1話
俺の名はハリス・エディア。年齢はピチピチの29歳……
アラサーじゃねえかピチピチじゃねえだろ、って思うやつも居るかもしれないが、このロカロスって街の場合、
本当にピチピチもピチピチだ。
龍人やら精霊、吸血鬼やエルフ共なんて、大進化当初から生きてりゃもう300歳だからな。
俺は、諸事情で今ーーー
「おらっ金返せ!狡い売人が!」
「早くブツ出せってんだよ!」
「死ねっカス!」
リンチされている。ヤク中の男3人にな。
いや、別に俺が弱いとかそういう訳じゃないんだよ?
能力的な都合で、どうしてもこうなるってだけなんだ。
本当に。
「ひいいっ!お許しを!」
ここで哀れな声を一摘み。すると、むしろヤク中共の暴力が加速していく。
「ははは!死ねよォ!」
「ゴミカス!」
こいつら悪口のバリエーションが少なくないか?
なんか、流石にそろそろ全身痛くなってきたし。
結構ゲージも溜まったし…反撃するか?と思ったのも、
束の間。
俺を正面から殴りつけている男の後ろに、見知ったシルエットが現れた。
どうやら男共は、まだ気付いていないようだ。
シルエットが、動く。
まず、俺の正面の男が消えた。静音で赤色のレーザーに飲み込まれて。
そこでようやく、ヤク中はシルエットこと俺の知り合い…
ランセツの事に気が付いた様で、
「っなんだぁお前!」
「やんのかゴラァ」
……ヤク中だからなのか、知り合いが消し飛ばされた事はまだ気付いていないらしい。
その後、殴り掛かろうとした馬鹿はハンマーで叩き潰され、それを見て逃げた奴はバルカン砲で木っ端微塵に。
「ありがとな、ランセツ。反撃のやり時が分かんなかったわ」
「……お前の能力的に仕方が無いとは分かっているが、
もう少しファミリーの品格を落とさないやり方は出来ないのか?」
こいつの名はさっきも言った通りランセツ。
俺が所属するマフィアの兄貴分、というか、鉄砲玉代表?みたいな奴だ。
ちなみに俺は売人の代表な。つっても部下は3人しかいないが。
「いやぁ…ナンパとか、賄賂を警官に公衆の面前で渡したりとかも効率いいんだけど、ナンパは成功しちゃうと面倒臭いし……賄賂は警官に難癖付けられないといけないし」
「……仮にもこの地域を支配するマフィアの部下が、
そこら辺のチンピラにボコボコにされているのは面子が立たん。俺が来たから良かったものの……」
……俺の異能、「|I am the scorned」
は、かなり面倒臭い力だ。
まず、能力を使う為には誰かから下に見られたり、馬鹿にされたりするのが前提となる。
そうすると、脳内にある……ゲージが溜まり、そのゲージを使用して自分を強化出来る。
確かに、ゲージを使った時の俺の強さは中々な物だと自覚している、が…
条件が面倒すぎる。シンプルに、雑魚とか小物扱いされないと能力を使えさえしない上に燃費が悪い。
まあ、それでも一応強力な事には変わりないので……
何とか使いこなして、この混沌とした街でも生き残れている。
ロカロス。混沌と自由の象徴。大進化最大の産物であり、
最大の害悪。
100を少し超える数の地域を、強いだけの個人やマフィア、偶に公的機関がそれぞれ統治する無法地帯。
俺らは、そんなロカロスの隅の街で、一応支配する側のマフィア……で、下っ端をやっている。
マフィア、って言うと悪徳なイメージがあるかもしれないが、ウチはボスの方針で比較的良心的にやっている。
麻薬とか武装を売るのは同じく犯罪者相手だけだし、
その武装で地域内の人間が傷付けられたら制裁をしている。
一応、マフィアらしくみかじめを貰っているが、
代わりにちゃんと他所から来た犯罪者をシバいてるしね。
「そういやランセツ、今日の夜暇?」
「……ん、暇だが。飲み会か?」
「調査付き合って。警官から情報があったんだけどさぁ、何でも異常に強いガキが隣地域に居たんだけどその地域のボスにボコされて。
こっち来てるかもしれないらしいんだよね」
「……」
「そんな面倒そうな顔すんなよ〜、早く終われば奢るから、な?」
なんとかランセツを説得し、夜に噴水前で集合という約束をした。
……手負いの獣が1番危ないとはよく言うが、それはこの街でも同じだ。
異能、魔術、魔法、龍血、陰陽道、呪術、精霊契約etc、
あらゆる神秘が運で芽生えるこの世界において、
ガキが一般的な強者レベルの強さを持っている、というのは割とよくある話。
話が通じそうなら手懐けたいし、無理そうなら……な。
子供だと言うし、出来るならば穏便にいきたいけど…