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第8話メイド長に怒られた

「何事ですか!」


 大きな声を出して一人の婦人が屋敷から飛び出して来る。


「げっ、メイド長……」


 スヴェータは顔を青くしている。


 この世界にはメイド長って実在するんだ! 


「スヴェトラーナ様。私をメイド長と呼ぶのはお止め下さい。私の役職は女中長ヘッドハウスメイドで御座います。屋敷の管理と人事を司る。家政婦長ハウスキーパーの部下で、女中メイドを管理しているだけで御座います。そのような俗称を多用されますと、ユーサー様が混乱しますのでご自重下さい」


「は~い」


「返事は伸ばさない! どうしてただの中級使用人である私が、専門教師チューターで立場的として上位である貴女を指導しなければいけないのでしょう?」


 スヴェの態度に女中メイド長あらため、女中長ヘッドハウスメイドは声を荒げた。


「それは……ごめんなさい?」


「いくら長命種だからと言って呑気すぎます。

それと、本日はユーサー様の「魔力の性質と簡単な魔法を使うだけ」とお聞きしていましたが……先ほどの爆発音は一体どういう事ですか?」


「実は……」


 そう前置きして、スヴェータは事の経緯を説明した。


家庭教師ガヴァネスが、一年半で必要なくなったとは聞いていましたが、どうやら魔法の才覚も極めて優れているようですね」


「理解して貰えましたか?」


「ですが、私どもの認識としてはてっきり初級魔法を使うモノとばかり思っていました。ユーサー様やスヴェトラーナ様にはご不便をおかけしますが、今後は郊外でお願いいたします。

 先ほど驚いた皿洗い女中(スカラリーメイド)が手を滑らせお皿が数枚割れ、腰を抜かした女中メイドも数人います。何より……ユーサー様の乳姉弟のベリンダ様も泣いてしまわれましたし……」


 ベリンダと言うのは、俺の乳母うばをしているカルデコート子爵夫人アイリーンの娘で、本来高位貴族の乳母は政治的影響力の無い使用人か、信頼できる子飼いの下級貴族……それも世話をする子供と同性の親が付く事が一般的らしいが、父パウルは友人であり約100年もの間、ノーフォーク公爵家本家の男子の乳母に選ばれなかった。カルデコート子爵のため無理を通して、俺の乳母にしたらしい。


 そのため俺が世襲できるかどうかは、長男家の長子と言うリードがあっても微妙なんだとか……後ろ盾が古参家臣とは言え約100年も実績がないカルデコート子爵と、父の乳母をしてくれたソウルベリー子爵ぐらいのモノだと、アイリーン夫人が言っていた。


「え! リンダちゃん泣いちゃったの? それは後でリンダちゃんとアイリーン子爵夫人に謝りにいかないと! 本当にごめんなさい。次からは私もユーサーも気を付けるから」


 ――――と言って女中長ヘッドハウスメイドに俺の頭も押さえつけて謝罪する。

 スヴェータ。君の指導に従っただけだから、俺悪く無くない? 確かに少し想像すれば、分かる範囲だったかもしれないけど……


 俺は心の中で不満の言葉を紡ぐ。


「はぁ……分かりました。スヴェトラーナ様今回は不慮の事故です。旦那様と奥様、それに乳母のカルデコート子爵アイリーン夫人と、そのご息女であるベリンダ様には謝罪してください。使用人には私から伝えておきます」


「ありがとうございます」


「では。ユーサー様、スヴェトラーナ様失礼します」


 女中長ヘッドハウスメイドは、美しい所作で、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしスカートの裾を軽く摘まむ。膝折礼カーテシーを取ると屋敷の方へ戻って行った。


「いやぁ怒られちゃったなぁ」


 失敗。失敗。見たいな雰囲気を出しているけど、そんな軽い話じゃないから……


「スヴェータ? 先ほど自分で言った言葉を覚えていますか?」


「え? 私何か言ったっけ?」


「「先ずはやってみなさい。もし制御に失敗したとしても私が何とかするから」と自分で言ったのにも関わらず。さも僕も悪いような雰囲気を出していましたけど、全部スヴェータの責任ですよね?」


「うぐっ!」


 どうやら自分でも自覚があるようで、反論出来ないのか声を上げるしかできないようだ。


「ほら、何も言い返せない」


 俺は勝利を確信してニマニマと笑う。


「ぐぬぬぬぬっ……そうだ。私の想像よりも魔法の効果が大きくなってしまったケド、魔法の制御には成功しているし、幸い人にもモノにも被害は出ていないじゃない。私は約束は守ってるわよ?」


「ぐぬぬぬぬ……」


 俺が何も言い返せないのを見て、さっきのお返しとばかりにチェシャ猫のように笑っている。

 まぁチェシャ猫のように笑うって、歯を見せて訳もなくニヤニヤ笑うって意味だから誤用だけど……何というかブリティッシュショートヘア見たいな含み笑いをした猫みたいな印象を受ける。


「大人気ないよ。スヴェータ!」


「私はオトナとして、世の中の厳しさを教えてあげてるの!」


「「ぐぬぬぬぬ――――!!」」


 こうして俺の初めての魔法の授業は、波乱を伴いつつも無事終了した。




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