三匹のナマモノ
プロットがないときは、とりあえず動かしてみよう(無策ともいう)。
キャラが固まってれば、とりあえず動くので物語は進む(無謀ともいう)はず!
スコーンの材料を買い込んだ三人は、南雲家があるマンションに乗り込んだ。
「オートロックに、宅配ボックス、各種魔導障壁も完備されて、外観と内装も豪華。結構、高そうだね?」
「いや、高いですよ。農家の子供が入るにはオーバースペックなんですけど、……このくらいじゃないと襲撃されて。この前の通り魔が可愛い子供レベルでしかないのとかが、考え無しに突っ込んでくるリスクを考えると、安全をおカネで買うしかないんですよ」
「笑えないマジ話ですね。一週間も経ってないタイムリーですし……」
フレデリカにとっては本当に笑えない話だ。
二人にはあえて言わなかったが、剣聖に本気で挑もうとする猛者であれば、オートロックだの魔導障壁だのは、何の障害にもならず素通りされるのだ。気にしても意味がないので無視しているが、ふとしたときに思い出すと眠れなくなったりする。
「そういえば、フーカちゃんって実家って農家なの? 魔導師とか剣士じゃなくて?」
「田舎の農家ですよ。母方が魔導師の血筋ですし、母は二種持ちなので魔導師の家系と言えなくもないですけど、ぶっちゃけ親からは農家の知識しか教わってないので農家ですよ」
「南雲くんも同じなの?」
「まあ、従兄妹ですし、家も隣なので同じく農家ですね。……いや、南雲家の剣士って兄貴が初めてですから、ある意味生粋? 野山を駆けずり回るが遊びじゃなくて修行の一環だったけど、……まあ、家業の手伝いはしてるから、孝行息子の範囲かな?」
「パイセンが鍬で畑耕すとか、想像するだけで笑えますね。――あ、農家をバカにしてるとかじゃないですよ? ただ、パイセンがって部分が、ですね」
鍬じゃなくてトラクターで耕してるとか、農家の子が農業して何が悪いとか、農家ディスってんじゃねえクソ後輩とか、色々な感情が渦巻きながらも全て飲み込むフレデリカだった。
「ただいー……ん?」
鍵を開けると、変な何かが玄関にいた。
丸っこく小さい何かに、手足と、頭から葉っぱらしき物が生えている。
「んまー、ままままー?」
鳴き声らしき何かを発している。
パタパタと、手足らしき突起物を動かしているので、生き物に分類される何かであろう。
「ごごー? まごご」
「らままー、まーら!」
おまけに、別個体らしき二体が玄関へとトコトコやってきた。
見た目から同種であることが分かるが、片方は縦に長い楕円形と、ちょっと太めな丸なので、個体識別は簡単である。
「え、ええっ! なんすかこの不思議可愛い生物は! フーカ先輩お手製の式神ですか!?」
「うーん、違うと思うな。パスは伸びてるけど創作物に対してじゃなくて、使役した存在に対するアレコレっぽいし」
「……つまり、生き物と? ナマモノって呼ぶべき感じがしますけど、実際はどう……あれ、フーカ先輩がいない……?」
不思議なナマモノ三匹に気を取られている間に、フレデリカは荷物を残して玄関から消えた。消えた彼女が向かったのは、ナマモノ二匹が出てきた方向だ。
「アイリ、おかえり――!!」
「うわっぷ」
フレデリカが抱きついたのは、小柄な少女だ。
髪や目の色はフレデリカと同じで、顔の作りもよく似ている。雰囲気はフレデリカより柔らかく、背や体格がコンパクトであることを除けば、フレデリカと瓜二つと言って良く、注視せずとも実の姉妹であると想像が付いた。
「社内会議中なのでどいて、邪魔」
「あーもー、アイリ可愛い! いいじゃん社内会議なら! 社外会議なら自重したけど、全員知ってるしさ!! 久しぶりのなんだから、お姉ちゃんを優先してよ!!」
「邪魔って言ったよ、邪魔って。聞き分けないお姉ちゃんは嫌い、触らないで」
「嫌、嫌い!?」
ガーン、という衝撃のままにフラフラと離れる。
そのまま、ずーん、という効果音と共に沈むフレデリカであった。
「……ライカ先輩、どう思います? あたしにはフーカ先輩が壊れたようにしか見えないんですが」
