新時代に乾杯を!
本作品は『東方project』の二次創作です。原作に作者の発想、解釈を加えたものになります。その点ご了承ください。
「シャンパンタワー?!」
「かしこまりました」
次の瞬間、どこから持ってきたのかわからないがテーブルが用意されて、その上にシャンパングラスの山が出来上がっていた。咲夜が時を止めて持ってきたのだろう。ご苦労様。
(さすが金持ちねえ…)
霊夢は少し羨む。
「元々幻想郷は妖怪の集まりだった…とはいっても我々吸血鬼はかなり新参になるのかもしれないけどね。妖怪は絶えず人間と戦闘を繰り返してきた。一回、また一回とそうやって幻想郷の素地が出来た」
シャンパンタワーの一段目をなぞりながらレミリアは言った。
「ところが、科学とかいう人間の学問が生まれて以降、人間は妖怪の存在を信じなくなった。妖怪は実在しないんじゃないかってね。本当はその逆よ。妖怪は存在を信じられるからこそ実在できるのよ。そこで妖怪は積極的に人間を襲撃し始めた。己の存在証明のために。いたずら。神隠し。挙げ句の果てには人殺しまでやった妖怪もいる。だが、襲撃された人間は妖怪の存在を認識しても、妖怪が襲える人間の数は限られている。消えゆく妖怪が増えれば増えるほど妖怪の存在を信じない人間の数は増えていった」
レミリアは2段目を触る。
「そこで妖怪達は結界を作り上げ、妖怪の存在を信じる少数の人間と共にそこに移り住んだ。これが幻想郷よ」
三段目を眺める。
「歴史の講釈を聞きたいわけじゃないのだけど」
「最後まで話は聞きなさい。…しかしこのままでは幻想郷の中の人間が減ってしまう。完全になくなってしまっては妖怪の存続にも関わる。人間と妖怪のバランスを保つ必要が出てきた。そこで長年外の世界で妖怪退治を行っていた強力な神職である博麗家を幻想郷に召喚した」
頂点である4段目を指差す。
「こうして幻想郷は作り上げられた。もうどういうことかわかったでしょ?」
「…何が言いたいの?」
「人間と妖怪は戦うという前提からでしか幻想郷は始まってないということよ!」
レミリアの目が赤く光る。
「私はこの前提を一妖怪として、また首脳としてこの前提を尊重してきた。逆に破ればー」
レミリアがタワーの一段目から一つグラスを手に取る。
ガラガラガッシャン!
タワーが勢いよく崩れ落ちる。
「このように幻想郷は崩壊してしまうだろう。どうせ人妖は戦うことでしか分かり合えない。死人を出しまくってからでしか反省も条約も生まれない。だからこそ霊夢、あなたは咲夜と戦ったのでしょう?」
「…」
「私は争うことをやめさせたりなんかしないわ。争うことが進歩だもの。争いの犠牲に何が出ようと私は受け入れるつもりよ」
「…でも」
「?」
「今回のように…何も生まない争いもあるのでしょう?」
「…」
「それってなんか嫌じゃない?…こんな争いを起こした私が言うのもなんだけどこんな争いはもうごめんよ」
「…ならあなたがこの幻想郷を変えてみせなさい」
レミリアがテーブルに壊れず残っていた一つのシャンパングラスに爪の先から一滴の血を垂らし、霊夢に渡す。
「…何よ、これ」
「私の血を入れておいたわ。これで運命を見ることは叶わなくとも…『本来の運命から外れる』ことはできるでしょう」
「運命から外れる?こんなことしなくてもあんたがやればいいのじゃない?」
「私の行動範囲は首脳という制約がある以上限られる。その上…このままの運命では陽炎とかいう輩に幻想郷は滅ぼされる」
「…!」
「だからこのままの幻想郷ではいけないことは薄々わかっていた。だから全てを霊夢、あなたに託すわ。それを飲むかどうかも。全ては幻想郷のためよ。選びなさい」
「…わかった」
霊夢はテーブルの上の血入りのシャンパンを手に取る。
レミリアはシャンパンを持っていた腕を上げる。
「これより幻想郷の運命は動きだす。もはや新時代となりその先に待つものは私にもわからない。それでもいいのね、霊夢」
「ええ、覚悟は決まったわ。運命を変え、新時代を作り上げて…陽炎を倒す!」
「いいでしょう!ではー」
2人がグラスを近づける。
「「新時代に乾杯!!」」
ぐっと飲み干す。
「どうかしら、味は…」
咲夜が尋ねる。
「ほろ苦いわね…でも」
霊夢はレミリアを真っ直ぐ見る。
「悪くはないわ」
「それでいい」
レミリアはそう言った。
「新時代とはそういうものだ」
サボりに対する罰として今日はもう一作品書いてみたいと思います。これで作品数的にはサボってないから問題な((殴