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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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田舎道

 新幹線を降りた一行は、鈍行列車に乗り換え、そこからさらにバスで揺られていた。

 朝早くに家を出たというのに、バスを降りた時には時計は昼時を示していた。


「……田舎だとは聞いていましたけど、遠すぎませんか!?」


「だから、何度も言っただろう。宿泊施設もないド田舎だって」


「発展度合いを聞いてるんじゃありません、距離を聞いているんです!」


 舗装されていない道には、魔導戦技部一行以外に人がいない。

 だから成美がいくら叫んでも他人に聞かれることはない。


「よくよく考えて見ろ。俺とフーの実家は農家で、アイリは害獣駆除を中心とした会社を運営している。これらの条件に当てはまる場所が都市部の近くにあると思うか?  さらに付け加えると新幹線の行き先で予想付くだろう」


「そうですね、ええ、そうですね! パイセンの言うことは正しいですよ! でもですね――こっちはお腹空いたんですよ!! 到着時間くらい言っといてくれたら用意したのに!!」


 バスを降りてから三〇分。

 スーツケースをガラガラと転がしながら、ろくに舗装されていない道を歩き続けている。


「一〇分くらいのガマンだ。昼飯を用意してもらえるよう、フーが連絡済みだ」


「パイセンじゃなくて、フーカ先輩がですか?」


「お前等が泊まるのはフーの家だからな。当然だろう」


「……そういえば、パイセンとフーカ先輩って、従兄妹でしたね」


 同じ部屋に住んでいるため忘れていたが、師弟であっても兄妹ではないのだ。


「あれ? 家が違うのはいいとして、パイセンはどこでお昼を?」


「無論、俺の実家でだ。――言っとくが、俺たちにとってはあくまでも里帰りの一環だ。お前達はそれにくっついてきて、勝手に合宿と言い張ってるだけだ」


「…………そうですね」


 無理を言った自覚はあるため、悠太の言い分が正しい。

 だが、想像していたものとは違う道程に、眉が下がってしまう。


「昼食が終わってしばらくしたら合流する」


「無理しなくていいですよ。家族との団らんを優先してください」


「別に無理をするつもりはないし、二人がいる間はこっちを優先すると予め言ってある。さすがに朝と夜は別だが、明日からは基本的に同行する」


「じゃあ、何で今日は?」


「荷物があるからに決まってるだろう。あと、俺だって腹減ってんだ」


 普段よりも攻撃性が増しているのは、空腹が原因のようだ。


「たま~にですけど、パイセンから人間的なセリフが出ると、人間なんだ~って感じがしますね。ライカ先輩もそう思いませんか?」


  スーツケースを転がす音以外に反応はない。


「……? どうしました、ライカ先輩?」


「んん……ん? ごめん、成美ちゃん、何かな?」


「いえ、ちょっと共感を求めたかっただけなので……ただ、どうしました。何かボーッとしてますけど、気になることが?」


 あはは、と乾いた笑い声をもらしながら、頬を掻く。


「気になるというか……スゴいなぁって」


「すごいド田舎だと?」


「否定は出来ないけど、そうじゃなくてね。霊脈がスゴい整ってるの。でも、都会みたいに理路整然としてるんじゃなくて、とっても自然というか。乱雑なんだけど、秩序があるというか、うーん、説明が難しい」


 霊脈の管理は、魔導災害の発生に影響を及ぼす重要な要素。

 都市部では多くの魔導師が霊脈管理に従事しているのだが、地方ではマンパワーが不足する傾向にある。

 では、地方ではどうなっているのか?

