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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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軽トラックで山へ

 フレデリカ達が買い物をしている頃、悠太とアイリーンは軽トラックの荷台に乗っていた。


「アイリ、なぜアレに運転させてるんだ?」


「免許を持ってるからですよ。ちゃんと試験を受けて取ったので安心安全です。教習所にも行かなかったのに取ってくれたので、懐にも優しい子です」


「見た目がマズいだろう。下手したらアイリより若く見えるんだから」


「免許を持っているから大丈夫ですよ。何度か職質されてますけど、免許を出せば突破できるので題ありません」


「……どうやって正式に試験を受けれたんだか」


 人間社会で生活をする上で、身分保障は非常に重要だ。

 スクラのように出自や年齢が不明な存在が取得するにはハードルが高く、持っていても大抵は裏取引による偽物。

 よほどのことがない限り、本物は手に入れられないのだ。


「さて、わたしにも理由は。ただ、多芸な子です。少し教えればすぐに出来るようになるんですよ」


「だから、魔獣退治にも同行させると? アレに任せた方が早いと思うが」


「おやおや、気付いてましたか」


 ガタガタと揺れる軽トラックの荷台で、嬉しそうな笑みを浮かべる。


「当たり前だ。キョンがいるのは房総半島。周辺地域に生息地を拡大してるようだが、ココに到達するには早すぎる。なら、何かの隠語だと思う方が自然だ」


「魔獣に絞ったのは?」


「同行メンバー。アイリはともかくとして、狩りが目的ならアレ以外にいてもいいはずだ。残りは勘――だが、隠す気なかっただろう」


「麓に着いたら話す気でしたからね。それにお兄さんはピンとこないかもしれませんが、魔獣は魔導災害ですよ。しかるべき所に連絡しないといけないんですから、可愛い従業員に危険なことをさせるわけには」


「俺ならいいのか?」


「お兄さんは剣聖じゃないですか。この辺だと猟友会か剣人会を頼ることになるので、プロに任せるって意味では同じです。報酬だってちゃんと用意していますからね」


「……今日に限ってはいらない。アイリは身内だし、研ぐ機会があれば逃したくない」


 家から三〇分ほどかけて、目的の山に到着した。


「荒れてるな」


「相続問題で放置されてるんですよ。太めの霊脈が通ってるので、第三者のうちが最低限の管理をしてるんですけど、最低限ですからね。常にフェーズⅠ以上の魔導災害が発生してる状態で、ついにフェーズⅢにまで進んで魔獣が発生しちゃったって感じです」


「…………斬ったらアレか。これをネタに地上げする気か?」


「当たり前じゃないですか。土地の管理も出来ないでフェーズⅢなんて、一線越えてますよ。県議会にも根回し済みですから、思う存分斬っちゃってください」


 獣道を分け入りながら、ニコニコとした満面の笑みを浮かべる。

 だが、その笑みは能面のように整っており、胸の奥にうごめく感情は表情とはまったく違うものだと察せられる。


「いつ、県議会に伝手を?」


「ふっふっふ、別に難しいことじゃないですよ。害獣関連でうちは大手ですからね。害獣被害に関するアレコレを受けてたら、自然と。猟友会がイヤがるお仕事も率先して受けるのは大変でしたけど、やっぱり信用と信頼は商売の基本ですね」


「猟友会がイヤがるって、魔導災害絡みだろう。ここの管理を押しつけられたのもその一環じゃないのか? …………あまり無茶はするな。フーはもちろん、俺も心配くらいする」


 悠太の言う無茶が、報酬を受け取れない理由の一つである。

 だが、アイリーンのする無茶は、誰かがやらねばならない無茶。そこから苦労に見合った利益を引っ張ってくるので、強くは言えないのだ。


「警告、注意を」


 スクラが発言すると同時に、悠太は剣型のデバイスを抜く。

 アイリーンは悠太が構えてから一秒後、まごつきながらカード型のデバイスを手にする。


「何があった」


「回答。捕らえていた魔獣が討伐されました。討伐者はこちらを認識した上で待ち構えています」


「回避は?」


「難しいと判断。数日前から本機を監視する勢力の一員です。回避しても再度接触を図る可能性が高いと提言します」


「ああ、剣人会の人ですか。スクラさんを拾ってからというもの、アプローチがしつこいんですよね。けど、会わない選択肢はありません。魔獣退治の手柄を取られてしまったんですから、交渉しないとお山が手に入りません」


