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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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全国大会

 七月中旬。

 武道館は熱気に包まれていた。


「うーん……全国大会だってのに、パッとしませんね」


「そんなことないよ、成美ちゃん。例えば、ほら。あっちの副将の人とか、もう三人抜きしてるし。それも、フーカちゃんと同じで一本勝ちだよ」


「あの人ですか……? うーん……フィジカルはスゴいですね、確かに。日本人離れしてる上に、身体強化もかなりのもの。でも、ただの力任せですよ? フーカ先輩と当たったら即オチする程度の脳筋の何を見ろと?」


「……まあ、うん。フーカちゃんと当たったら、対応出来そうにないね」


 武道館で繰り広げられているのは、魔導剣術の全国大会。

 県大会を勝ち抜いた選りすぐりの魔導師が集っているのだが、成美とライカのお眼鏡にかなわなかったようだ。


「随分と目が肥えたようだな。成果が出たようでなにより」


「あ? 誰が肥えたですって? パイセンの課題が達成できなくて、むしろ体重減ってるんですけど!?」


「肥えたのは目だし、お前の体重なんか知るか。――まあ、仮に増えてても気にするな。なんだかんだと身体を動かしているから、筋肉が増えているだけだ。ついでに、今は成長期だろう。この時期に体重だけ見て減量すると、成長そのものに悪影響が出るぞ」


「知ってます-! パイセンに言われなくてもそのくらい知ってますからー!」


 悠太の正論に声を荒げた反発した。


「目が肥えたってことだけど、そうなのかな? 魔導戦技の順位は上がってきたけど、まだ九〇位を抜けるのが難しいし……」


「そこは、俺と一緒のステージに入っているからです。剣聖目当てに猛者が集まりますからね。その弊害でしょう」


「でも、南雲くんがいないときでも、負けるんだけど……」


「その時のアベレージ、八〇代中盤ですよね? 着実に力が付いてきています。全国大会なのにつまらないと思うのはその証拠です」


 アイリーンの忠告後も、彼女たちは魔導戦技部の活動は継続していた。

 話し合いをしたわけではないが、二人の間で、魔導戦技で八〇位以上になるまでは継続するという、暗黙の了解が出来たのだ。

 それから二ヶ月。

 高くそびえ立つ壁を越えることはできてない。


「南雲くんも、つまらないの?」


「どうしても粗に目が行きますが、どう指導すれば解消するかも同時に考えます。時間は有限ですから、少しでも糧になるようにと。――先輩の場合は、どうしたら最低限の力で勝てるかをシミュレートするといいですね。条件は、自分があの場にいたらがいいでしょう」


「そっか、そうだよね。……でも、魔導剣術だと確実に負けるんだけど」


「同じルールでやれとはいいませんが、魔導戦技で使える手札に限定するの無難でしょう。一人に固執せずに、なるべく多くの選手で想定してください。一対一に慣れてきたら、多対一や多対多など、条件を変えるのもいいですよ」


 ライカと、隣で聞いていた成美はさっそく実行する。

 ちょうど良くタイミングで終わった試合があったので、勝った側を相手に選ぶ。

 負けた側に自分を置き、頭の中で試合を再現してみると、抵抗も出来ずに負けてしまった。「つまらない試合をしていたはずなのに?」と首を傾げながら、もう一度挑むも結果は同じ。何度か戦法を変えて挑むが、やはり負ける。


