少女との出会い、そしてアルバの夢
これからは0時投稿に統一しようと思います。
アルバは帰る途中に芝生の生えた広場に立ち寄った。アルバは日陰になっている横長のベンチに、体が痛まないようにゆっくりと座る。アルバは足を広げて背もたれに掛けて息をつき、頭上に広がる葉に目をやる。
アルバは葉を見ながら愚痴を言う。
「王子の影武者なんかになりたくない、どうせ死ぬまで戦場だ」
アルバが葉を見ていると噴水がある広場の中央から女の子の泣く声が聞こえてくる。
アルバは前にある噴水を見る。真ん中には大きな噴水がありその噴水には白い羽毛に黄色いくちばしを持つ鳥が群れで水遊びしていた。アルバは広場の様子を眺めていると、元気よく走りまわる小学生たちが多い中で一人、泥だらけの黒いワンピースを着た少女が芝生の上に膝をくっつけ、くの字に座り、泣きじゃくんでいるのを見つけた。黒いワンピースの袖の端は金色で高級感のある服だ。
アルバは心配そうな声で言う。
「どうしたんだろう」
アルバは長髪で綺麗な黒髪を持つ少女の元に駆け寄り、元気に大きな声で少女に話しかける。
「なんで泣いてるの?」
少女は地面にある泥だらけになった長方形の鉄の塊をずっと見ていた。
少女は鼻水をすすり上げて鉄の塊を見ながら言う。
「お兄ちゃんから貰ったゲーム機が」
そういうと泥で汚れた鉄の塊、ゲーム機を服の袖で拭く。拭けば拭く程、泥は広がっていく。
アルバは元気な声で言う。
「その四角いやつが泥だらけだね」
少女は今にも大声で泣き出しそうな声で言う。
「ゔん」
アルバはボロボロになったシャツを脱ぎ近くにあった噴水に近づくと、噴水の水溜まりにシャツを浸け、水を吸い込んだシャツを両手で強く絞った。
アルバは雨上がりで湿った地面に屈んで手を伸ばして言う。
「それ綺麗にして上げるから貸して」
それを聞いた少女は初めてアルバの顔を見る。少女は嬉しそうに声のトーンを上げて言う。
「ほんとにピカピカにしてくれるの?」
アルバは安心させるために笑顔を見せて言う。
「俺に任せろ!」
少女は泣き止み泥だらけになったゲーム機を持ち上げると、ゲーム機の裏側から付着した泥が糸引くように落ちる。その光景を見た少女は再び泣きそうになるが、涙を堪えアルバに手渡す。
アルバは泥だらけになったゲーム機を預かると、濡らしていたシャツで泥を拭いていく。するとゲーム機に付いた泥はみるみるうちに取れていき、シャツは泥で黒く汚れていった。アルバがゲーム機から泥を完全に拭き終えると、綺麗な赤色のボディになった。
少女は綺麗になったゲーム機を見て嬉しそうに飛び跳ねて言う。
「やったー!本当にピカピカになった!」
アルバは泥だらけになった服を着直した。
アルバは初めて見るその機械に興味を示す。アルバはゲーム機を持ち上げて表裏余すところなく見ると、黒髪の少女に尋ねる。
「長方形の赤いボヂィに真っ黒い鏡が付いてるけどこれ何に使うんだ?」
少女は笑顔でアルバに言う。
「教えてあげる、貸して!」
アルバは黒髪の少女にゲーム機を返した。少女が電源ボタンを押すと液晶に映像が映る。画面の中央にはトレジャークエストと題名がでる。少女が十字キーと円形のボタンを操作してスタートボタンを押すとマントを羽織る主人公らしき男がドット絵で出てきた。
アルバは少女に近づき少女の肩から顔を出して画面を覗き込む。
「これで何をするんだ?」
少女は言う。
「トレジャークエストは現実にある世界を冒険できるの」
アルバは疑問に思い首を傾げて言う。
「それなら自分で行けばいいのに」
少女はゲームを遊びながら言う。
「無理だよー、今は隣の国と睨めあいっこしてるし、世界中を冒険したらおばあちゃんになっちゃうよ」
アルバは少女の話に興味津々で目を輝かせて言う。
「そんなに広いんだ地球って」
少女はアルバの方を向いて言う。
「そうかも!見たことないものとかドキドキするお話がいっぱい見れたよ」
アルバは尋ねる。
「なんか面白いものあった?」
少女は言う。
「あったよ!主人公のロイがね、囚われた愛する姫を助けに行くの、そのシーンがかっこよくて好き!」
アルバは不満げな表情を浮かべている。
「全然知らない世界のことを知れた感ないんだけど」
少女は残念そうに眉を八の字に曲げて言う。
「見た事ない生き物で溢れてる国とか文明が発達した国とかもあったよ、そこに行けば不老不死になれるらしいよ」
アルバは目を輝かせて言う。
「不老不死?!他の国には大男とか小人とかもいるのかな」
少女は言う。
「居るかもね!」
少女は日が沈みかけていることに気がつき立ち上がって言う。
「そろそろ帰らないと、ありがとう綺麗にしてくれて!また遊ぼうね!」
アルバもそれに釣られて立ち上がる。立ち上がると少女の身長はアルバの胸の位置ぐらいまでしかなくとても小さかった。アルバは少女の顔を見て嬉しそうに言う。
「うん、また遊ぼうぜ」
少女が走っていく背中をアルバは見送っていた。
走って帰ろうとする少女は何かを思い出したかのように口を開けて立ち止まり、後ろを振り返り大きな声で元気よく言う。
「そうだ、私の名前はルナリアーナ・ブラミューク・ミューケ、よろしくね!」
アルバは予想外の名前を聞いて尻餅をついたが、それをごまかす様に胡坐をかいた。
アルバは動揺を隠し平然を装って、笑顔で明るく言う。
「俺はアルバ、よろしく!」
アルバはルナリアーナが公園から去るのを見送ると先程聞いた名前を思い出して言葉を漏らす。
「王女じゃん」
アルバは家に帰り、自室で血と泥で汚れた再起不能の白シャツをゴミ箱に捨て部屋着に着替えると、今日ルナリアーナから聞いた話を思い浮かべて、まるで自分がロイになったかのように冒険をする想像をしてアルバは瞼を閉じた。目を瞑るアルバの口角は自然と上がり、希望のなかった人生に一つの夢を抱き今日よりも楽しい明日が来ることを望んで眠りについた。
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