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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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なんかイメージちゃう

「閣下の言葉の切れ味、鋭すぎません? 昨日は戦闘中だからやと思てましたけど、素でそれなん?」


「取り繕う余裕がないので割と素ですが、鋭く感じるのであれば目を背けているからです。深く読み取ってはいないので、目端が利くなら誰でも分かりますよ」


「ぐうの音もでんなぁ」


 ぐったりと机に伏す。

 悠太はそれから視線を外すと、何かしらに気付いたのか天井を見上げた。


「どうしたん? 何か見えるん?」


「よりにもよって、騒がしいのが起きたな、と」


 ドタドタと足を鳴らしながら、何者かが階段を降りてくる。

 騒がしい音が居間を通り過ぎ、すぐに騒がしさが踊ってきた。


「パイセンおはようございます説明してください!!」


「やかましい。まずは落ち着くために茶でも入れてこい。三人分」


「体よく扱き使おうとしないでくださいやりますけど」


 ドタドタという足音がキッチンへと消えていく。


「元気やね。鬼面殿に一泡吹かせた作戦立てた子やろ? なんかイメージちゃうけど」


「率直にバカっぽいと言って構いませんよ」


「誰がバカっぽいですか!?」


 聞こえるはずのない小声に、キッチンから反応があった。


「なるほど、抜け目がないタイプみたいなや。ってこは、バカっぽいのは擬態ってことか? すっかり騙されたわ」


「擬態しているのは間違いないが、どちらかと言えば理想像の演技でしょう。青春を楽しむだの満喫するだのと言っているので」


「人の内面を勝手にバラすのやめてくれませんか? 名誉毀損で訴える前に、この熱々のお茶を頭から飲ませますよ?」


「内面をバラしたならプライバシーの侵害が正しいと思うが、お茶はありがたくいただく」


 盆に載った湯飲みを二つ取り、一つを自分、もう一つを正面へと置いた。

 成美は舌打ちをしながら、空いている席に座り茶を飲み干し、急須から茶を注ぎ入れた。


「で、どうなったか教えてもらえます? スクラちゃんはアイリちゃんと一緒に寝てましたけど、乗り切ったってことでいいんです? 最後の賭けには勝ったってことで良いんですよね、ねえ!!」


「落ち着けやかましい。もう一度茶を飲み干せ」


 素直に茶を飲み干すと、悠太が急須を傾ける。

 湯飲みになみなみを注がれたお茶を、成美は一息に飲み干した。


「……気絶する寸前に、最後の攻撃が破られたのは分かってるんです。でも、スクラちゃんは殺されてなくて、夢なんじゃないかって不安になって」


「後輩達が気絶した直後、鬼面殿が隙を晒したので絶招を差し込んだ。決死ではあるが指先に触れるのが限界でな。交渉には持ち込んだが、途中で気絶した。だから最終的な結論がどうなったかは分からん」


「分からんって……なんで不安になること言うんですかあああぁぁぁ!?」


 絶叫しながら悠太の胸ぐらを掴みあげた。

 いつもなら耳を塞ぐところであるが、顔を歪めながら成美の肩をタップする。


「やめ、内臓が痛んでるから、やめろ」


「内臓……? ……そういえば、斬られてましたよね? もしかして――」


「脱力して上手く流したから薄皮一枚斬れてないし、受け身も取ったから致命傷で済んでる。数日様子見してダメなら病院行くから気にするな」


「致命傷ならいますぐに病院行け!!」


 さる奥伝と同じ事を言う成美に対して、同じような反論をする。

 平常運転であるし、論理的な整合性は取れているのだが、感情が違うと否定する。


「……あの、そちらの剣士さん。剣人会のトップ層ってパイセンみたいな頭おかしい狂人ばっかりなんですか?」


「んなわけないやろ。閣下はトップクラスに頭おかしい狂人やから。というか、あんま言いたくないけど、剣聖なんてみんな狂人やから嬢ちゃんは気を付けた方がええで。クズ度なら人斬りに堕ちた奥伝の方が上やけど、まだ感情で理解できるから」


