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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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放課後ティータイム

妖刀騒動は一段落。

だけど問題が……この後のプロット、真っ白ですort。

 ゴールデンウィーク、中日二日目。

 連休を分断して登校するという、生徒にとっての悪夢。その放課後ともなれば、誰もが開放感から気が大きくなっていた。

 別館にある研究室を部室とする、魔導戦技部の面々も例外ではない。


「って感じで、妖刀関連の騒動は全部終わったわ。襲われる心配はもうないから、警戒は解いて良いわよ」


 ライカの淹れた紅茶に手をつけながら、清々したとばかりにフレデリカは告げた。


「終わったのは良いニュースですけど、遅くありませんか? パイセンのことですから、日曜には終わってますよね。今日、火曜日ですよ、遅すぎませんか!? 百歩譲って遅いのはいいですけど、なんでフーカ先輩が報告を!? パイセンはどうしたんですか、パイセンは!」


「兄貴なら今日の昼間まで入院よ。退院後即帰宅するから、二人に伝言よろしくって、昼過ぎにメール受けたの。顛末知ったのその時だから、文句があるなら兄貴に言って」


「……あ、はい。ごめんなさい」


 がしゃん、と。

 飲み干したカップを荒っぽくソーサーに置いた。


「入院って、南雲くんは大丈夫だったの!? お見舞いに行った方が良いの!?」


「落ち着いて先輩。兄貴に後遺症なんてないですから。入院も、呪詛が残ってないか念のために検査しただけですから」


「呪詛って、斬られたってこと!? ほ、ほほほほほ、本当に大丈夫なの!?」


「大丈夫、大丈夫ですよ、ホントに。だから落ち着いて。まずはカップを置きましょう、紅茶こぼして火傷しないように」


 妖刀《綿霧》は相手を斬ることで効果を発揮するアーティファクト。

 呪詛の検査をするということは、斬られたということ。


「でも、呪詛の検査が必要で入院したってことは……」


「まずですね、斬られたのは確かですが、わたしの時と違ってわざとです。剣聖を斬ろうと思ったら、最低でも奥伝級の達人が必要なんです。あんな初伝のわたしでも封殺出来るのを相手に、兄貴が不覚取るとか絶対にありません」


「でも、でも……」


「あー、なるほど、なるみん分かっちゃいました! つまりパイセンは、わざと斬られたんですね。理由は知りませんし、知りたくもないですけど」


「そういうこと。極まった連中ってのは、理解しちゃいけない理論で、訳分かんないことするから。理解しようとしちゃダメよ」


 訳分かんないことの実例を、二人は魔導戦技中に見ている。

 崖から飛び降りて加速する、首だけになって敵を斬る、などなど。

 行動原理や行動までの思考を理解してはいけない、というフレデリカの意見には頷けたが、どんよりとした蟠りが残る。


「なんか、解釈違いです。フーカ先輩って、パイセンに対して言いたい放題ですけど、陰口はしないタイプだと思ってたのに、ちょっとガッカリ? みたいな?」


「陰口なんて言ってないけど、……なんか、噛み合ってないわね? なんでだろう? ……んー、むー……ダメだ、糖分が足りない」


 短期の入院生活に加え、悠太不在という状況は、フレデリカの食生活に多大な影響を及ぼしていた。

 端的に言うと、カロリー不足。家庭の味に慣れた彼女にとって、自分で作った物や、コンビニ弁当は、量を食べる気にはなれないのだ。


「ちょうど良いし、皆でこれを試しましょう」


 カバンから取り出したのは箱から出てきたのは、砂糖細工。

 丸い円を基本として、細かな花が形作られたそれは、紅茶に浮かべたらお茶会が華やかになること間違いなしである。


「え、なんすかこのエモいの!? ちょっとバズりそうなんでアップしていいですか!?」


「あ、シュガーレース。使っていいの?」


「もちろんです。ライカ先輩の紅茶は美味しいのに、普通の砂糖じゃつまらないなって。だから、ネットで色々探して、注文したのが昨日の夜に届いたから、皆で使おうと思って」


