表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
71/176

お人好し

 バイト内容は主に二つ。

 一つ目は、農作物の収穫。

 もう一つは、収穫した農作物の出荷作業。

 収穫物を傷付けないように注意する必要はあるが、基本的には単純作業。朝早くから始まったバイトは、特に問題が起こることなく昼前には終わった。


「……つ、疲れた」


 単純作業ではあるが肉体労働。

 運動が得意でないライカは、ダルくなった身体を居間で癒やしていた。


「大丈夫ですか、ライカ先輩?」


「うん、大丈夫。念のために治癒力向上の術式も使ってるし」


「それだけだと、明日は筋肉痛がヒドくなりますよ。全身をほぐすためにマッサージすることをオススメします」


「そうなの? だったら……」


 悠太にやって欲しいと言おうとして、異性に身体を触られることに思い至る。

 頬を赤くしながら伏し目がちに、小声でささやいた。


「…………どこを重点的にほぐせばいいか、教えてくれる?」


「そうですね。先輩は出荷作業をしていたので」


 手短に、かつ分かりやすくライカに合ったマッサージの仕方が説明された。


「うーん……場所は分かったけど、力加減が大変そうだからマニュアル操作がいいかな。間違えて設定したら、骨が折れても続けちゃうし。よし――マクロ」


 デバイスを起動し、即興で術式を組み上げていく。

 魔導師でない悠太にはどれほど高度なことかは分からないが、余剰呪力が少ないことからライカの技量が以前よりも上がっていることが見て取れた。


「よし、出来た。まずは肩から――」


 出来上がったのは、幻術を核とした呪力の人形。

 背格好はライカと寸分変わらないが、身体に凹凸は一切なく、色も白いとしか認識できない。最低限、人型として成立するように作ったとしか思えない作りである。


「痛っ――、ふひひ……ふにゃ、……にゃみゃぁ」


「力入れすぎですね。あ、腰はもう少し右――ええ、そこです。気持ちいいじゃ力が足りないので、もっと強く。痛いくらいに体重を乗せるように」


 畳に寝そべったライカは、呪力の人形を使ってマッサージを始める。

 終わるまで口出しをするつもりはなかったが、見当違いの場所を指圧したりするので、間違いがある度に修正をする。

 悠太がすれば五分ほどのマッサージは、倍以上の時間をかけて終了した。


「ふみゃぁ……ふぁ、……これで終わりで、いいのかな?」


「はい、お疲れ様です。これで明日の筋肉痛はマシになりますよ」


「マシ、なんだ」


「痛覚を消さない限りはなくなりませんよ。まあ、消した方が危ないので、絶対に消さないでくださいよ。先輩なら出来ると思いますけど」


「しませんよ、筋肉痛くらいでは――マクロ」


 呪力の人形は小さな光へと解けていく。

 小指の先ほどの小さな光は、蝶へと変化して放射状に飛び去っていった。

 蝶達は周囲二〇メートルにいるヒトの情報を、ライカへと届けた。


「南雲くんは、スクラちゃんのことをどう思ってるの?」


 周囲に二人しかいないことを確かめてから、気になっていることを尋ねた。


「アイリの拾いモノじゃないなら、首を撥ねて息の根を止めたいですね。首を撥ねた程度で死ぬとは思わないですが」


「真っ先に殺そうとするほど、危ないんだね」


 魔導戦技でもない限り、悠太は殺そうとはしない。

 空を斬ること以外は等価なので、生かすも殺すもどちらでも同じなのだが、殺すと後始末が大変なためだ。

 その悠太が初手で殺そうとした。

 スクラがどれだけ危険な存在なのかは、それだけで分かるというもの。


「実際に殺せるかと言われたら、とても難しいですが。恥も外聞もなく本音を言わせてもらえば、そもそもの話し関わりたくないです。スクラップを名乗るなら、俺の知らないところで朽ち果てて欲しいレベルですよ」


