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変幻のカイト  作者: MAYU
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義母のロッテンは毒でしかない


 アルバが十二歳になった1月13日


 瞼の裏で何かが頬を突く音と感触だけがアルバに伝わってくる。アルバがゆっくりと目を開けると、日差しがアルバを照らし、アルバに「朝が来た」と訴えてくる。アルバは朝日を煩わしそうに手で窓の上に翳し、日光を防ぐ。アルバの赤い髪と淡い青色の瞳が日光に照らされて、美しかった。そして自分の手の甲を見ながらアルバはため息をつく。アルバの声は子供らしい可愛い声だ。


 アルバは毛布に入ったまま何者かに突かれているのを見るために顔を横に向けると、黄色い口ばしを持つ青色の鳥であるブルーノがアルバの頬を律動的に素早く突いていた。アルバがブルーノの大きく潤んだ目を見た瞬間、ブルーノは動きを止め可愛らしく首をかしげる。


 アルバは毛布を捲り、足を地面につけてゆっくりと立ち上がる。アルバの表情はまるで雨が降っている景色を見た時のように、憂鬱そうな表情をしている。アルバは収納棚を開けて白い長袖の襟付きシャツに着替え黒いズボンを履きベルトを締める。アルバが着替え終えるとブルーノが可愛らしく左右に揺らしながら近づいてくるので、アルバはブルーノの頭を撫でた。

 ブルーノの首に掛けられた時計を横目で見て自室の扉を開け階段を降り、リビングへと向かう。アルバはリビングの扉の前に立つと顔の表情を引き締める。


 アルバはドアを開けると、母が座っているのが見えた。ダイニングテーブルに肘を置き両手の指を交差させて待ち構えている義母に向かって怯えた様子で挨拶する。


「おはようございます、ロッテンお母さま」


 義母のロッテンは深い青色の髪を後ろでお団子にして纏め、三つ編みの編み込みを後ろでまとめている。

 義母のロッテンは眉一つ動かさずに言う。


「今日はあなたがミューケの後継者となる資格があるか試験させて頂きます、意気込みは?」


 アルバは威圧的なロッテンを前にして足の震えを抑えようと足に力を入れ、手をももに当てている。アルバは義母の眼を見て震える声を押し殺すように息を詰まらせながらも、声を震わせずに平然と言う。


「王家の後継になれるように頑張ります」


 アルバの義母であり王族の下女であるロッテンは言う。


「ミューケ一族の下女とはいえ貴方みたいな薄汚いのを面倒見たくないの」


 アルバは体を一切動かさず姿勢を正したままであった。表情も変えることもない。

だがしかしアルバは歯が砕けるのではないかと心配になる程、歯を強く噛みしめ感情を押し殺す。アルバの目は少し潤んだが、涙を流す事を堪える。これはアルバがこのような姿でいると思っているが実際は違う。


 アルバは無表情を貫いているつもりであったが、側から見たら今にも泣き崩れそうな子供にしか見えた無かった。唇が今にも開き声を出して泣き叫びそうになっている。目からは溢れんばかりの涙がアルバの目を満たして視界を歪ませていた。


 アルバはロッテンの指示で椅子に座る。ロッテンが砂時計を反転させるとアルバは涙を手で拭い真剣な様子でダイニングテーブルに置かれている三科目分の筆記試験問題に取り掛かった。科目の種類は剣術基礎・上級武学・中級霊学・の三科目である。どれも戦闘特化でアルバには戦闘員になる以外の道を閉ざされていた。


 アルバは解き終りペンをダイニングテーブルの上に置き、解き終わったことをロッテンに示す。

ロッテンが点数の採点が終えると、アルバに歩み寄り頬を平手打ちする。アルバは勢いよく頭を横に振り、頬が赤く染まった。アルバは我慢出来ずに泣き出す。


 ロッテンが泣いているアルバを無視して言う。


「相変わらず剣術基礎の点数が悪いわね、あんたの点数が悪いと私が叱られるの、もっと頑張りなさい」


 アルバの剣術基礎の点数は八十二点、一般的には高得点だが、合格点が八十点なので合格ラインにはギリギリなのである。もし一科目でも合格点に達しなかったら、この家を追い出されてしまう。アルバは地獄のような日々を生き抜くのに必死。


 ロッテンが言う。


「次は実技試験に向かいます、今回はミューケの後継者候補、同士で戦い殺し合ってもらいます」


 アルバはロッテンに訴えてかける。


「そんなの嫌だよ、殺したくない!」


 ロッテンはアルバを横目で見下ろして言う。


「来年の試験で最後です、頑張りなさい」



 ロッテンとアルバは実技試験の会場に向かうために舗装された道を歩いている。

歩行者はアルバとロッテンだけだ。

 ロッテンはアルバが逃げ出さないように手を繋いでいる。アルバはロッテンの歩幅に合わせるの為に早歩きをする。アルバは逃げ出そうと、ロッテンの手の中から手を引き抜こうとするが、握力が強く引き抜く事ができない。アルバの表情は暗く、足取りも重い。アルバの足取りが重くとも、転ばない為には速歩きするしかなかった。


 アルバとロッテンは舗装された道を歩き、ミューケが所有する研究施設の前までやってきた。ロッテンがドアノブを握ると解錠音が鳴る。ロッテンは解錠音が鳴ったのを確認して、ドアを開けて中に入る。ロッテンはアルバの手を離す。

 ロッテンはアルバを置いて白い廊下を進むと、微動打にしないアルバに気づいて後ろを振り返る。すると自分の肩ぐらいの身長であるアルバに目を向けて言う。


「私は観戦室に行きます、貴方はホワイトボックスに行きなさい」


 アルバは返事をするとロッテンとは別れてホワイトボックスを目指して白い廊下を歩く。

 アルバが白い壁に囲まれた部屋へと入る。アルバが肩の荷を下ろす。肩の荷を下ろして気軽になったはずのアルバの表情はロッテンと別れる前よりも暗くなりずっと白い床を見ている。


 程なくしてアルバの対面側から一人の男が両開きの自動扉から入ってくる。扉が横に開くとアルバより身長の高い細身の青年が入ってきた。青年は指先に吸盤の付いた黒い手袋を着けていた。


 ロッテンは電気の付いていない暗い部屋で足を組み、頬杖をついた状態でモニター越しにアルバを観察している。


 細身の青年が言う。

「まだ幼い子供を傷つけるのは気が引けますが、致し方ありません、ミューケの後継者を目指すもの同士恨みっこなしです!」と言うと、握りこぶしをアルバに向ける。


 アルバは小声で言う。


「そんなになりたいなら譲りたいよ」



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