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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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残当だと思うな

「戦力差が絶望的だとは分かりましたが、具体的にはどうするんですか?」


 脱線した話が戻らないと思ったのか、アイリーンが発言する。


「一つだけですね。パイセンが敵さんの拠点に突っ込んで、あたし達全員で籠城する」


「……お兄さんの負担が大きすぎませんか?」


「フーを含め、誰も俺に合わせられないから仕方ない」


 むっ、と顔をしかめる三人。


「私達が南雲くんに合わせられないのには、異論はありませんよ。でも、南雲くんなら合わせられるんじゃないですか? 乱戦になったら、相手の連携を逆手にとって攻撃していますし」


「アレは周囲の全員が敵だから出来る芸当です。攻撃を流す先を気にする余裕がない上、統率の取れた連携をしていることが大前提になります。ライカ先輩達は連携っぽいことが出来るようになっただけで、素人の域を出てません」


「素人同然ですか。パイセンも似たようなもんなのに、よく言えますね」


「必要ないからな」


 にべもない返しに、成美は青筋を立てた。


「そりゃ、軍人でもなければ必要ないでしょうね。それとも、剣聖って呼ばれるくらい強いから必要ないってことですか!?」


「奥伝以上となら、充分な連携が取れるからな」


「――つまり、あたし等が悪いと?」


「知っての通り、俺は魔導が使えないから近接戦しかできない。敵と密着している仲間を害さずに行動できることが、俺と組む最低条件だ。フーを含めて誰も出来ないだろう?」


「って、言ってますけど。フーカ先輩もなんですか?」


 じとっ、とした視線から、逃れるように顔を背ける。


「……一対一じゃない剣での戦い方なんて知らないし、精密射撃なんてそもそも出来ないし……」


「ああ、いつも通りの不器用が原因ですか。なら仕方ないですね」


「ぐぬぅ、言い返したいけど、言い返せない……」


 平均的な魔導一種持ちの一〇倍の呪力を持つも、不器用すぎて活用出来ていない。

 現在は、剣や火界咒などに限れば、実践で通用する。だが、通用するだけの技量になるまで、常人の倍以上の時間をかけている。


「現実的な問題としてだな。集団戦だと、弱い駒や浮いた駒から処理していくのが基本だ。俺だけが突き抜けてる以上、連携も満足に出来ない駒なんて自殺そのものだ」


「なるほど、それなら分かります。ゲームでも数減らさないと死にますし、人間なら精神的ダメージを与えられますしね。狩りでもそうなんですよ。慣れてない人を一緒に山に入ると、両方危ないんです。素人さんは無意識に刺激したいするので」


