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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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弾幕が薄いですね

 悠太と別れたアイリーン一行は、霧の中を彷徨っていた。


「これってさ、スーパーで見た結界だよね? わたしには外どころか内部の感知もできないんだけど、二人はどう?」


「外は無理だけど、端末を飛ばせば中なら何とか。……でも誰もいないし、物理的にも外には出られない。範囲も随時動いてるし、絶対どこかに誘導されてるよ」


「なら、端末の制御と処理、あたしに渡してもらえます。ライカ先輩とフーカ先輩には襲撃の対処をしてもらいたいんで。スクラちゃんはアイリちゃんを背負ってください。こっからは走りますんで」


 何かを言うよりも先に、スクラはアイリーンを背負う。

 フレデリカが先頭、ライカが最後尾に付くと、四人は走り出した。


「……あのー、持久走くらいならわたしもできますよ? その気になれば山の中でもパルクールできますし、わざわざ背負われなくても」


「アイリちゃんはぜひ背負われてください。戦力外とかではなく、背負われることに意味があるので」


「もしかして-、人質扱いですか?」


「それもありますが、的が増えると対処が面倒になるんです――盾、三五、二二、九六、三八、五五、一〇八」


 成美の声に合わせて、二人は盾の術式を発動。

 時間差なく魔導の弾丸が着弾。一〇秒ほど盾による迎撃が続いた。


「想定よりも弾幕が薄いですね。やっぱり剣士だから遠距離が苦手とか?」


「充分厚いと思うよ。魔導戦技にいる人達と比べたらアレだけど、前提条件が違うし」


「まあ、質が低い分にはいいんですけどね。今のは多分、数頼みの圧殺でしたし。命中率二割はさすがにアレですけど」


 魔導の弾雨を受けたのに、一行の移動速度は落ちない。

 背負われたアイリーンが事態を受け止められたのは、三度の弾雨が止んだ後だった。


「……お姉ちゃん含めて、よく冷静に対処できますね。というか-、よく指示通りに行動できますね。わたしじゃ絶対に無理です」


「成美ちゃんが組んだ術式補助アプリのおかげだよ。反射神経を鍛える必要があったけど、ゲームみたいに簡単に動かせるのが利点なんだ」


 悠太から出された魔導戦技の課題。

 一流の魔導師が集まってのバトルロワイヤルを生き抜くために必要だったのが、現在使われている動きながらの防御だ。

 消費呪力が倍以上になるという欠点があるが、防御は間に合わなければ意味が無い。

 また、ライカとフレデリカの二人に限れば、呪力の消費量はあまり問題にならない。この補助アプリを導入したことで、合流するまでの生存率が格段に上がったのだが、それだけで勝てるほど魔導世界は甘くない。


「でも、防戦一方じゃ押し潰されるわよ。考えはあんの?」


「今のまんまじゃ打つ手なしです。動き回って負荷をかけようにも、ルートを誘導されてる時点で待ち伏せし放題ですからね」


「かといって、止まるのは論外。待ち伏せするまでもなく定点砲撃で一網打尽、と。相手の出方待ちとか最悪ね」


「戦略の時点で負けてるんですからしゃーなしです。相手の方が上手だったと素直に認めましょう。でないと先に進めません」


 魔導戦技であれ現実であれ、事前に多くの準備を整えた方が勝つ。

 これは剣聖であっても例外ではない。もちろん、生半可な備えでは覆されてしまうが、剣聖を前提に覆せない備えをするだけのこと。

 事実、悠太も戦略的にかけられた幻術に、二度も後手に回っている。


「ところでお二人とも、体力がありますね。呪力もあんまり使ってなにのに、お姉ちゃんに付いていくとか相当ですよ」


「持久力は心肺機能を強化するのがコツですね。全身を強化すると速くなりますけど、燃費がすっごく悪くなって。今みたいにいつまで走るか分からないときはコレが一番効率が良いんです。……まあ、フーカ先輩はまったく使ってないですけど」