「古種って言ってものね。どの種族かも分からないし、最悪を考えないとだめかな」


 古種の定義は様々あるが、最も有名なのが一〇〇年を超えて生存する霊長類。

 霊長一類・精霊種を除けば、全ての霊長類は滅多なことでは一〇〇歳まで生きない。

 そんな霊長類が寿命を超えて生存には、魔導が必須となる。寿命という括りを超越する知識や技量を持つ魔導師は、魔導一種でさえ子供扱いするほど。古種の中には武仙のような例外もいるが、魔導もなく寿命を超越する存在など、下手な古種よりも厄介。

 特に、元の種族が分からなくなるほど特異な変貌を遂げた古種は、一人一種とも評されることもある。


「種族の予想ならついてますよ」


「本当に!?」


 古種であれど、元の種族の特製から逃れることはできない。

 一人一種でもそれは同じで、特異性の根幹を解明するには種族特定は必須事項ともされる。


「あれは十中八九、被造種です」


「被造種って、六種に入れるか議論されてる? ホムンクルスとか、オートマタの中でも自我に目覚めた個体、だったよね?」


「盤外として実体を得た付喪神も入りますが、アレは最初から最低限の自我がある前提で造られたと思います」


「そんなことまで、分かるの? 剣聖だからって、だけじゃないよね?」


「後天的に自我を得た存在を知ってるだけですよ。アイデンティティの傾向が見分けるポイントになりますが、スクラは自我の核が機械に似ていました。先天的な自我を持つ被造種の特徴ですね。後天的なのは、もっとフワフワした遊びがあります」


 どちらでも大した違いはないですが、と悠太は締める。


「被造種の古種ってなると、創造主も古種になるよね? もしも、スクラちゃんを回収にきたら……」


「スクラップになるほど放置するんですから、気にする必要はありません。気にすべきはアレの製造理由。実行機能が壊れたからスクラップを名乗っているなら問題ありませんが、判断機能がバグったという理由なら即殺す必要がありますね」


「その判断が付くまでは、手が出せないってことだね」


 殺す気で指を向けて、結局は殺さなかった理由はそこにある。

 武仙の言葉も大きいが、最終的には殺した場合のデメリットが不明すぎることが要因だ。


「でも、さ。アイリちゃんもこのくらいのことは、分かってるよね?」


「間違いなく。戦略的な視野の広さなら俺以上ですからね。魔導師としての位階もフー以上ですから、アレのヤバさもしっかりと認識しています」


「その上で匿うんだからスゴいよね。私にはマネできないな」


「排除するのではなく、関わることで利益を確保するのがアイリの基本方針です。割に合わないので考にするのはオススメしません」


「えっと、魔導師なら情に揺れてお人好しをするなってこと?」


「人間ですから、お人好しをするのは構いません。ただ、リスクとリターンは厳しすぎるくらいに計算することが必須です。アイリはお人好しをしたいがために、リターンが大きくなる環境を整備するくらいのことをやってますから」


 整備した結果できたのが、アイリの会社である。

 害獣駆除を主軸とした会社は、僅かな期間で周辺地域で大きな影響力を持つに至ったのだが、起業理由の一つが地域の不良を見捨てられなかったからである。


「そこまでいくと、魔導師だからとかじゃないね」


「一番怖いのは、経済の世界ではアイリもヒヨッコ扱いってことですね。魔導師や剣士でも社会の軛からは逃れられませんから、仕方ないですが」


 その軛から外れているのが、悠太の師匠や姉弟子である。

 どちらも古種に分類されているが。


「じゃあ、もしもの話だけど――合宿中にスクラちゃんを殺そうとする人が来たら、見捨てた方がいいかな?」


 武仙と悠太との会話を、ライカは知らない。

 しかし、彼女はナニカを感じ取っているのだろう。そうでなければ、合宿中にと仮定する理由がない。


「好きにしていいですよ」


「……そんな投げやりな」


「最悪の事態になれば俺が頭下げて師匠を動かしますし、最悪よりも手前なら俺がどうにかします。せっかくの合宿なんですから、好きなように動いて好きなように経験を積んでください。魔導師として活動する以上、荒事からは切り離せませんから」


 イヤな経験だなと思いつつ、悠太の気遣いを嬉しく思うライカだった。

お読みいただきありがとうございます。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