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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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学校見学

 朝食という名のお茶会が終わると、悠太はすぐにフレデリカを連れて家を出た。

 アイリーンにすがりつくというトラブルはあったものの、悠太が関節技を駆使して引き剥がしてので問題はなかった。


「あぁ、もう……お姉ちゃんのシスコン、悪化しすぎ。お兄さん、厳しすぎるのかな?」


「あれじゃない、しばらく会わなかった反動? フーカ先輩のブラコンはそこまでヒドくないし……いや、そうでもないか。ブラコンこじらせてケンカ売ってきたのが、入部の切っ掛けだったし」


「お姉ちゃんがご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 姉の過去の所業を思い出したのか、頭を下げるアイリーンだった。


「フーカちゃんのアレコレはともかく、アイリちゃんは本当に良かったの? 学校見学の相手、私たちで。フーカちゃん達なら、アイリちゃんの聞きたいことにちゃんと答えてくれるでしょう?」


「あの二人からは、耳にタコができる聞いてるので今更です。今更というか、聞き飽きたました。今のわたしに必要なのは、二人以外の話なので」


 三人がいるのは天文魔導大学付属高校。

 ゴールデンウィーク期間中ではあるが、校門は開け放たれている。部活動に励む生徒や、図書室などが開放されているためだ。


「ところで、本当に大丈夫なの? 天魔付属って、魔導を扱う場所だから部外者の侵入には厳しいよ。アイリちゃんが入るにはちゃんとした許可が必要だよ?」


「そこは問題ありません。お姉ちゃんとお兄さんの名前を出した上で、正規ルートの許可はもらっているので」


「アイリちゃん、手際いいね。さすがは経営者」


「ふふふ、困りますね。褒めても何も出ませんよ…………なにせ手際よくしないと、二人に不信感もたれるから、必至で繕った結果だし」


 複雑な感情を隠しながら、校内を見て回る。

 とはいえ、アイリーンは特に質問をしない。備品を見ては自己完結をし、疑問があればスマホで調べて、次へと移る。

 そして三〇分もしないうちに、校内を全て回り終えた。


「予想通りというか、想定内というか、目新しいモノは何もなかったですね」


 三人は、魔導戦技部の部室がある研究室で、紅茶を飲んでいた。


「あの~、アイリさん? あたし達、必要だった? 全部自己完結じゃん」


「元々、入るつもりなので。調べ尽くした後なんですよね。だから、必要な言っちゃないと言いますか、余分な行為と言いますか、ねえ」


「ねえ、じゃない! まさか、無駄なことをあたしたちにさせたんですか!!」


「無駄じゃないですよ。なにせ今日の本題はこれからなので――あ、美味しい」


 紅茶を飲んだアイリーンの顔が綻んだ。


「本題って言うのは、どういうことかな? アイリちゃんの学校見学が建前ってのは、何となく分かってたけど」


「……シスコンとか、ブラコンとか、言われるのを承知で言いますが、お二人の人となりを知りたくて、お時間を戴きました」


「文脈的に考えると、フーカちゃんと南雲くんのため?」


 カップから口を離して頷く。

 そしてまだカップに口をつけ、空になっていることに衝撃を受けた。


「おかわり、いる?」


「お願いします」


 ティーポットから湯気が上る紅茶が注がれ、アイリーンの顔がまた綻ぶ。


「アイリちゃんは、二人のことが好きなんだね」


「問題は色々ある二人ですが、身内ですし。愛情表現はオーバー過ぎますが、許容できないほどじゃないです」


「その割には、フーカ先輩に冷たくしすぎじゃない? ゴミとか色々言ってたし」


「悪化した結果、許容できる度を超しただけですよ」


 ニッコリと笑みを浮かべるが、目は笑っていなかった。


「ただ、それを抜きにしても、ちょっと意外なんですよね」


「フーカ先輩がですか?」


「お姉ちゃんと、お兄さんの二人です。昨日は本当に驚いたんですよ。まさか二人が、家に人を招くとは!? って」


「え、家に行っただけで驚かれただけなんですか? ……もしかして、パイセン達は友達が少ない、とか?」


「いえ、友人はそこそこいますよ。ただ、家には呼びません」


 友人を家に呼ばないというのは、珍しいことではない。

 個人情報の扱いは厳しく、人付き合いが希薄になりがちな世の中だから。


「二人は剣士だからか、自分の領域に人を入れたがらないんですよね。田舎でも、家族付き合いがない場合は、絶対に誘いませんでした。そんな二人が家に人を招いて、あまつさえお菓子作りをさせたなんて、今でもちょっと信じられません」


