3話
ーーー子供と同じ布団で目覚めるのは良い。
人間特有の暖かみと甘い体臭、すうすうとした寝息が聞いていて心地いい。
……だが、龍人の膂力でがっちり足をホールドするのは辞めて欲しいなぁ。
マジで、いくらもがいても全然足が取れない。種族差を感じるな。
しょうがないので、今日一緒に仕事する予定だったランセツに電話を入れる。
2コール目で、ガチャリと音が鳴る。
「もしもーし」
『……なんだ、朝から唐突に』
「昨日のガキと一緒に寝てるんだけどさ、龍人の脚力でしっかり掴まれて布団から出られない」
『……それは笑うべきなのか?』
「仕事仲間が捕らわれている事を嘆くべきだと思う」
『……能力でもなんでも使ってさっさと出ろ』
ガチャン!という音が耳に響く。
アイツ、未だに数百年間の黒電話使ってるんだよな。
電話を切る時に雑に置くのをやめて欲しい。耳が痛い。
「おーい、起きねえか」
「……スピー」
ぐっ……無理に起こしにくい、いい顔で寝やがって。
仕方が無いのでほっぺを揉んだり、頭を撫でているとあっさり起きた。起きたが、暫くしっかり抱き締められて脱出は出来なかった。
……まあ、親無しの子供が急に出来た甘えられる相手にベッタリ、ってのはこの街じゃよくある話。
俺も数年前、1週間くらい子供を預かってた経験がある。
可愛いガキだった。ロカロスには学校が無いので、
今は別地域から外の中学に通っているという話だが……
時間が空いたら、久々に会いに行くか?
朝飯は、基本何時も雑に屋台で済ませるのだが……
育ち盛りの子供相手に、こってりしたラーメンや豚丼を喰わせるのは気が引けたので、
数ヶ月ぶりに自炊をしようと思う。
まあ……サラダと目玉焼き、トーストとソーセージくらいでいい、よな?
出来上がり。作ってる途中でつまみ食いされたが、
まあ許容範囲。
「くひゃ……!」
一瞬、出来たての料理に驚いた様子を見せたものの。直ぐに切り替えて手でバクバクと食い始める……うーむ。子供って呼び続けるのもアレだな。
何かいい名前はないものか。なんて考えながら、
ゆっくり朝食は終わっていった。
……そういえば、前預かった子供は言葉が通じたが……
コイツは通じない。理性もあんま無い。
預ける、ってのは……キツイだろうな。
しゃーねぇ。今日は仕事場に持ってくか。
戦闘力はあるんだし、自己防衛くらいはしてくれるだろ!
ちなみに今日の仕事は重火器と抗争用のドーピングアイテム販売です。やったね。
「なんだぁ?そのガキ。買う気はねえぞ」
「ちげえよ、預かってんの」
「けぴぴっ!」
ーーー案外、取引に支障は無さそうだった。
肩車をしてやると、ポカポカ頭を叩いきたり、甘噛みはしてくるものの邪魔はしない。
時々地面に降りては俺の周りをクルクルと回るが、
特に意味は無いようだ。
「じゃー、これ。中に注文通り、亜魔鉄製の銃弾3000発とそれに対応した軽機関銃、拳銃、あとオマケで余ってたナイフも入れといた」
ドスン、と空間収納魔術が仕込まれたバッグを地面に落とし、
手を前に出して代金を請求する。
ポスン、と手に置かれる札束。
「毎度!地域内で使ったら総がかりでシバくからな〜」
「……わあってるよ、ありがとな」
はてはて、何処の地域の抗争で、誰に使うつもりなのやら。
俺がこういった武器や銃弾、アイテムをどうやって手に入れてるのかと言えば、完全にファミリー内の人員に頼っている。
主に田中、と呼ばれる……技術屋?にだな。
アイツは42という比較的若い年齢で、製作に関するスキルを発現させた天才だ。
素材と要望さえ渡せば大抵の物は作ってくれる。
同時に、俺とランセツの大事な飲み友達だ。
酔っ払うと、いつも奥さんが冷たいーだとか、娘が反抗期でー、とかの愚痴を吐いている。
ただの愚痴ならつまらないが、いつも生真面目な人間が泣きながら言ってるのは少し、面白味があるのだ。
後は、情報屋のエスだな。いっつも覆面をしていて、
顔の上半分の見た目が不明だ。けど気さく。
この街の事なら、金さえ出せばなんでも教えてくれる便利な奴だ。住人の浮気事情から敵組織の金策まで。
俺、田中、ランセツ、エスはそれぞれ少数の部下を持つ、言わば下っ端のボス。
その上に、戦闘に長け、部下を持たない幹部達、その上にボスって感じだな。
今日の取引は……これで終わり、か。
計7件程回ったが、全ての場所で子供……暫定的に羅炎と名付けた彼は大人しくしていた。
どうやら、思ったより彼は俺に懐いているらしい。
まあ、懐かれると甘やかしたくなるのが人の性、ってもんで。
「きゃーっ!きゃっ!」
「あー分かった分かった、髪を……引っ張るな」
彼が指差した屋台から食い物を買っては食わせ、
買っては食わせ。
その様子を俺の事を見知った住人が見てはくすくすと笑っている。
悪かったなガキに甘くて!!