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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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新幹線とトランプ

 新幹線が動き出してすぐ、スーツケースを積み上げた。

 四人の中央に現れた即席のテーブルに、トランプが広げられた。


「さてさて~、何から始めます?」


「いきなりトランプか?」


「せっかく新幹線で合宿なんですよ、トランプするに決まってるでしょ」


「兄貴、何言ってもやるはめになるわ。時間つぶしになるし適当に付き合いましょう。――まずはババ抜きでいいんじゃない?」


「えー、ありきたりすぎません?」


「なら、ジジ抜き。ジョーカー二枚入ってるヤツ? ならそれも含めてランダムにしましょう。どれがジジか分からない緊張感。ババ抜きよりも楽しめると思うわ」


「いいですね。ポーカーフェイスだけじゃないランダム性。やりましょう」


 シャッフルし、一番上の一枚をスーツケースの上に置く。

 カードが等しく配られゲームが始まる。


「………………」


「………………」


「………………」


「………………」


 黙々と引き、カードが揃えば黙々と捨てる。

 新幹線の中という衆目を集める場所であるので不思議ではない。

 が、そのように殊勝な訳で静かなのではない。


「…………単調でつまんないんですけど」


「なら、ポーカーでもするか? 少しでも騒いだら斬って落とすが」


「あー、無理ですね。熱中しそうですし……」


 騒げば、引率の剣聖が本気で黙らせる。

 そんな状況下で騒げる者はこの場にはいなかった。


「なら、大人しくジジ抜きを……」


「いやいや、もう充分です。ヒマ潰しも終わりにしましょう」


 トランプを回収し、ケースにしまった。


「え、いいの、成美ちゃん。まだ、着くまで時間あるよ?」


「いいんですよ、ライカ先輩。ヒマな時間で、パイセンに語ってもらうので」


 トランプを手持ちカバンに入れてから、成美は真面目な顔になった。


「率直に聞きますが、パイセンって恨み買ってます?」


「買ってるだろうな。敵対者も基本的に殺さないし、師匠や姉弟子が買った恨みを向けられる可能性だって少なくない」


「じゃあ、パイセンを恨んでる相手がこの新幹線に乗り込んでる可能性、あります?」


 成美の発言に驚いたのは、ライカとフレデリカの二人。

 悠太は顔色を変えないどころか、眉一つ動かさなかった。


「限りなくゼロに近いが、突拍子のない考えだな。なんでその考えに至った?」


「そんなもん、乗るときに殺気? みたいのを感じたからですよ。魔導戦技でパイセンと斬り合ってる剣豪さん方と似た感じだったので、絶対にパイセン関連だなって」


「この短期間に、良く感性を鍛えたものだ。フーカは周囲への警戒が苦手でな。観の目をお覚めさせるのに苦労したものだ。お前が望むなら、この辺を見てやってもいいぞ?」


「いりませんよ、んなもん。いや、別にパイセンやフーカ先輩の技術を貶める気はないですよ? ただ、あたしには合いそうもないなってだけで――じゃないです。質問に答えてください。こっちは気が気じゃないんですから」


「気が気でないのに、ジジ抜きしてたのか?」


「気が気じゃないから、トランプで気を紛らわしてたんです」


 よほど恐ろしいのか、両腕で自身の身体を抱きしめる。

 普段の成美からは想像もつかない仕草だが、無理もないと悠太は瞬きをする。


「――心配はない、俺への挨拶だ」


「その割には、首が落ちた気がしたんですけど?」


「奥伝の中でも上澄みの剣気だ。気絶せず、幻視程度で終わった胆力は見事としか言えない」


「上澄みなら……何であたしに気取られたんですか?」


「それは逆だ。彼の剣気は精密にコントロールされていた。フーはともかく、ライカ先輩のヴォルケーノも反応しなかったのが証拠。詳細はどうかは知らないが、剣気に反応したのなら自身の危機に対しての感受性が強いんだろう。伸ばせば武器になる」