「……ふっふっふ、まさか先を越されるとは思ってませんでしたよ。フーカ先輩、恐ろしい人」


 ごそごそと、カバンを漁る成美。

 取り出したのは、個別に包装されたマフィンだった。


「じゃっじゃーん! 成美ちゃん特製の手作りマフィンでーす! 一人二つまで、ですから用法用量はきちんと守ってくださいよ」


「わっわ、美味しそう! お皿出すから、ちょっと待っててね」


 研究室の食器棚から、皿を三枚取り出すライカ。

 ポットとカップと同じ絵柄の皿に、手作りマフィンを二つずつ載せて配る。

 だが、二つのマフィンが皿に載らずにテーブルに残った。


「成美ちゃん、これって」


「……パイセンの分です。今日登校するかも知れないなーっと、思って。仲間はずれにするのもの、ほら、アレですから」


「じゃあ、帰りに家寄ってく?」


「フーカ先輩が渡せばいいじゃないですか……」


「だって、わたしよ? ガマンしきれずに食べる可能性が、無視できないくらいあるわよ? それでもいいなら、わたしから兄貴に渡すけど」


「自分で手渡します」


 下校後の予定が決まったところで、三人はシュガーシートを紅茶に浮かべる。

 当初の宣言通りに成美がテーブルの様子をアップしてから、お茶会がスタートした。


「マフィン、うまー」


「語彙力なくなりすぎでしょ。いつもの聡明なフーカ先輩どこにいったんです」


「紅茶、うまー」


「あははは……光栄だけど、ちょっと申し訳ないな。可愛いシュガーシートと、手作りマフィンを持ってきてくれたのに……私、何も持ってきてなくて」


「何言ってんですか。このお高めな紅茶にカップなどなど、全部ライカ先輩の持ち出しですよ。むしろあたし達の方が申し訳ないですから」


 カップ一つ、茶葉一つ、成美では馴染みのないものだった。

 気になって調べその値段を知ると、思わず顔が青ざめるほど、高校生にはお高い良い品ばかりだったのだ。


「……実はこれ、天乃宮家から資金提供があって。私が紅茶とか、カップとかが好きって香織ちゃんに知られたら、精神安定剤代わりだってことで。これ、全部そうなの……」


 ライカの内にいる精霊、ヴォルケーノの恐ろしさは、成美も身に染みている。

 悠太が斬っていなければ、研究室が吹き飛んでもおかしくなかったのだ。その時の被害を思えば、陶磁器のカップやポット、お高い茶葉を買い揃えるなど、必要経費のうちだろう。


「なら、今度一緒にお菓子作りしましょう! パイセンも呼んで、皆で。で、出来たてでお茶会をするんです! 三段とかある、なんかエモいの使って! 絶対に映えますから!!」


「あ、菓子作りは兄貴NGよ」


 マフィンを食べ終え、紅茶で一息入れるフレデリカから、意外な一言が飛んだ。


「そうなの? 南雲くん、お料理上手だけど?」


「グラム単位、一度単位の調整がメンドイとか、バターや砂糖の消費量が尋常じゃないとか、そんなこと言ってたわね」


「……気持ちは分かりますけど、あの人ってお菓子作り以上に難しいこと、剣でしてるじゃないですか」


「方向性の違いね。剣にリソース全部突っ込んでる極振りだから、剣以外はアレなのが兄貴よ。成績だって割と壊滅的だし」


「あー、部室でいつも勉強してましたね、そう言えば。アレ、成績悪いからだったんですか」


 真面目だと思っていたら、切実な理由だったことに驚く。


「南雲くんが嫌いなのって、お菓子作りであってお菓子そのものじゃないよね?」


「ええ、違いますよ。ちゃんと人間ですから、甘い物好きですよ」


 ちゃんと人間、という言葉が自然と出るフレデリカに、深い闇を感じるライカだった。


「な、なら、お見舞いついでに皆でお菓子作るのは、どうかな? 時間があれば、だけど」


「いいですね、それ! あたし達の女子力をパイセンに見せつけるいい機会です! 目に物見せつけてやりましょう!!」


「家、お菓子作りの便利グッズとか、材料とか何もないから。オーブンレンジくらいはあるけど、それで作れるお茶に合うお菓子って…………スコーン?」


 お茶会と言えば、誰もが思いつくイギリスのお菓子。

 プレーンならば必要な材料は少なく、オーブンが使えるなら簡単にできる。


「いいですね、フーカ先輩は簡単そうな作り方を調べてください。あたしは安く揃えられそうなお店を探しますから! ライカ先輩はスコーンに合うお茶とか選んで戴けますか?」


「もちろん。カップやポットはどれがいいかな」


 勢いで決まったお見舞いにかこつけたお菓子作りのため、三人は動き出した。

 なお、悠太に許可を取ることを考えた者は、一人もいなかった。

お読みいただきありがとうございます。


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