「……先輩。次、あっちの負けた方にしてみません?」


「……意固地になるよりは、相手を変えた方がいいよね」


 あっさりと負けていたので、今度は大丈夫だろうと動かしてみるが、また負ける。

 二人は何度も相手を変え、戦法を変え、果ては二対一という数的有利を取って挑んでみるが、勝てる試合は一つもなかった。


「何で……? 何で勝てないの……? いや、距離取ってアウトレンジから始めれば勝てるけど、近距離だと何で勝てないの?」


「戦術評価も正しく出来ているようで何より」


「何より、じゃないです! ちょっと解説してください!」


「ここは全国大会の会場で、魔導剣術という枠の中で鎬を削ってきた上澄みが集まっているんだ。相手の土俵で戦って勝てるはずがないだろう」


 魔導剣術の試合は、剣道同様に剣が触れ合う距離で始まる。

 それに対して、ライカと成美は中遠距離で真価を発揮する魔導師。逃げるスペースがない状況で戦って、勝てるはずがない。


「理屈は理解しましたが……じゃあ、何で試合がつまらなく見えるんですかね? 驕ってるわけじゃないですが、こればかりはどうしようも」


「魔導戦技の基準で見てるからだ。彼らのほとんどは、この距離で試合することを前提に調整している。間合いを詰める技術も、躱す技術も、この距離から離れれば意味を為さないものばかり。だが、どちらが正しい、どちらが強いという問題ではない。どこで自分の強みが発揮されるかという、環境の問題だ」


 自分の価値基準のみに当てはめて、相手を評価することは驕りであろう。

 人格者や教育者であれば、そう諭すところだが、悠太はどちらでもない。


「私たちが勝てないのは、得意な距離で戦えてないからってこと?」


「五〇位以上を狙うなら、そうなりますね。でも、八〇位以上になるために必要なのは、単純に生存能力です。相手に見付からないように隠れたり、敵に見付かっても狩られないよう逃げたりといった立ち回りの方が重要です」


 単純に、二人からの質問に答えているだけなのだ。


「やっぱり、必要なのはそっちなんだ。戦ってると横やりが入ってまとめてってこと、少なくないもんね」


「というか、あたしらもやりますね、漁夫の利狙い。まあ、やったらやったで狙撃されたり、反撃されてそのまま撃沈したりもしましたけど」


 何度も返り討ちされながら、二人は無闇矢鱈に攻めない姿勢を学んだ。

 すると、最序盤でやられていたものが、九〇代前半の順位になったりと成果が出始めた。


「でも、戦わないで隠れるだけだとすぐに見付かるんだよね。魔導反応とか誤魔化すためにいろいろしてるのに」


「あと、逃げるだけでも同じですね。フィールドはランダムで決まるはずなのに、なぜか斬るゾーンに追い込まれるとか。かといって反撃すれば普通に負けたり、勝ちそうでも漁夫の利されたり。ホント、どうすればいんでしょうね」


 悠太は疑問の答えを持っているが、聞かれたとしても教えない。

 教えるとすれば、八〇位よりも上の順位になってから。二人も分かっているので、悠太やフレデリカには聞かないようにしている。


「ここで考えても答えでないし、また二人で勉強会をしよっか。今は、フーカちゃんを応援しないと」


「それもそうですね! とはいえ、ベスト一六が決まるまでは、イメトレになりますね。うちの学校、フーカ先輩が先鋒で五タテするから、すぐ終わっちゃいますし」


 七月に入ってすぐ、フレデリカは五〇位以上になるという課題を終わらせた。

 それから現在まで、本来の所属である魔導剣術部での練習に集中する。理由はもちろん、全国大会で良い成績を残すためだ。


「フーカちゃん、スゴいよね。魔導戦技だけじゃなくて、魔導剣術でも強いんだから。個人の勝ち数だけみたら、一番じゃないかな?」


「最低でも副将戦まで行きますからね。勝ち方も鮮やかというか、一足一刀しか使ってないというか……文字通りの一本勝ちしかしてませんし。もしかして、縛りプレイしてたりします? パイセンの指示で」


 魔導剣術の基本は、剣道に則している。

 剣型のデバイスで有効打を入れるのに加え、制限の範囲内で使用した魔導も判定対象。

 どちらで有効打を入れても良いのだが、フレデリカは魔導を牽制にしか使わず、すべての有効だが剣型デバイスによるものだった。


「してない。というか、魔導剣術のルール内でフーが一本か有効を取るには、剣術しかない。その証拠に、身体強化と障壁と、バレットしか使ってないだろう」


「使ってないですが、縛りじゃなかったんですか? 火界咒や真言がルール違反なのはしってましたけど、もしかして……」


「想像通りだ。ルール内で通用するのが、アレしかないだけだ」


 フレデリカは、致命的なまでに不器用である。

 その事実を思い出した二人は、何とも言えない顔をするのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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