「誘ったのはフーカ先輩で、パイセンはノータッチなんだけど……」


「同じです。お姉ちゃんは、お兄さんが嫌がるなら絶対に家には入れません。お姉ちゃんが招いたと言うなら、お兄さんが招いたのと同じです」


 アイリーンは自分を責めるつもりなのだろうか?

 そんな風に身構える成美とライカだが、肩すかしをすることになる。


「なので聞きますが、お二人はお兄さんの目的をご存じなのでしょうか?」


 目的とは、何とも曖昧な言葉だ。

 将来の進路でもなく、夢でもなく、そもそも何を指しているのかさえも。


「ああ、大丈夫です。その反応で分かりました。お二人は知らないんですね」


 だが、南雲悠太の目的と言った場合、それは明確であった。


「知らないと、問題があるの?」


「ありませんよ。聞かれたら答える程度の話ですが……いや、やっぱり問題ありますね。親しいのに知らないってのは、少し危ないです」


 カップの中を飲み干した。


「お二人は、疑問に思ったことはないですか? 呪力がなくて、魔導を使えないお兄さんが、どうして剣聖と呼ばれているのかって」


「あ、それ思った。でも、強いし。剣聖って呼ばれるくらい強いから、呼ばれてるんじゃ?」


「それで合ってます。ただ、もう一歩踏み込んで考えたことはありませんか? お兄さんはなんで、剣聖と呼ばれるまで自分を鍛え上げたのかって」


 考えたことがなかった。

 二人にとって悠太は出会った時から剣聖であり、悠太が剣を振ることは当たり前だからだ。


「……考えてみたら、異常だよね? 私はヴォ……体質があるから、魔導師してるけど。でも、体質がなかったら絶対に魔導師にならないって言えるくらい、訓練は大変だった。私でそれなんだから、呪力なしで剣聖になるって考えると……」


「あー、一度考えるとすっごい不自然ですね、パイセンって。呪力なしで魔導斬ったのは剣聖だかで流しましたが、その経緯を考えたことないし。……実はドMとか?」


「お兄さんはドMではありませんよ。ただ、命を賭してでも成し遂げたい目的があって、偶然叶えるための道筋を教えてくれる師に出会って、運が良いのか悪いのか今日まで生き延びていたらなぜか剣聖になってしまっただけです」


 列挙された事実を飲み込むのに、少し時間がかかった。


「え、何それ? パイセンが剣聖になったのって、結果論? 剣聖になりたかったからとかじゃなくて?」


「結果論と言うよりは必然ですね。目的達成のロードマップを走っていたら、途中のチェックポイントが剣聖だった、という程度です。ええ、本当に。お兄さんにとって剣聖とは、その程度の価値しかないんですよ」


 裏を返せば、悠太は未だ道半ばということだ。

 流派を極め、皆伝を渡された身でありながら、悠太は己の目的にまだ届いていない。


「その割には、南雲くんって剣聖らしい行動を心がけてたりする、よね? 特に、剣士として動くときなんかは」


「ああ、そっちも簡単です。剣聖なのに汲みやすいって思われたら、命に関わるレベルで利用され尽くされるからです。……心当たり、ありませんか? この前お姉ちゃんが入院したのって、多分、それ関連だと思うんですが」


 思い出すまでもないほど、最近の出来事だ。

 妖刀を用いてフレデリカを斬った人斬りは、剣聖である悠太との因縁を口にしていた。


「ああ、やっぱり。まったく、弟子だからって相手にする必要ないのに、お姉ちゃんは」


 姉の入院理由を知り、すねたように頬を膨らませるアイリーンであった。

お読みいただきありがとうございます。


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