みたいなもんだな。
何故技術者でもない俺が来ているか……というと、
まあ金の問題で話し合うためだな。
当たり前だが、あらゆる技術には金が掛かる。莫大にな。
研究の為の素材、環境、設備、技術者、研究者に支払う給料等挙げればキリがない。
そして、そんなものを無償で交換するとなると……
相手の技術を使って元を取る、事が目標になるわけだ。
自分の地域内の需要に見合った情報や技術は何か、
また、それを運用するのにどれほどの資産が必要なのか……
色んな要素を見極め、時に質問し、同じく金銭管理担当で来た人間と話し合って……
数週間後に本格的に提携しようねー、とか一時的にそっちの技術者レンタルしたいなー、と決めていく訳だ。
外の……ロカロス外から来た人間は、この交流会の存在に驚くらしいが。
まあ、利権やら特許を考えず、ひたすらに街を発展させるという思想は中々に、考えてみると興味深い。
「そこの貴方。そちらの技術に……用がある、と言いますか。お話がしたいのですがよろしいでしょうか?」
「あいよ。田中!ちょっとこっち来てくれ!」
話しかけて来たのは、眼鏡に白衣、頭の上には光の輪が乗っかっている……研究者らしき天使の男性。
田中は向こうで楽しげに、同類の方々と話していた……が。仕事の時間である。
「何?」
ロカロスお馴染みの工具……あらゆる道具の形に変形する、黒灼金製のデバイスを片手に近寄ってくる
「この人がお前の言ってた……何だっけ?」
「超高融点で魔力浸透性がクソ高い鉄 」
「……それに興味があるらしい」
「OK」
田中はゆるゆるだった作業着に魔力を纏わせて、
スーツに変換する。
物体の組成の改変をここまで鮮やかに出来るのは、世界広しといえど数人しか居ないだろう。
「えー、まずこちらの状況が……少々まずくてですね。
欲しい物を結論から言えば一般市民でも自衛が出来る道具になるんですが……その為の魔道式自体は、こちらの技術者によって完成しております。その魔道式を安定して刻むためにそちらの……鉄?を使わせていただければ、と」
……成程。まあ問題は無いな。
田中が口を開く。
「あー……治安悪い奴らが入ってきた感じ?そりゃ大変。
喜んで力を貸すよ」
「えぇ……ぶっちゃけ私達のボスは最近公認されたばかりでして、あまり派手に動いても……」
……よくよく話を聞くと、どうも弱っている所を狙う外部からの介入と、前代の組織の逆恨みが合わさってかなり面倒臭そうな事態、らしい。
一般市民への犯罪が増え、一時的な抑止力として自衛用の装備の開発を急いでいるのだとか。
田中は技術の受け渡しの日程が決まり次第すぐにどっか行ったので、ブラブラと歩いている。
……何だか最近、外部介入の話をよく聞く気がする。
外部、ってのはまあロカロス外の世界の事。
技術や希少種族、フリーの強者を求めてロカロスは常に狙われている。
にしても、ボスも外部の事に関して愚痴る機会が増えているし……なんか起きてんのか?
……一応調べておくかー。