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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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終業式(情報提供)

 一学期の終業式。

 午前中のみの短縮日程と、翌日から夏休みが始まることもあり、ほとんどの生徒が午前中の内に帰宅をする。

 だというのに、悠太は生徒会室に顔を出していた。


「早かったわね。もう少し遅くなると思ってたわ」


「面倒ごとは早めに片付けるに限る。明日から実家に帰るからな」


「そこは同意。私も本家の方に顔を出さないといけないのよ。だってのに、生徒会の仕事はちゃんとやれとか、日々のお勤めに不備はないかとか、アレが食べたいコレが食べたくないだとか、外野がゴチャゴチャごちゃごちゃ…………はぁ、やってらんないわ」


 お昼の重箱の両隣には、書類が山のように積み上がっている。


「分からないでもない。俗世のしがらみからは逃れられないからな」


「世捨て人同然の剣聖に言われたくないわ」


「何を言う、世捨て人なら高校になんて通ってないし、弟子も取ってないぞ」


「あんたのはアレでしょ。世捨て人になったら討伐対象になるから仕方なくでしょう、どうせ。本家にも似たようなのがいるから分かるのよ」


「それを俗世のしがらみと言うんだ」


 悠太と香織、どちらも人間社会では異端とも呼べる力を有している。

 思うままに振るえば、地震や台風のような天災に比する被害を出すほどの力を。


「無論、立場によって責任の大小に違いがあるからな。俺にはお前の苦労は分からない。だが、考えたり察しようとうする頭くらいはある。――今日、俺を呼んだのはライカ先輩のことだろう? 明日から俺の――正確にはフーの実家で寝泊まりするからな」


 フレデリカが合宿か何かに参加するなら、自分もそうする。

 言外にそう告げていた。


「悪い?」


「師として当然の行動だろう。天乃宮が一流である証左だ」


「そうね、あんたに情緒を求めるのが間違ってたわね。――ただ一言付け加えるなら。俗世のしがらみを煩わしいと思うなら、もっと情緒を身に付けなさい。私から見て、あんたは必要以上にしがらみに絡め取られてるように見えるわ」


「そうか? 最低限だと思うぞ」


「その最低限が、私基準では必要以上なの」


 指を折って数えてみる。

 一つ、剣聖であること。

 一つ、高校生であること。

 一つ、弟子を持つこと。

 一つ、――……


「ほら、両手じゃ足りないじゃない。どんだけ鎖を付けられてんのよ」


「だが、客観的に見て俺は危険だぞ? 制限はあるが《理》の剣士。無差別かつ広範囲を斬ることは出来ないが、その気になれば何でも斬れる。確かに剣聖の中では最弱だが、その一点だけでなら神にも届く。警戒するのは当然だ」


「……情緒が足りないから、鎖が多くなるのよ。あんたよりも危険度の高い私でさえ、片手で収まる程度。それだって多くて煩わしいのに」


「煩わしいことには同意はするが、鞘は必要なものだ」


「持ち手としての意思も必要よ。私たちは魔導災害でも兵器でもなくて人間なんだから。それがないなら、ガワが人間だったとしても化け物になるわ」


 魔導師も剣士も関係なく、力を持つ者としての心得。

 この心得を忘れた者を狩り取ってきたのが、剣聖としての悠太である。


「誰かに委ねた覚えは一度もないぞ」


「あら、そうなの? 警察から回ってくるお仕事、全部受けてるって聞いたけど」


「事実だが、内容を聞き納得したうえで受けている。気に入らないなら受けないと明言しているし、剣人会から回ってきた仕事はほとんど断っているぞ」


「本当に意外ね。特に剣人会からの仕事を断ってるってのが。あなた、一応は剣人会の所属よね? 名目上のことだって分かってるけど」


 流派の括りなく、剣を極めんとする剣豪集団。

 剣を極める以外に共通点がなく、明確なトップも存在しないため、組織としての結束には欠ける。そのため、悠太のような名ばかりメンバーも少なくない。

 だが、その戦力はどの勢力でも無視することはできない。

 それが、剣人会という組織である。


「魔導災害や指名手配犯の対処ならともかく、外道に堕ちる可能性が高いから斬れなどという道理のない仕事をする気はない。カネを積むから手合わせしろという話なら、時間があれば受けることにしてるが」


