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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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保険証と、保険内容をチェック

「襲撃があるかも? じゃあ、悠太くんだけがこっちに詰め……部活のメンバーだけで? うーん、大人としてはダメなんだけど、決めちゃったんだよね。……なら仕方ないか。終わるまでは留守にするから、終わったらちゃんと連絡してね」


 荷物を手早くまとめると、夫と一緒に家を出た。

 夕食を食べ終えてすぐのことである。


「説得らしい説得しないで、ミレイユさんを巻き込まなかったのは良かったけど……物わかりが良すぎないかな? 準備してたものが全部無駄になっちゃったし」


「お母さんはリアリストですから、剣人会の剣豪となんて戦いませんよ。お兄さんがいなかったら絶対に出てかなかったですけど」


 残った全員が、居間に集まっていた。


「ところで、本気なんですか? わたしと一緒にいたお兄さんはともかく、お姉ちゃん達は見逃してくれますよ」


「アイリが狙われたわたしが動かないわけないでしょうが。兄貴ならともかく」


「二人して俺をなんだと思ってるんだ。あと、前提が間違ってる。狙われてるのはそこのスクラップで、アレさえ引き渡せばいつでも見逃してくれる」


「お兄さんこそ何を言ってるのやら。わたしがスクラさんを見捨てることはありません。負けて攫われる可能性は高いですが」


 互いに現状を確認し合ってから、話し合いが始まる。


「えー、じゃあ、魔導戦技部の部長として、司会進行をさせていただきます。議題はどうやってスクラちゃんを守り抜くか。まず、基本方針を成美ちゃんから」


「わっかりました!」


 周辺の地図が印刷されたA四用紙をテーブルの中央に置く。


「まず、あたし達がいるのがここです」


 その辺に落ちていた石を置く。

 洗って乾かした後なので、地図に汚れはつかない。


「で、剣人会組がいると思われるのは、ここ。駅の近くにあるビジネスホテルっぽいです。さすがに現地にいくのは危ないので、ネットで確認しただけですが」


 同じように石を置く。


「外から来たなら当然の選択だろうが、なぜここだと? 剣人会の資金力と政治力があれば別の場所を用意することも可能だろう」


「即席で使い魔作って追わせたので間違いありません」


 言うまでもないことだが、許可されていないのに魔導を使うことは犯罪。

 また、使い魔に尾行させることも犯罪である。


「よく、気付かれなかったな」


「かなり工夫をしましたからね。ライカ先輩直伝の幻術を核にして、相対距離を指定することで、車程度なら振り切れずに追跡できるんです。感覚共有なんかもバッサリカットすれば逆探知の心配ありませんし、最後には探索系の術式で居場所を特定すれば良しってもんです」


「相変わらず、無駄に器用だな後輩。フーじゃ逆立ちしても出来そうにない」


「おうこら。事実でも言う必要ないだろう。……出来ないけど」


「だろうな。未だに太って飛べない雀くらいしか作れないからな」


「いいのよ別に! 魔導師だけど、本分は剣士だし!!」


 現時点で魔導三種を取っているだけあり、高校では優等生の部類に入るフレデリカ。

 だが、悲しいかな。生来の不器用さから、創作系の授業では点が取れない。魔導二種ではジェネラリストとしての適性が求められるため、一芸特化のフレデリカとの相性が悪いのだ。


「自身の剣がようやく固まり出したからな。ある程度までは今のままで良いが、魔導二種を取るんだろう?」


「…………大学入学前には、取りたいと思ってるけど」


「なら、合格ラインまでは身に付けろ。魔導一種は二種が取れる土台を前提として、飛び抜けた何かが必要だ。もちろん、多芸を極めて万能な魔導師はいるが、一芸だけを極めて一種を取った者はいないし、いちゃいけない。これは奥伝も同じだから覚えとけ」


