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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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反省会(お昼時)

「まーけーたー!!」


 昼食時。

 広げられた重箱を前にしながら、フレデリカは叫んだ。


「やかましい。食事時くらい静かにしろ」


「やかましいとは何よ! 負けたんだからくやしがらせなさいよ!!」


「自業自得だろう。ここ一番で視野が狭くなるクセがそのままだぞ。すぐに治るとは思ってないが、代わりに事あるごとに指摘する。言われたくなければ常に心がけろ」


 少しは慰めろとばかりに睨め付けられるが、悠太は気付いた上で箸を動かす。


「……ねえ、無視が一番堪えるんだけど」


「もう一度言う、食事時くらい静かにしろ」


「…………悪かったわよ。叫ばないから相手して。ヘマしたことよりさ、わたしのヘマでチームが負けたことの方が堪えてるのよ」


「そっちこそ気にする必要はない。そもそも、先鋒は負ける前提だ。チームを勢いづかせるのが仕事で、それ以上は他のヤツの仕事だ」


 お前が言うな、と。

 フレデリカ含む三人は同じことを思った。


「……いや、勝てって言ったの兄貴じゃん。消耗抑えるために負けるの禁止したじゃん」


「普通にしても鍛錬にならないだろう。事実、あれだけ見せて対策の時間を作っても、一足一刀に対応できたのは少数派だ。さらに言えば、一足一刀に反応したわけではなく、来ると分かっているから対策したに過ぎない」


「そうだったんですか? フーカ先輩が最後に戦った人も、反応できてなかったんです?」


「主導権は、最後までフーが握っていた。一本取られた後は有効すら取られてないだろう。素で一足一刀に反応出来たのなら、どこかで二本目を取られている」


「なるほどなるほど。じゃあ、フーカ先輩が負けたのってパイセンのせいですね」


 それなのに責めるのはおかしくないか、と。

 卵焼きを飲み込みながら続けた。


「一足一刀しか使えない時点で、何かしなくても同じことになる。俺がしたのは、その時間を縮めただけだ」


「あえてしたってことは、対策をどう躱すのかが、フーカちゃんの課題だったってことかな? それなら、バレットを併用して克服してたと思うけど」


「ええ、その通りです。剣魔一体はフーの武器たりえますが、まだまだ小手先です。俺であれば奥伝を使うまでもなく斬れる程度の障壁すら破れずに封殺される程度。土壇場で立居合を実行した発想と胆力は褒めるに値します。詰めの甘さで全て台無しになりましたが」


 淡々と事実を羅列するだけで、本人は唐揚げを口にしている。

 だが、褒められた上で落とされたフレデリカの気は沈んだ。


「詰めの甘さは別にして、障壁破りってそこまで必要かな? 本来のフーカちゃんは、火界咒を主力にしてるし。魔導剣術だとレギュレーションで使えないけど……魔導戦技や実践でなら使えるし」


「否定はしませんし、充分と言えば充分ですが、底上げは必要です。火界咒があればを逆にすれば、火界咒さえどうにかすれば封殺できるに変わります。剣しか使えない俺はともかくとして、魔導師であれば札は複数持つべきです。それが魔導の強みですし、魔導師として求められる役割でもあります」


「ううん……それを言われると」


 ライカの気がずずん、と沈んだ。

 精霊ヴォルケーノの存在を前提としているライカは、出自の割に手札が少ない。魔導課程で習うモノを除けば、妖精種の混血というアドバンテージを活かした幻術程度。

 魔導戦技ではそれすらも満足に通用しないため、自信喪失気味なのだ。


「ちょっと、なにライカ先輩落ち込ませてんですか。ちょっとは考えて発言してください」


「いや、身に覚えのないことを言われても困るんだが? そもそも、どこに先輩が落ち込む要素があったんだ?」


「魔導の強みうんぬんです。特製がとんがりすぎてて相性が悪いものが多すぎる魔導師の気持ちを少しは考えてください」


 魔導師でもないのに分かるわけないだろう、と思いつつも考える。

 考えた上で、やはり分からぬと首を傾げた。


「そう言われてもな。後輩も先輩も、まだ強みすら出来てない段階だからな。手札の多さを考える以前の話だぞ?」


「……フーカ先輩とは違うということですか?」


「そうだ。そもそも、フーに手札の多さを求めたのは、剣魔一体という武器を得たからだ。武器を一つ手にすれば、それを基準とした型が生まれる。型があればこそ勝つパターンが生まれ、負けるパターンが見えてくる」


