謎の討伐
しばらく逃げ続けて後ろを振り向けば先程の化け物は居なくなっていた。息を整えつつ前を見ればアガレスが周りを見回して化け物が居ないか確認してくれていた。
「他の奴らとはぐれちまったな…。さっきの化け物はこっちには来てないようだしとりあえずは安心だな。ほら、歩けるか? 」
アガレスが手を出してくれているのでありがたく掴ませてもらって立ち上がる。
「他の人たちも上手く逃げられてるといいんですけど…。図書館よりだいぶ離れたところまで走ってきちゃいましたね、ここは…理科室でしょうか?ほら、人体模型が… 」
人体模型を指さした私は目を見開いて慌ててアガレスの手を引いた。
「アガレスさん!あの人体模型動いてます!明らかに敵意がありますよ!? 」
突然引っ張られたアガレスは一瞬驚きながらもすぐに体制を整え後ろを確認した。
「うぉ、ありがちな展開だな。まぁひとつ残念なのは武器を所持していないところだが 」
残念な素振りを見せながらもこの場面が面白いのか顔は笑っていた。こんな状況で笑っていられるのは彼くらいだろう。
私を後ろに隠すようにしながら人体模型と対峙していたアガレスは様子を伺いつつも周りを見て武器になりそうなものを探している。
一緒にキョロキョロとしていれば自分の少し離れたところに消化器があるのに気がついた。
「アガレスさん!武器になりそうな消化器があります!少し待っていてください!」
私は慌てて後ろに駆け出す。
「でかした!でも無理はすんなよ!」
と声をかけてくれたアガレスに元気よく大丈夫です!と返事をした。慌てて消化器を掴みアガレスの元に持っていく。
「よし!頭ぶち抜いてやんよ」
消化器を持ったアガレスは人体模型の頭を勢いよく殴れば人体模型はバラバラに砕けた。その光景はだいぶショッキングだったが何とか精神を持ちこたえアガレスの元に駆け寄る。
「アガレスさん!怪我は無いですか!」
私の問いかけにアガレスは、おう!と笑って答えた。安心して胸を撫で下ろしてよかったと言おうとしたらアガレスの胸に飛び込んでいて驚きのあまり仰け反ろうとしたら頭を捕まれて動くな!と止められた。
何が起きているかよく分からないまま様子を伺えば先程バラバラになった人体模型が復活して襲いかかって来ていたらしい。私をかばいながら何とか応戦しようとするアガレスに
「私はいいので逃げるか戦いやすい体制を取ってください!」
と訴えればそんなことは出来ないと断られた。私は推しのために何も出来ない悔しさと足でまといになっている現実に泣きそうになりながら
「私にとってアガレスさんは大切な存在なんです…!それは私だけじゃありません!たくさんの人がアガレスさんを大切に思っています!だから自身を大切にしてください…!お願いだから…!推しに迷惑かけたくないんです…!」
と訴えれば一瞬目を見開いてからこっちをしっかり見て
「俺のリスナーだったのか。…なら尚更置いて行けねぇ。俺たちみたいな活動者がやっていけてるのは努力ももちろんそうだが応援してくれてるリスナー達のおかげだ。そのリスナーを道具のように使うようなやつにはなりたくねぇ。それに俺はお前を迷惑だなんて思ってねぇぞ、寧ろこんな状況の中協力して動いてくれてるからありがてぇくらいだ 」
と笑う。そんな彼を見てやっぱり力になりたいと強く思ったらポケットに入れていたフォークが何故か光った。