 隙あらば教育をする悠太である。


「話しを戻すが、何人ぐらいいそうだ? 出来れば奥伝の数も」


「や、さすがにそこまでは。見付からないことを優先してますし」


「あ、それなら私が」


 手を上げたのはライカだ。


「成美ちゃんが設置した使い魔を起点に、監視用の使い魔をバラまいたの。魔導師ならすぐ分かる普通のと、それに紛れるような幻術の二種類を」


「ああ、なるほど。本命が見付からないようにしつつ、本命が対処されても敵の力量が分かってどっちでも良いって寸法ですね。さすがライカ先輩、頭良いです!!」


「魔導戦技じゃ、ここまでやっても本命が潰されちゃうんだけどね。今日は潰されてないから、魔導一種はいないんじゃないかな」


 魔導戦技は現在、新しい技術の大規模実験の側面が強い。

 参加者も厳選されているため、魔導一種や奥伝が出てくることも珍しくないのだが、本来はどちらか一方が出てくるだけで大事である。


「魔導師の質は分かりました。人数はどうです」


「うーん、見えただけでも一〇人以上はいる、かな? でも、南雲くんやフーカちゃんみたいにキッチリ動いている人は、半分くらい」


「それは……困ったな」


 構成員の半分が武人でないと聞いて弛緩した空気を、一気に悪化する。


「困るんですか? 剣人会のメンバーは半分ってことですよね?」


「対処できると思われる数を派遣しているから、人数じゃなくて割合の問題だ」


 例えば、悠太の場合。

 何でも斬れる剣聖なので、単独で敵と斬り合うことが多い。

 これは決戦戦力として一人で充分であることが関係するが、相手と悠太を接触させる追い込み役や、事後処理のための人員は数多く投入されている。

 この事例に照らし合わせると、実働部隊の割合が低ければ低いほど、質が高いことになる。


「剣人会のメンバーは基本魔導師でもあるから、支援役の割合は低くなるはずなのに、先輩が見ただけで半分となると……奥伝は三人、鬼面殿の他に二人はいるとなると、……――うん、アイリ。やっぱり引き渡さないか? 想定の三倍は本気だ」


「なんと、お兄さんにそこまで言わせるとは。――これは本格的に敗戦処理を考えないといけませんね。保険証と、保険内容をチェックしてきますか」


 大怪我で入院することは覚悟の上、らしい。


「ここで、葬儀の出し方とか言いだしたら、強制的に引き渡すところだが」


「イヤですね、さすがに死にたくありませんよ。というか、死ぬよりも早く気絶させられてしまうので、考慮することも出来ないが正しいですね」


「だが、遺書の用意はしてあるんだろう?」


「当然の備えですからね」


 成美とライカ、スクラの三人が、ぎょっ、と目を見開いた。


「疑問、遺書を用意する時間はないと記憶しています」


「そりゃそうですよ、用意したのは今日じゃないですから」


 三人は、よく分からないと首を傾げる。


「いいですか。わたしがやっているのは、害獣駆除、つまり狩猟を主軸にしたビジネスです。罠猟なので、銃を使うよりは矢面に立たないので多少はマシですが、それでも死ぬリスクは無視できません。なので、遺書は定期的に更新しているんですよ」


 理屈は分かるが、気持ちは分からない。

 そんな視線を悠太に送ると、そんなもんだろうと頷く。


「解説しなくても分かるだろうけど、アイリは覚悟セメントだかね。下手な剣士や魔導師と比べてもアイリの方が上だから、田舎の普通だって勘違いしないように」


「えー、本当ですか-? パイセンとかアイリちゃんみたいのを輩出するような田舎なんですから、これが田舎の普通なんじゃないですか-?」


「そんなわけないでしょうが。その証拠に、わたしがいるでしょ」


 ドン、と胸を叩くフレデリカ。


「…………や、フーカ先輩も割と……でも、パイセン達よりマシ、か?」


「南雲くんと比べて弱いからな気がするけど、……高校入学前に魔導三種取るのも相当だよ。あんなに、不器用なのに……」


「ええ、片鱗は見えますよね……まあ、今は違うということで、納得しておきましょう」


 ひそひそと協議をするのを、悠太達は見なかったことにした。

お読みいただきありがとうございます。


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