第5話魔法の師匠はロリ系美少女
今日はいよいよ魔法教師が来る日だ。
この世界に生まれ3年、初めて言った我儘が叶う時が来た! (と言っても真面に話せるようになったのはつい最近だがw)
魔法習得は特に初めの一回が重要との事らしく、失敗したり未熟な知識で魔法を発動させると変なクセがつき、その後にもクセの矯正が必要になったりして、プラスな事はないらしい。
だから、魔法が使える父と母も家の魔法使いにも教えさせず、指導のプロを招聘したのだ。一流の選手が一流の指導者である事は、非常に稀だと言う事は現実世界のスポーツを見ても明らかだ。
さて、どんな人物が来るのか非常に楽しみだ。
子守女中達の予想は、引退した冒険者との事だ。
「騎士や子爵などの下級貴族でない公爵家が、卑しいだけの冒険者を跡取りの教師に据えるのはありえない」と、子守女中の長である保母女中のババアが言っていた。
まぁそれはそうだろう。
幾ら給金が良いとはいえ、身分がしっかりした、人物ではないといけないと言う問題があるので、俺の予想は政争で負けた元宮廷魔術師か、両親が冒険者をやっていた頃の知り合いやそのツテと言うのが妥当な線ではないだろうか?
客間女中に呼ばれて、表にある応接間に行く。
予想を裏切ってそこにいたのは、旅装束と思われる茶色い外套を着た、小柄な少女がソファーに腰かけている。
外見の年齢は前世で言えば中学生程度、贔屓目で大人に見ても高校生程度でしかない。
処女雪のような透明感のある白金色の腰まで伸びた長髪は、ネコのような癖っ毛のようでフワフワとウエーブがかかって、毛先はクルリとカーブして跳ねている。
顔立ちは卵型で綺麗系なのだが、その雰囲気のせいかカワイイ系の印象を受ける。
青みがかかった灰色の大きく、クリクリとした瞳が何とも可愛らしい。
手荷物は、小さな旅行カバン一つと、身の丈程の大きさの錫杖(仏教の傘を被り各地を修行している。遊行僧が持っている。一つの大きな円環に小さな円環が四つ~十二個程度着いた杖の事)のような大きな杖だけだ。
見た目で判断するのはよくない。この世界には魔法も異種族も存在する。元の世界のように人類は一種だけではないのだ。
「申し訳ありませんが、先にお茶を頂いています」
「長旅でお疲れでしょうどうぞ休憩ください」
「言葉が達者なのね。人族の子供って皆賢いのかしら?」
そう言って、ソーサーの上に乗ったティーカップを数本の指で、摘まむように掴むと口を湿らす程度飲んだようだ。
「いい茶葉を使っているのね、美味しいわ」
「貴女が魔法を教えてくれる先生ですか?」
俺はドアの前に立ったまま少女に質問する。
「えぇ。私がアナタのお父様……パウルから依頼された魔術師よ」
この世界では魔法とは、権力の象徴であり、歴史の本を読んだ感想から言っても宗教と密接に結び付いている。
この世界は伝統的に魔力を持つものを重用し、高位の貴族ほど強い血を掛け合わせて強い子を作る。
多くの場合、魔力の強さは家柄に比例する。
例え時には近親相姦になったとしてもだ。
だから魔術師はほぼ例外なく、魔術師の両親の間からしか生まれない。この国で魔法を使える血統は貴族か騎士、聖職者のなどの庶子など貴族に連なるものぐらいだ。
人間種以外の人類種は、魔法が使える事が多い。だが、彼女の容姿を見る限り異種族らしさを感じない。
無論本物を見た訳ではなく、書物で見た伝聞なので俺には判断する事は出来ないのだが……
「そうでしたか。申し遅れました私は、ノーフォーク公爵家長男パウルの長子。ユーサー・フォン・ハワードと申します。……先生今日からご指導ご鞭撻のほどを、よろしくお願いいたします」
そう言って教えて貰う側としての礼節を言葉で表す。
「パウル! それにシルヴィー! この子面白いね。
それで私が教える生徒はどこ?」
背後の開いていたドアからこの館の主であるパウルと、その夫人であるシルヴィアつまりは今世の父母が、従者を伴って客間に入室する。
「スヴェータそれはね。この子よ!」
そう言ってシルヴィアは俺を手に抱える。