「家族思い、でいいんじゃないかな? 似てるし、お姉ちゃんって呼ばれてたし」
「にしても、壊れすぎじゃありません。いつものフーカ先輩はもうちょっとこう、斜に構えてたり物騒な部分が見えたりしますよ」
「普段はそうかもだけど、私は納得かな。南雲くんが絡むと感情的になったりするじゃない。方向性は違うけど、感情的になってるし……」
三匹のナマモノは、沈んだフレデリカの頭をぺちぺちと叩いている。
フレデリカを励ましているのではなく、頭や髪をおもちゃに遊んでいるようだった。
「ドーマ、ゴーマ、ラーマ。お姉ちゃんをおもちゃにしちゃダメよ」
三匹のナマモノを、フレデリカの推定妹が抱きかかえた。
「いーい、お姉ちゃんは生ゴミにもなれない粗大ゴミ以下のゴミえちゃんなんだよ。ゴミをおもちゃにしたら色々と問題がでちゃうんだから、ゴミなお姉ちゃんで遊んじゃいけません。分かった?」
「「「まー!!」」」
ライカと成美の二人は、ヒドい言いようにちょっとだけ引いた。
「ほら、ゴミえちゃん。会議終わったから起きて良いよ」
「……本当に?」
「むしろ起きてもらわないと困るよ。玄関の方にいる人、ちゃんと紹介して。じゃないと気まずいでしょ。というか起きなきゃ鍵を回収した上でマンションの外に捨てちゃうよゴミえちゃん。イヤでしょ? イヤなら、ね」
「じゃあ、改めて」
むくり、とフレデリカは身体を起こした。
「おかえりアイリ――!! 来るなら来るって事前に言ってほしいわ。歓迎会の準備だって必要なんだから――」
「――ねえ、ゴミえちゃん。わたし、なんて言ったかな?」
みょーん、と頬が伸びる。
「ちゃんとやらなきゃ、本気で捨てるよ?」
「ひゃ、ひゃい……」
どちらが上か、言葉にするまでもなかった。
「こほん。――こちら、同じ部活の先輩と後輩で、牧野ライカ先輩と、紀ノ咲成美さん。魔力が多い方がライカ先輩ね。で、二人とも。この天使可愛い子が、わたしの実の妹の、南雲アイリーンちゃん。皆からはアイリって呼ばれてます」
「初めまして、南雲アイリーンです。ゴミ畜生な姉で申し訳ございません」
自慢の妹らしく、胸を張るフレデリカ。
その様子に情けなさと申し訳なさで一杯になる、アイリーンであった。
「あ、はい、初めまして。フーカ先輩の後輩の、紀ノ咲成美です。成美ちゃんでも、なるみんでも、隙に呼んでくださいね」
「牧野ライカです。気軽にライカってよんでね。アイリちゃん、って呼んでもいいかな?」
「成美さんに、ライカさんですね。よろしくお願いします。お姉ちゃんほどではないですが、長いのでアイリでいいですよ」
アイリーンは抱えていた三匹のナマモノを解放した。
すると三匹はトコトコと走り去っていく。
「……気になってたんだけど、あの子達は? 歩き回る、植物? それとも、植物っぽい小動物? 見たことも聞いたこともない感じだけど……」
「マンドラゴラの変異種で、ちゃんと植物ですよ。小学校の自由研究で色々試したら、なぜか進化してしまって。……成長日記つけて、最後にお薬を作ろうとした計画が台無しでちょっと困りましたよ」
「はへぇー、植物。まあ、あれだけ動き回ってたら、材料にはしづらいですからね」
「いえー、ざっくりと仕留めようとしたら、ママに止められまして。生き物は大切にしないとダメとか言ってましたけど-、もともと材料にするための経済植物に何言ってんだーって感じですよね? まあ、研究発表が巡りめぐって科学雑誌に載るくらいの希少植物だったみたいなので、結果オーライ? だったと思いますが」
二人は思った。
見た目からは想像も出来ないくらい、ドライでヤバい子だ、と。
「時にお二人は、晩ご飯の予定はどうなっていますか? もしよろしければ、一緒にお兄さんの手料理を味わってはどうですか?」
そう言って、ダイニングテーブルを指差す。
否が応でも視線に入ってしまうくらい大量の料理が、そこには並べられていたのだった。
気がつけば50話です。
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