 掛け値ない称賛を受けたのは理解した。

 だが、素直に受け取ることが出来なかった。


「嬉しくないです……。パイセンに褒められるのも、こんなに怖い思いするのも」


「そうか? だが、それがお前に向けられることはない。剣士の誇りとは基本、格上のと斬り合いだ。まして向こうは仕事だ。俺が邪魔するならともなく、ちょっかいを出すなどプロとしてあり得ない」


「違います~。戦う心配とかしてません~」


 唇を尖らせる理由が分からず、首を傾げる。


「兄貴に情緒なんて求めても無駄だって、分かり切ってるでしょうに」


「そうは言っても、分かって欲しいって思うのが人情でしょ。フーカちゃんもそうじゃないの? 少なくとも私はそう思ってるな」


「まあ、身内としてはそうね。でも、昔に比べたら人間味が増してるのよ、これでも。だから人間味がこれ以上増したら、堕ちそうで怖いのよね」


 フレデリカの懸念は正しい。

 武仙流から剣聖に至った者は、多くが人外へと堕ち剣聖の資格を失っている。

 武仙その人も、人から仙人へと変貌した剣士。悠太は人の身であることに拘っているので、剣聖に留まっているようなもの。


「誰が堕ちるか。剣士で堕ちるヤツは大抵、殺し合いや強くなることが目的の連中だ」


「祕剣を再現したいからって、人斬りまくって堕ちた剣士の話を聞いたことあるわよ。これって、兄貴の同類が堕ちたケースじゃない?」


「はんっ!」


 悠太が鼻で笑った。


「おいクソ兄貴。珍しく人間性を見せたと思えばなんだ。バカにしてんのか?」


「お前も俺をバカにしてるだろう。祕剣のために人を斬るヤツはな、人を斬りたいから斬ってるか、祕剣を実践で使えるって誇示したいだけだ。対して俺は、人を斬ることにまったく興味がないし、人に知られる必要性も全くない」


 他の剣士と悠太の最大の違いは、最終目的。

 空を斬るという性質上、他者が介在する必要はなく、剣士としては例外的に自己完結している。


「いや、兄貴の同類よ。だって兄貴、剣が完成したかどうかを確かめるでしょ? 人を斬ることに興味ないのは分かるけど、大抵の剣って人殺しの手段だから」


「…………そうか? 立居合とかは人斬りの技だが、実際に斬らなくても分かるぞ」


「それは兄貴だからよ。私はね、一足一刀が使い物になるのかどうか、魔導剣術の試合で使うまで分かんなかったんだから。それが普通の感覚よ」


「そう、か…………? まあ、使わなければ確信できないなら、斬るしかないのか?」


 論理的な帰結としては理解できるが、感情的にはまったく理解できないようだ。

 腕を組んだ上で、首が大きく傾いている。


「まあ、パイセンの信条はどうでもいいです。どう足掻いても人としてアレなのは変わらないので」


「……そうね。兄貴が剣聖なのは変わんないわよね」


 人でなしに近い評価を受けるが、特に憤ることはなかった。


「ええ、ええ。重要なのは、そんな剣聖のパイセンに、どこぞの剣豪さんが殺気を飛ばしてきたってことです。あたし達にちょっかいかけないのは理解しました。プロで仕事中だというのも納得しましょう。――ただですね、仕事でパイセンを狙っている可能性もありますよね? その辺はどうなんですか?」


「ないない、絶対にない」


「判断のソースは? こっちは首が落ちる感覚もあって気が立ってるんですよ」


「……剣豪が集団で仕事をする場合、大抵は剣人会関連だ。名前貸し程度の緩い繋がりだが、俺も一応、剣人会の所属になる」


「剣聖が名前貸しってことは、広告塔的な役割ってことです?」


「大体合ってる。剣士業界のみならず、魔導業界全体に名前が知られているのが剣聖だ。それが所属しているというのは、立派な箔になる」


「………………分かりました。色々と穴がありますが、一応納得しておきます。一応ですが」


 ふてくされたように、座席に背中を預けて目を閉じた。

 ムードメーカーの成美が不貞寝をしたことで、新幹線の旅は静かなものとなるのだった。


お読みいただきありがとうございます。


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