「シルヴィーこの子……ユーサー君の挨拶は完璧だと思うけど……魔法の理論が理解できる知性がある年齢じゃないでしょ? 公爵公子夫人にいう事じゃないけど、私まだ現役だから高いわよ? レディズ・コンパニオンが欲しいって訳でもないんでしょ?」
後で保母女中に聞いたところ、レディズ・コンパニオンとは、宮廷の女官のような仕事で、雇い主と一緒に時間を過ごし、話し相手となり、雇い主が客をもてなすのを助けたり、時には社交行事に同行する事でお手当を貰う……困窮した貴族の妻子を救済する数少ない仕事の一つだという事だ。
他だと家庭教師、女学校の経営者や教師、文筆家、子供がいれば、乳母などの仕事があると言う。
「もちろん。家格が低いとは言え私も貴族の娘、スヴェータに心配されなくても友人ぐらいは居るわよ。それにこの子が言った初めてのワガママだもの。例え無駄になったとしても良い経験じゃないかしら?」
――――と母は豊かな胸を張って言い切る。
スヴェータもシルヴィーも確か愛称だったハズ……スヴェータは東ヨーロッパに広く分布する。スラヴ系民族の名前のスヴェトラーナの愛称だったハズ。どうやらこの世界でもポール、ピエール、ピエトロのような言語による。同名の発音変化があり、愛称や仇名で全く違う名前になるのだろう……全く面倒くさい世界だ。
「パウルはそれでいいの? 基礎が使えるようになるだけでも、結構時間かかると思うけど……」
スヴェータは心配そうな表情でパウルを見る。
「何心配するな、愛しい我が子のためなら金など惜しくはない。
遊ぶ金とは違い技術は身になり盗まれる事は無い財産になる……それにスヴェが居れば、シルヴィーも喜ぶしな……ッと!」
バン!
スヴェータは、ソファーから立ち上がり、白金色の長髪を靡かせて、パウルに向かって抱き着いた。
俺はチラリと母の顔を見る。
ゴゴゴゴゴ――――。
画風と言うか作風……と言うか表現媒体体まで違いそうな擬音が、母親の背後に見えた気がする。
母親は目が座って、瞳孔が開いている。
いわゆるヤンデレと言う奴なのだろう。きっと冒険者時代にイロイロあったのだろう……父さんイケメンだからなぁ。
だが母さんも本気で怒っている訳ではないようだ。
「パウル! ありがとう! 私精一杯頑張るね……」
スヴェータの身長差も相まって、大人と子供と言った身長差だ。何せ父親であるパウルは目算ではあるが、180㎝を超える高身長のイケメンだからな。
「改めまして、スヴェトラーナ・アレクサンドロヴナ・ポクロンスカヤと言いいます。前にパウルとシルヴィー……君の両親とはパーティーを組んでいた事があって、その縁でキミの魔法の教師をする事になりました。難しい事もあると思うでも一緒に頑張って行こう!」
やっぱりロシア系の名前なんだ。名前。父名の女性系。家名の順になっている。髪色からしても北国出身なのかな?
スヴェータ改め。スヴェトラーナは、そう言って俺に手を差し出す。
「はい。スヴェトラー《《ニャ》》」
俺は幼い子供のカラダのせいか、舌が上手く回らず名前を噛んでしまう。見る見る顔が熱くなるのを感じる。
きっと羞恥心で顔は真赤に染まっているのだろう……
「あはははは」
スヴェトラーナは、俺が噛んだのが可笑しいのか、ゲラゲラと腹を抱えて爆笑している。
両親もクスリと笑い。可愛いモノを見る目を向けてくる。
「笑うのはひどいと思います」
「ごめんごめん。私の名前難しかったね。スヴェでもスヴェータでもラナでも、何でも言いやすい言い方でいいからね」
そう言ってワシャワシャと俺の金髪を撫でると、抱っこして一回転する。香水か分からないが甘い匂いがする。そしてそこまで大きくはないが、フニャリと胸の柔らかさを頬に感じる。
空中ブランコのように足が浮いて、浮遊感を味わえて少し楽しい。遊園地なんて数年行ってないからな……
「はい、おしまい。楽しかった?」
スヴェータは俺を床に下ろす。
「うん!」
「はっ!」子供の感覚に引っ張られていた?
中学生程度の背丈とは言え、三歳児の子供を抱っこするなんてスヴェータは見た目に似合わず結構力あるんだな……