「あたしの場合は呼吸法」


「あのクッソ面倒くさい上に負荷がデカいアレですか? 呪力の節約にはなりそうですけど、素直に魔導使った方が楽ですよ。パイセンみたいのは別ですけど」


「その負荷が重要なの。身体強化するにしても元が弱かったら倍率が低くなるから、剣士はもとより武人には必須の技能よ。ほら、鍛えないとああなるし」


 最後尾を走るライカは、息絶え絶えになっている。

 身体強化術式で筋力を上げても、疲労は軽減しない。誤魔化す方法はいくつもあるが、処理できる術式にも限界はある。防御術式、心肺機能の強化、索敵術式の維持、それから思考能力の健全化。

 いかに呪力が多かろうと、処理能力を超えての魔導使用はできないのだ。


「先輩の防御範囲、わたしが担当してもいいですよ」


「ま、まだ平気だよ……このペースでも、一時間くらいは……多分、きっと」


「一時間以上走るかもしれないんですし、索敵術式が切れるだけでもこっちは終わるんです。だから素直に担当させてください。


「……うん、分かった」


 それから、幾度となく襲撃があった。

 霧の外からの遠距離砲撃のみであるが、一度として同じ攻撃はない。

 だが、成美の適確な指示と、フレデリカの魔導によって対処された。


「やたら多彩ですね-。わたし、三分の一も知りませんし、そもそも一つも感知できませんでした。成美さん、よく分かりますね」


「感知はライカ先輩の術式が優秀なんです。対処法は…………魔導戦技で、何度も死んでますからね。それを一つひとつ解析して、対処法を研究してけば、イヤでも増えていきますから。アイリちゃんも資料見ます? 門外不出ですけど、アイリちゃんなら見せてあげますよ」


「戦闘力はいらないのでノーサンキューですー」


 善意からの提案だったが、アイリーンは即答する。

 成美も予想通りの反応にやっぱりかーと朗らかに笑う。


「ちょっと、アイリを荒事に巻き込もうとしないでよ。いくら後輩だからって、容赦なくぶっ飛ばすわよ」


「ちょ、冗談! 冗談ですから、本気にしないでください」


「いや、本気だったわ。本気でアイリを荒事に巻き込もうとしてたわ」


「お姉ちゃん、シスコンがキモい」


「キモ……っ!?」


 ずずんっ、と気落ちして速度が落ちる。

 同時に砲撃に襲われるが、問題なく防がれた。


「ちょっ!? アイリちゃん、フーカ先輩のメンタルにダメージ与えないでください!」


「お姉ちゃんは調子に乗るとウザいので、定期的にしつけないとダメなんです。それに、この程度で腕が鈍るなら、お兄さんから初伝をもらってません」


「それは、そうですけど……」


 わざわざ声には出さないが、鍛錬中に何度か似たようなことをしている。

 それを知っているからこそ、容赦なく毒を吐いたのだ。


「ぜえ、ぜえ、……あれ、だんだん遅く?」


「フーカ先輩、ちょっと遅すぎです。ペースアップを」


「いや、ここが目的地でしょ。そろそろ出てくるだろうから、構えて」


 完全に停止して、デバイスを正眼に構えた。

 半信半疑ながらも成美も警戒を強め、ライカは肩で大きく動かし呼吸を整える。


「誰か来る気配ないですけど、なんでココだと?」


「だってここ学校裏だし。近くに他の建物なんてないし、適度に開けた場所もない」


「やっぱり学校に向かってましたか。見覚えある道だなーって思いましたけど」


「……あの二人とも、気付いてたなら一言言ってもらえます? 土地の情報って、作戦建てるのに必須なんですよ」


 地元民ながらの説得力ある考察に文句を付ける。

 だが二人は涼しい顔をしていた。


「予想が当たるかなんて分かんないし、外れたときはダメージ大きいし」


「予想ぐらい言ってくださいって話です! フーカ先輩のメンタルへのダメージなんて最優先でもじゃないんですから!!」


「ダメージ大きいのはライカ先輩の方。持久力ギリギリでゴールが違ってなったら、もう走れなくなるわよ。あんたも覚えあるでしょう?」


 ライカはと言えば、杖に寄りかかりながら膝を着いている。

 予想が当たっていただけあって、成美は何も言えない。


「……――誰か来ます。数は……五」


 一部の霧が晴れ、視界は広がる。

 ライカの呼吸は乱れたまま、彼女たちは接敵を果たした。

お読みいただきありがとうございます。


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