 手にしたデバイスをしまう。

 剣人会が相手なら無抵抗でも結果は同じ、という判断からだ。


「――ところでお兄さん」


「ここで見捨てるつもりはない。――が、最初は俺が話を通す。いいな」


「もちろんです。どんな結果になっても、なんとかするので好き勝手に斬り散らかしても大丈夫ですよ」


 悠太が先頭に立って、魔獣を閉じ込めていた結界に踏み入れる。

 とはいえ、景色ががらりと変わるなどということはない。霊脈を利用して魔獣を外に出さないよう環境を整え、その内を幻術で見えないようにしただけの代物。

 隠されていたのは、クマほどの巨体がある獣。

 蛇の尾に獅子の身体、鷲の翼に人の顔という、様々な生物のパーツを継ぎ接ぎしたような獣だったが、死骸となっていた。


「剣聖。殿――で、相違ないか?」


「頭に最弱の、を付けるのでいいなら合っている。そちらは奥伝――と呼ぶには不足なほど強いな。なんと呼べば?」


「鬼面、と。称、されている」


 訛りとは違う、無理やり継ぎ接いだような声。

 戦国に普及した当世具足、鬼を模して面頬を身に付けている。


「では、鬼面殿。単刀直入にお聞きしますが、この山が欲しいんですか?」


「? どう。いう、意味だ?」


「あなたの倒した魔獣だが、相続争いで管理不足になって発生してな。それの討伐を条件に、我が家で管理することになっていたんだが、実際に倒したのはあなただ」


「そ。れは……」


「知らなかった、というのは反応を分かる。だが、あなはた剣人会所属の剣豪だ。いくら俺が剣聖でも――いや、剣聖だからこそ。あなたの為した功績を誤魔化してはいけない。違いますか?」


「……で。は、証文を……用。意、しよう」


「ありがとうございます。あなたほどの剣豪との衝突が避けられたこと、感謝します」


「否ま。だ、である」


 魔獣の頭蓋に刺さっていた大剣を引き抜き、スクラへと切っ先を向ける。


「剣人会、は。彼。の個体、の破、壊を目的とする」


「つまり、アレを始末するから手を出すな、と?」


 鬼面は頷いて肯定する。

 悠太は構えを解いたが、仕舞うことはなかった。


「残念ながら、俺はアレの保護者じゃない。アイリの答えは決まってるだろうが――念のためだ。どうするつもりだ?」


「何度も言っていますが、受け入れるわけありません」


 鬼面と悠太は同時に動く。

 デバイスと大剣が、互いの首に突き付けられる。


「獲、物を抜。かぬか?」


「今、手にしているじゃないですか」


「ナ、マクラ以。下であろう」


「武仙の秘奥は全てを斬ること。武器は選びませんし、選んでいては腕が鈍ります。俺は確かに最弱ですが剣聖。ナマクラごときでは枷にはなりません」


 強がりの部分はあるが、事実でもある。

 主武装である祓魔剣は素手でも扱えるだけでなく、精神に影響を与えるため切れ味など関係ない。極論ではあるが、悠太が振って折れないのであれば、木の枝でも問題はない。


「楽しそうですね、お兄さん。お邪魔になりそうなので、先に山を降りてもいいですか?」


「いいわけあるか。鬼面殿はソレが逃げようとした瞬間に斬りかかるし、剣人会が仕事で動いている以上、他にも人がいる。降りた先で人質にされるのがオチだ」


「ははぁ、なるほどなるほど。では、こうしましょう」


 アイリーンは懐から液体の入った試験管を取り出した。


「こちら、霊脈を乱すことに特化した猛毒です。これを渡しますので見逃してください」


 首筋から汗を流しながら、躊躇なく命乞いを始めた。

お読みいただきありがとうございます。


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