「あー……非営利とはいえ剣士の互助会だものね。連中の思想に共感できないなら、自然と疎遠になるのも無理ないか……」


「疎遠というか……師匠や姉弟子の伝手があるから、程度の関係だな。暗黙の了解を含めて剣士の心得は承知しているが、その他の部分で共感できることは少ないのが正直なところだ」


「…………所属してる意識もなし、か。念のために確認しとくけど、敵対してるわけじゃないわよね、剣人会そのものと」


 いくつもの流派が集まった雑多な組織のため、一つや二つの流派と仲が悪いのは当然。

 だが、ごくたまに、剣人会という枠組みそのものと敵対する個人や組織がいる。この場合、流派の仲の悪さを乗り越えて、剣人会そのものが総力を持って討伐に動く。

 例え、相手が剣聖であったとしても。


「個人的には、敵対以前にほとんど関わりない部外者だと思ってる。向こうとしても、剣聖が所属していると宣伝したいだけだろうから、基本は放置だ」


「適確なのか、自分を過小評価してるのか、判断に困ること言わないでほしいわね。剣聖のネームバリューって、天乃宮でも無視できないくらい大きいのよ」


「理解してる。最弱といえど、外から見れば師匠や姉弟子と同じ戦果を期待されるんだ。あの二人を間近で知っている身としては、それで充分だ」


「武仙一門か……まあ、あんたも一員ね。私は実体を知ってるけど、外から見れば分かんないか。特に最近は、魔導戦技で暴れまくってるものね。奥伝級の剣豪を中心に広まってくれて、天乃宮としてはウハウハよ。客寄せパンダとして、宣伝費を渡してもいいんじゃないかって思うくらいに」


 魔導戦技は新しい競技だ。

 費用を始めとした参加障壁は高いが、達人である剣豪ならば容易く突破できる。

 魔導師のための設備のため参加は難しいと思っていたが、剣聖と安全に殺し合いができるという噂が広まったことで、剣人会でも注目されている。

 同時に「最弱なれど剣聖、侮りがたし」という悠太の評価も。


「宣伝してより強いのが集まるというなら、正式な仕事として受けるぞ。強い魔導師の相手をする機会は限られるからな」


「なら、責任者には話をしとくわ。――それはともかくとして、剣人会とはほとんど関係がないって認識で良いのね」


 もちろん、と肯定する。


「じゃあ、ライカが世話になる対価として、これを渡しとくわ」


 一枚の紙が渡された。


「読み終わったら返してね。すぐ燃やすから」


「……剣人会が動いている、か。それも俺の地元で……師匠は、関係ないだろうな」


 武仙と剣人会の関係は、悠太のそれと似ている。

 所属する剣士が教えを請いに来れば教えるが、仕事を受けることはまずない。

 そして敵対するメリットもないので、基本は放置である。


「天乃宮は何か掴んでいるのか?」


「私は知らない。でも、剣人会はあんたを意識してるでしょうね。この前の魔導剣術の大会は覚えてるわよね? フーカに勝ったヤツ」


「あの巨漢か。剛剣はまあまあだが、魔導はさっぱりの未熟者」


「その未熟な初伝が同行してるのよ。小間使いって思えば不思議じゃないけど、そいつ以外は全員が中伝以上。奥伝も複数人がチーム組んでるっていう、かなりの戦力。どう、荒事の香ばしい匂いがするでしょう?」


「俺に話がないところを見ると、道理のないグレーな仕事だな。接触されることも覚悟しておくか」


「あんたがどう対応しようと勝手だけど、ライカだけは巻き込むんじゃないわよ。ヴォルケーノが解放されたら、冗談じゃすまないんだからね」


「分かってるよ、その辺は。――情報感謝する」


 紙が返却されると、即座に燃やされる。

 全てが灰になると同時に、悠太はカバンを手に取って生徒会室から出て行くのだった。


お読みいただきありがとうございます。


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