「なるほど、確かに。ゴールデンウィークに見たストーカーさんの方が人らしかったですね。フーカ先輩に負ける程度なので奥伝と一緒にしちゃマズいかもですが」


「いやいや、奥伝言うても人間やで。人並みに恨みもあれば出世欲もあるし、致命傷負ったら普通に病院で治療受けるわ」


「ヒドい言われようだが、俺だって人並みの欲や恨み言はあるぞ。自力での治療が無理なら素直に病院に行くし」


 口に出さないが、二人は同じ事を思った。

 空を斬ることが至上過ぎて人並みの欲が塵芥同然は立派な狂人で、修行優先で治療後回しは絶対に普通の範疇ではない、と。

 同士を見付けたとばかりに、二人は自然と固い握手を交わした。


「よく分からんが、親睦が深まったなら頃合いだろう。剣人会の方針を聞こう」


「え? まだ聞いてなかったんですか?」


「結論がどうなったか分からんと言っただろう。説明される前にお前が来たんだよ」


「話の組み立て的にもったいぶってるのかと。……まあ、ちょうどいいので聞きますが」


 背筋をピンと伸ばす。


「説明言うても、閣下の予想通りやで。神造兵器の暴走により剣人会の作戦は失敗するも、たまたま近くにいた剣聖閣下が調伏。経過観察は必要ではあるが、負傷した閣下の代わりに武仙殿が監視を請け負い、人間社会に溶け込むために閣下の親族が運営する会社に就職。以上」


「……なんかこう、色々と美化して誤魔化してません? ウソは言ってないけど、コレじゃない感がスゴいっていうか」


「政治畑の人材って怖いよな。こんな整合性が取れた建前を、スラスラ吐き出せるんやから。――あ、さすがに神造兵器として起動したら、正式に閣下に破壊命令で出るから覚悟だけはしとき。上の思惑を木っ端微塵にした責任ってやつや」


「神との繋がりを斬ってなお起動するなら、俺にはどうしょうもない。身内の責任として、命懸けで介錯すると伝えて欲しい」


「……パイセンはパイセンで情緒おかしくて怖いですが、繋がりって何です? もしかして、暴走の仕組みを理解したんですか?」


 成美が分かっているのは、剣人会がスクラップを暴走させたことと、悠太が剣を振ったら暴走が止まったことだけ。

 その後は鬼面が突如現れて、仲間割れに便乗するも、最終的には敗北した。

 つまり、何が起こったのかほぼ分かっていないのだ。


「仕組みといっても、神との繋がりがあるから兵器として起動したってことしか理解してないぞ。どんな目的で製造されたなんてコンセプトはまったくだ。その辺、剣人会の方がくわしいんじゃないのか?」


「や、ワイらも知らん。閣下を近くで足止めしとけば起動するて聞いたから実行しただけや。上の方も詳しい仕組みは知らんやないの?」


「起動条件とか停止条件が分からん危険物に手を出すとか、何考えてるんですかねどっちもですが。……ちなみにですが、神との繋がりって戻るんですか?」


「製造元の神が繋げ直さない限りはない。パソコンに例えるなら、有線接続を物理的に叩き斬ったようなもんだ」


「そのパソコン、無線機能付いていませんか?」


「スクラップがオンにしない限りは大丈夫だろう」


 暴走後も必死の抵抗を続けていたスクラップが、自らオンにするはずがない。

 不安は残るものの、ひとまず安心する成美であった。


「じゃあ、本当に終わったんですね」


「とりあえずは、な。しこりが残る連中がゼロとは言わないが、三種未満に翻弄されたとか剣人会にとっては恥の部類だ。報復は……多分ない」


「だから、報復とか多分とか不安になること言わないでください!! てか、あたしって報復の対象になりうるんですか!?」


「まあ、なるやろ。閣下の直弟子は武仙流やし、精霊憑きの子は天乃宮家が後ろ盾やから、手を出せんやろう。その点、嬢ちゃんはただの高校生やし、報復するなら狙い目やな。――実際に報復したら恥の上塗りやからやらんけど」


「……恥の上塗りを理解できないくらい感情的になるから、報復するんじゃないですか?」


 成美の疑問に答えることなく、二人はそっと目を逸らした。


「ちょっと!?」


「……世の中、絶対はないからな。けど、あれや。今回のメンバーは弁えとるの選んどるから、限りなく可能性は低いから、安心しとき」


「言質取るまで安心できるか!」


 ここから丁々発止の交渉劇が始まることになるのだが、悠太はそっと席を外す。

 キッチンへと向かい、三人分のお茶を用意するのだった。


お読みいただきありがとうございます。


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