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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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反省会(後の祭り)

「ところで、反省会は終わりで良いですかね?」


「ああ、飯がマズくなる話題だったな」


「いえ、その点は別に。マズくなるのはその通りですがぶっちゃけ今更です。パイセンって空気読まずに解説する解説魔ですから、慣れましたよ」


 慣れたくなかったけど、と顔に書いてあった。


「あたしが話したいのは今後についてです。具体的には夏休み! 一生に一度しかない高一の夏休みを、これ以上ないほどに充実させるって決めてるんです!!」


「すればいいじゃないか」


「シャラップッ!! 枯れた唐変木は最後まで話を聞いてから発言してください! ――最高の夏休みにするために、ぜひとも魔導戦技部で合宿をしましょう!!」


 拳を振り上げて、高らかに宣言をする。

 これに反応したのはライカだった。


「合宿ってあれだよね! 山とか海とかに行って修行するヤツだよね!!」


「そうですそうです! レベルアップのための修行パート! だけでなく山や海という青春ポイント高めのスポット! せっかつ部活をしてるんですから、合宿せずにどう青春を楽しめって言うんだって話ですよね!!」


 ライカが目を輝かせるのに呼応するように、成美の演説に熱が入る。

 だが、反比例するように二人の目は冷え切っていた。


「個人競技とかチームスポーツならまだしも、魔導戦技って総合力が試されるバトルロワイヤルよ? しかも超高度な仮想現実が舞台の。短期間で実績を上げようとしたら、安全性を無視した外法に手を出すか、ガチの軍隊式スパルタ研修に参加するしかないと思うんだけど」