「手札の増やすのは、負けパターンを回避するためであり、勝ちパターンを確固たるものにするため、ということですね。理屈は分かりました」


 こみ上げる衝動のままにおむすびを二つ消費し、ペットボトルのお茶で嚥下する。


「ただ、ですね。何で今頃言うんです? それ、魔導戦技を始めた頃に言うべきことじゃないですか?」


「正式な師であるならば言ったぞ。だが、あくまでも部活動内でのアドバイス、カネが取れる内容にならないよう注意していたからな」


「なら、今言った理由はなんです? 意図を説明するなら武器を見付けてから良かったんじゃないですか?」


「簡単に言うと、あと一歩まで迫ったからだ。話の流れ的にちょうど良かったのもある」


 筋は通っているが、引っかかりを覚える。

 情報の価値で言えば、あと一歩の段階の方が高くなる。

 ここまで隠し通した悠太であれば、今日も黙ったままでいることも可能であるのに、なぜ話したのか、と。


「深く考える必要はない。お前に関しては言えば、俺が言わなくても早い段階で気付いていただろう。言語化の有無は別にして」


「……フーカ先輩って成功例が近くにいましたからね。後はパイセンの戦い方とか、魔導戦技での動き方から、必要なものを逆算しただけです。ちゃんと順位も上がっていったので、考え方はあってるだろうな、と」


 不器用なフレデリカや、才能が偏っているライカと違い、成美は大体のことが出来る。

 魔導戦技の振り返りや対策なども、すべて成美が取り仕切っているほどだ。


「そういえば、パイセンの方はどうなんです? 今のところ、一度も最後まで生き残っていないようですが」


「順調だぞ。最後まで生き残るのは、戦闘を控えればすぐにでも達成できるから気にしていない。フーに課した縛りと同じようなものと思えば良い」


「はぁ、自分にも縛りを課してるんですか。分かってましたけど、ストイックですね」


 魔導戦技部内での共通認識である。

 そも一戦目からして、わざわざ敵を増やすような行動を取り、悠太を倒すためだけの大同盟を組ませることを許している。

 順位にこだわっていないことは、誰でも分かる。


「じゃあ、縛った状態で成果出てるんですか? 確か、一番得意な技を封印してるんですよね? 構えの縛りは解いたみたいですけど」


「奥伝を複数人相手する場合は、さすがにな。祓魔剣を使わないのに、それ以上縛るのは勝ち負け以前に、剣士としての礼儀の問題がある」


「礼儀と言いつつ、技の封印は解かないんですね。安全性がどうこう言っていたと思いますが、達人なら別にいいんじゃないですか? 生き死にの覚悟くらいしてそうですが」


「木刀の試合に真剣を持ち出すような暴挙だぞ」


 格下がやるならともかく、格上がやることではない。

 成美はそう理解した。


「……これは興味本位の、仮の話ですが。対戦相手が魔導戦技で、パイセンが封印している剣を使ってきたら、どうするんです?」


「まず、相手を讃える。観測のしにくさから難易度が高いからな。次に危険性を説いた上で、まだ使うようなら祓魔剣で斬り潰す。――まあ、武仙流の奥伝を使えるような剣豪なら、お遊びで勝ちにはこないだろうが」


「……パイセンみたいな人しか習得できないなら、そうでしょうね」


 大人げない達人に出会わないことを祈るのであった。

お読みいただきありがとうございます。


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