 答えは、地元の魔導師が勝手に管理している、だ。


「はぁー、そんなにですか。管理してるとしたら、フーカ先輩のご両親ですかね?」


「してるはしてるけど、比重で言えば三割くらいよ」


「といういことは、複数の家で管理してるの? 地方じゃ珍しくないって聞くけど、その割には手が入ってないというか、魔導師の数が少ない感じがするかな」


 霊脈や呪力の流れを知覚するという点で、牧野ライカよりも優れた魔導師は少ない。

 それは妖精種の血を引き、精霊ヴォルケーノを宿していることに由来する感覚だ。


「鋭いですね、ライカ先輩。この周辺で魔導三種以上を持ってるのって、わたしの家だけですし、土地の管理も家しかやってませんので」


「それなのに三割だけ? ……いや、土地の管理って煩雑だから、兼業なら最低限にする家も珍しくないけど、それにしては完璧すぎるというか……」


 ライカが一流の基準としているのは、天文宗家と謳われる天乃宮家。

 彼らと比べればさすがに劣るが、自分には決して出来ない高度な技術によって整備されていることは理解できる。


「あー、それね」


 言いづらそうに目を細めながら、フレデリカは悠太にチラリと視線を向ける。

 数瞬待っても悠太が何も言わないので、意を決して口を開けた。


「これから言うことは、口外しないでくださいね」


 重要な秘密を打ち明ける前口上に、二人は唇を引き締めた。


「あ、別に口外したら消されるような話しじゃないですよ。ただ、色んな意味で例外的な話をするので、都市伝説的な扱いを受ける可能性がなきにしもあらずというか…………兄貴、ちょっと説明して」


「師匠は仙人だからな。カテゴリーとしては限りなく精霊に近い存在だ。そんなのが近くに居を構えていたら、霊脈に影響を与えないなんてことはありえない」


「……まあ、そういうことです」


 フレデリカが言い淀むのも当然だ。

 霊長一類・精霊種。魔導戦技部の面々にとって、それはライカの内にある身近な存在だ。

 だが、精霊とは本来、台風や地震、火山の噴火のような自然災害を具現化したような危険な存在。師匠の師匠を悪く言うことなど、孫弟子に出来るはずもなかった。


「軽く調べただけでも色々な逸話が出てくる人ですけど、マジモンの仙人なんですか? 武仙って言われてるのは、仙人級に剣や武を極めたみたいな意味じゃなくて、マジでマジな仙人ですか?」


「ああ、師匠はマジな仙人だよ。生まれは平安で、どこぞの農民だったらしい。武士に憧れて剣に見立てた棒を振って、畑仕事が疎ましくて村を捨てて山奥に入り込んで、日がな一日棒を振ってたらいつの間にか仙人になってたそうだ。ちなみに、仙人になってから人里に降りたのは――源頼光が酒呑童子の討伐に行く少し前だそうだぞ」


「待って待って、待ってください! 情報、情報量が多いです! 立て板に水流すみたいに情報を流さないでください!!」


 ちなみに、武仙の出自に関する情報は、直系の弟子でもなければ知らないレア情報である。


「師匠に興味がありそうだったから話しただけだぞ?」


「気になったのは仙人って部分だけであって、生まれとか生涯とかじゃないんで……あっ」


 気付きたくないことに気付いてしまったようだ。


「パイセン、あたし達の安全のために聞きます。この辺がお師匠様の住処で、お師匠様は精霊みたいなものと言ってましたよね?」


「仙人だからな。――まあ、世界との合一を目指す天仙の系列とは違うが」


「仙人の種別はどうでもいいです。お師匠様が精霊だと仮定すると、あたし達って精霊の縄張りに無断で侵入したってことになりません?」


 成美の懸念は正しい。

 一口に精霊と言っても、その種類は千差万別。人間以上の知性を持つ個体もいれば、動物程度の頭しかない個体もいる。

 そして、精霊は己の縄張りというものを重視する。

 もちろん、重視する程度に大なり小なりの個性は出るが、自然災害の化身に目を付けられたらどうなるかなど、論ずるまでもないだろう。


「あのな、仙人と言えど人だぞ。それに縄張りに人を入れたくないなら、縄張り内に集落があるわけないだろう。もう少し論理的に考えろ」


 呆れながら、ゴロゴロとスーツケースを転がす一行であった。


お読みいただきありがとうございます。


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