「大体合ってる」


 納得して頷き合う。

 だが、三人はモヤモヤしたものが胸の奥に残った。


「となると、いつ実行するかが重要そうですね」


「理想は、今すぐに動くことだ。上手くいけば、奥伝以外の構成員もまとめて潰せるからな」


「でも、すぐだと要塞化が出来ていない。お兄さんが速攻で動くと読まれていたら、カウンターでこっちが押し潰される危険がある、ですよね」


「ほぼ確実に起こること、に訂正しておけ。相手はアレを殺しに来た精鋭中の精鋭だぞ。俺たちが取れる戦略なんて想定済みで、交渉が決裂するのは大前提として動いている」


「大前提なら、交渉したのはおかしくないですか? わたしはもちろん、お姉ちゃん達にも来たんですよ」


「それは……後輩から説明しよう」


 突如話を振られた成美は、半眼になる。


「は? パイセンがすればいいじゃないですか?」


「俺たちの帰省についてきて、こんなくっだらない騒動に巻き込まれたお題目、忘れたとはいわせないぞ」


「…………ああ、合宿でしたね、建前としては」


 すっかり忘れてたようで、思い出すまで時間がかかった。


「だと思ったが、建前に使ったなら使ったなりの成果を出せ。部活の参謀役はお前だし、分かりやすく説明しろ」


「むぐぐ、旅行したいがための建前に首を絞められるとは……パイセン、やりますね」


「勝手に自滅しただけだろうが。魔導師なら、自身の発言には神経質になるほど気を付けるべきだ。全てウソか、全てホントか、どちらか極端な方が怖いからな」


「ええ、肝に銘じておきます。パイセンにくっだらない言質を取られるのはゴメンですからね」


 隙があれば同じことをする、という信頼感が悠太にはあった。


「で、剣人会が交渉したことに矛盾がないか、でしたか? 矛盾なんてないですよ。だって、向こうから見たらやり特ですから」


「そうですか? わたしやお姉ちゃんのことを調べたら、失敗するって分かりますから、無駄な労力だと思いますけど」


「成功させるつもりだったなら、無駄ですね。でも、失敗が前提ならいんですよ。微量でも成功の目がありますし、失敗したら失敗したで最初の計画を走らせればいいんです」


 言われてみれば、とライカとフレデリカは頷く。


「経営者目線にはなりますが、それだけのために動くとは思えないんですよね。動くにもコストがかかりますから、ほぼ不可能なことをするよりもって、思いません?」


「いえいえ、あたし達の行動を縛れるって利点があります」


 首を傾げながら、次の発言を促すアイリーン。

 仕草の意図に気付いたのか、眉がつり上がる。


「……あたし達が剣人会に勝つには、パイセンだけ突撃させて、籠城するしかありませんが、これは向こうも分かり切っています。で、分かっているなら、最初からその対策をしておけばいいだけ」


「逆に言えば、その想定から外れると困るってことですよね? なるほど。剣人会に狙われていると知らなければ、外れる可能性が高くなる。だから、合理的に行動してもらうために、わざわざ交渉をしたってことですね」


 わざとらしいニコニコ顔に耐えきれなくなり、成美の矛先が変わった。


「……アイリちゃん。なんでパイセンばりの小芝居なんか? パイセンと同じで、この程度のことは分かってたよね?」


「いえいえいえいえ、小芝居だなんて。わたしは経営者ですよ~。無駄なコストをかけるほどの余裕はありません。でも、お姉ちゃんがお世話になってる人達ですからね。経営者よりも視野が広いんじゃないか? くらいには思っていますよ」


「おいパイセン! あんた妹にどんな教育してんですか!?」


 アイリーンに怒鳴るわけにもいかないと、悠太に怒鳴りつける。


「まずは落ち着け。ゆっくりと深呼吸しろ」


 すぅ、はぁ、と。

 三回ほど繰り返して、怒気を鎮める。


「落ち着いたなら、常識に当てはめて考えて見ろ。――普通の中学生は、地元の不良をまとめ上げて会社を作ったりしない」


「…………確かに」


「普通の中学生は、嬉々として罠猟で害獣を駆除しないし、会社が回るような事業モデルを組み立てたりしない」


「……――確かに」


「ましてや、あの辺で走り回ってる不思議生物を作って、ペットにするはずがない」


「――――確かに!!」


 まー、という鳴き声を上げながら、家中を走り回る三匹のナマモノ。

 マンドラゴラを素体とした動く植物ではあるが、普通の中学生は作れない。また、作れる魔導師がいても、放し飼いのペットにはしない。


「あらら、とんでもない誤解をされちゃいましたね。どうしたらいいかな、お姉ちゃん」


「アイリは可愛い妹だけど、客観的に見たら残当だと思うな、お姉ちゃんは」


 コンコン、と。

 居間から縁側に繋がる戸が叩かれる。


「カラス……いや、式神か。古風な」


 戸を開けると、カラスはテーブルの真ん中へと降り、手紙へと化けた。


「え? カラスが紙に? どんな術式ですか?」


「古典的な陰陽道だ。現代魔導と比べたら、非効率極まりないのが特徴だな」


 成美は手紙を広げるが、すぐに悠太に渡した。

 達筆すぎて読めなかったようだ。


「で、何書いてあったんすか?」


「果たし状だ」


「……随分と、古風ですね」


「受けなきゃ、家を焼いてでも炙り出すそうだ」


「…………随分と、野蛮ですね」


 手元に置いていた、剣型のデバイスを手に取った。


「あれ、もう行くんですか?」


「今すぐ来い、だそうだ。――分かってるよな?」


「もち。すぐに出て行きますね。……当てはありませんけど」


 準備終わる前に、事態は動き出した。

お読みいただきありがとうございます。


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