「民間人向けのレンジャー研修に参加するか? 自衛隊なら伝手があるから、戦闘魔導師向きのメニューに参加できるぞ」


「しませんよそんなガチ!!」


 確実に成果のでる提案は不評のようだ。


「っていうか、パイセンもフーカ先輩も分かってて言ってますね!? 緩くて青春楽しむ系の合宿がしたいって分かってますよね!!」


「それ、旅行って言うのよ? 部活メンバーで旅行したいならそう言えばいいじゃないの」


「字面の問題です!」


 その堂々とした物言いに、そういうものかと納得しかける。

 だが、実利を優先しがちな習慣から、やはり違うだろうと揺り戻る。


「合宿でも旅行でも好きにすればいいけど、わたしらは参加できないからね」


「何でですか!? 効果のない合宿には参加できないってことですか!?」


「いや、実家に帰るから」


 学生に限らず、上京してきた人物であれば当然のイベント。

 家族関係が不仲であれば別だが、フレデリカが入院したと聞いたアイリーンは上京しているので、二人が実家に帰るのは当然のことだろう。


「夏休みは一ヶ月以上もあるんですよ。それでも参加できないっていうんですか!?」


「ええ、最初と最後の二日間以外は帰るもの。実家に帰ってからはアイリの手伝いしたり、実家の手伝いしたり、兄貴に剣を教わったりする予定よ」


「……それは無理ですね」


 フレデリカが家族に深い情を抱いているのは周知の事実。

 家族と過ごす時間こそが至上であると仮定すれば、ただの旅行に同行するはずがない。

 合宿という名目にしても、悠太との修行の方が効果が高い。


「…………パイセンも同じですか?」


「まあな。師匠に顔を見せる必要もあるし、仕事を振られる可能性もある。仕事次第では手伝いは出来なくなるだろうが、基本的には同じだ」


「なるほどなるほど……ふむ」


 並の手合いであれば諦める状況である。

 しかし、なんとしてでも青春を満喫しようと企む成美は、どうすれば合宿を開催できるかと頭をフル回転させる。


「話は変わりますが、フーカ先輩の実家ってどんな場所です?」


「農地と山しかないわよ。アイリのやってる害獣退治がビジネスになるくらい需要があるど田舎で、移動には車が必須。乗用車より軽トラの方が好まれてるわね」


「なるほど山ですか。近くに海があったりしません? もしくは、泳げるような川とか池とか湖とか」


「ないわよ、海も湖も。池は農水用ね。川は……オススメしないわよ。事故る率が無視できないし、寄生虫だっているもの」


「……忠告がガチすぎません? パイセンっぽいんですけど」


「ガチにもなるわよ。田舎の怖さを知らない都会っ子が、イメージだけで火遊びしようとしてんのよ? 死なれたら目覚めが悪いっての」


 耳の痛い話であった。

 静止の言葉がなければ、青春っぽいという理由だけで実行していたから。


「とめてくれるってことは、歓迎してくれるってことでいいんですよね?」


「仕方なしだからね。手段選ばないタイプだし、断ったらアイリ巻き込みそうだから、本当に仕方なくよ」


「いや~、話が早くて助かりますね。つきましては――近場の宿泊施設を教えてくれませんかねえ」


「ないわよ、んなもん」


 脊髄反射を疑うほど早い否定。

 聞き違いかもしれないと、念のために確認することにした。


「ないんですか、宿泊施設?」


「あるわけないでしょう、ただのど田舎よ」


「民泊的なアレコレでもいいんですけど?」


「観光地じゃない田舎で、民泊やるヤツはいないわ。下手なヤツをコミュニティに入れて地呪助乱されてみなさいよ。泊めたヤツは村八分にされるわよ」


 道理である。

 閉鎖的な田舎では情報の周りが早く、全員が顔見知りということも珍しくない。


「じゃあ、どうしろって言うんですか!?」


 旅行――もとい、合宿をする上での大前提である宿泊場所。

 その確保に躓いたのだから、叫ぶのも無理はない。


「まずは落ち着こう、成美ちゃん」


「落ち着いてどうにかなるんですか!? 泊まる場所がないんですよ!」


「大丈夫だよ。宿泊施設を利用する以外にも、泊まる方法はあるから」


 トンチのような示唆を受けるも、答えには行き着かない。

 目に涙が滲み出したので、ライカが続きを引き受けることにした。


「せ、せんぱい……」


「うんうん、任せて。――ねえ、フーカちゃん。フーカちゃんのご実家だけど、私たちを泊められるスペースってあるかな? もしあるなら、泊めて欲しいんだけど」


「構いませんよ。農作業とか手伝ってもらうことになりますが、それでもいいなら」


「農作業ってやったことないけど、大丈夫かな?」


「やり方は教えるから、やる気だけあれば大丈夫よ」


 宿泊契約は、あっさりと成立した。


「ね、大丈夫だったでしょう」


「さすがですライカ先輩! そうですよね、実家に帰るって言ってるんですから、頼み込んで泊まらせてもらえば良かったんですよね!!」


「うんうん。それにね、成美ちゃん達と同じ生活をすることで、強さの秘密が分かるかも知れないんだよ」


「なるほど、確かに! パイセンみたいな化け物とか、フーカ先輩みたいな超人を生み出した環境ですもんね! 魔導師として確かめねばなりません」


 魔導師の強さと種類は多岐にわたる。

 魔導戦技という総合力を試される場にて、二人はイヤと言うほどそれを実感している。

 同時に、その場で成果を出し続けている二人の強さを。


「勝手に決めて悪かったけど、そういうことでよろしく」


「まあ、勝手に行動されるよりはマシか。――ただし、実家の説得は自分でするように」


「分かってる分かってる。短期の住み込みバイトが見付かったとか適当なこと言って説得するから」


 聞き慣れない単語に、成美は反応せざるを得なかった。


「……待って、待ってくださいよ、フーカ先輩。住み込みバイトってなんですか?」


「言葉通りの意味よ。農家の家に泊まるんだから、バイトって名目が必要でしょうが。宿泊費と相殺にしたいところ、ちゃんとバイト代も出すんだから感謝しなさい」


 ハメられた! と、目を見開く。

 だが、受けなければ合宿自体がおじゃんになるので、しぶしぶと受け入れるのであった。

お読みいただきありがとうございます。


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