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冬の空

作者: 荒城

とてもとても晴れた日に、殺してやろう。そのほうが幾分気分もよかろう。



笑って下さい。私はその時初めて、人の優しさを知りました。そうして、私はその人が大好きになりました。


その後の私の絶望をご存知でしょうか。いいえ。大変失礼でございました。一死刑囚の妄言、ましてそんなやつの心情などとんと存じ上げないのが常でしょう。


私は別の、そしてたいそう美しくない人間に殺されたのです。あと、死人に口なしと言う言葉は貴方はたいそう博識なれば、申し上げる事すら烏滸がましいとは承知しておりますが、あんなものは私たちの前では嘘です。私は犯されました。死んだ後の非常に冷たい身体を何が楽しいか分かりませぬ。ただただ私はこの身体を乱暴にされました。嫌に気持ち悪い感触を覚えています。温度と質感だけ覚えていますが、話したくはございません。




私、本当に死んで良かったと思いました。悲しい以外の感情などありますか。




世の中は人に感謝親に感謝など耳障りの良い言葉を吐きますが、果たして私の目にあって同じことを言いますでしょうか。万が一言ったとすればそれはたいそう美しい人間でしょう。理想でしょう。私は理想の人間になれなかったのです。私はそれで良いと思っています。



そもそも女の私がなぜ死刑囚なのか。


親殺しをした人間なんて、しょうがないでしょう。畜生にも劣るのかしら。毒殺ですよ。あはは。こんな血筋は絶やした方が宜しいでしょう。研究などで私を生かしておきたい人間はごまんといましたけれど、生憎そんな人たちなど私には髪一本の価値も見出せませぬ。私を研究したい?馬鹿にしてる。そんな方々の興味で私は私を捧げられない。



私は少しも何も考えたくない。今すぐなくなりたい。貴殿、ご高名なれば私のことも全てご存知でしょう。諸々と、お願い申し上げます。




あなた、きっと死ねませんよ。



適当なこと。



適当な訳あるもんですか。きちんと調べて差し上げましたよ。ご両親の遺言もありました。貴女、残念ながら、その惚れた男に殺してもらったとしてもまた生き返りますよ。愛する人間から殺されるとはそういう事ではありません。貴方の血族は、自分の子どもに殺してもらって初めて永遠の眠りにつくそうで。因果なものですね。結局あなたがたは、そういう考えに巡ってきたんですね。ご両親は、もう少し貴女に親切にするべきだった。この血筋は絶やすことはできませんようで。

あなたのご両親も、死にたかったようで。



左様でございますか。ええ。ええ。宜しいでしょう。すいません、今日はハナがよく出るようで。私はどこまでもこの因果の中ということで。


そうして私は、真っ当に死ぬ事は出来ないのですね。ええ。ええ。ようござんす。空はたいそう綺麗で御座いますね。





ああ。なにか懐かしい匂いがする。夕飯のにおいかしら。


ところで、私が愛したあの方は、今どこに。




どちらでしょうか。この間の爆撃でもう亡くなったやもしれません。





そうですか。私は後も追えないのですね。あの人は他の人から見たらどうだったか知らない。でも私にはとても有難い存在でした。人は寂しいですね。





貴女ほどではないでしょう。





そうですか。





いらっしゃい。こんな焼け野原では、身震いがする。もう貴女の刑は終わったのですから、少し暖かいところで気を休めなさい。





有難うございます。ただ、ここは私の生きた街でございますので、私はここで、生きたり死んだりを繰り返す事にします。きっと私のこの身体はこの戦争に使われるんでしょう。人間爆弾でもするんでしょう。人間擁壁でも作るんでしょう。弟はたいそう可哀想で御座いました。せめて今だけは哀れな女として、それでも私は私として生まれたのですから、どうかご容赦下さい。ましてこんな寂しい人間です。どうぞご恩赦賜りますよう。





良いでしょう。ただ、病気で死ぬのはもっと寂しい。これでもかけなさい。私はまた支給してもらおう。





ありがとうございます。大層暖かい外套でございます。どうぞこんな寂しい女は放って、行ってください。じきに空も赤く焼けます。どうぞ気になさらず。





さちあらんことを。





ありがとうございます。今日はいやにハナがでます。ありがとうございます。



ああ。あすこのお城も落ちたのですね。石垣で終わっている。いやに殺伐としている。





本当に。ああ、それから。


まだ若いんだから。貴女、死んじゃダメですよ。





面白い人。そして、本当にさようなら。さちあらんことを。









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