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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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護衛のお仕事

 オークションは、特にトラブルなく進んだ。

 内海は目当ての刀を六〇〇万円弱で購入し、真門が代理で出品したクロックワンドは二〇〇〇万円以上の値が付いた。この時点で一五時前後だったのだが、内海は帰らなかった。

 オークションが閉幕する二〇時まで参加し、誰がどの品を買ったのかを記録し続けたのだ。


「悪かったな、二人とも。付き合わせて」


「俺は内海さんの護衛だからな。気にしないでほしい」


「僕はその、…………ご飯目当てなので、気にしないでください」


 二人は夕食として、内海にホテル内にある寿司屋で奢られている。

 悠太は容赦なく特上、真門は普通のセットを頼んでいた。


「若いんだから気にするな。年上に奢られるのも仕事のうちだぞ」


「そいうもの、ですかね?」


 三人は、内海の車に乗っていた。

 悠太は行きと同じく助手席に、真門は後部座席に。

 真門の隣には、桐箱に収められた六〇〇万円弱の刀が置かれている。


「真門くんは何も買ってなかったが、良かったのか?」


「元々、買う気はなかったですから。今日の出品物って、魔導師用のばっかりで」


「あれ? 真門くんは違うのかい? 呪力はかなりあるだろう」


「……悠太先輩なら分かると思いますが、魔導師は自己中を極めたような連中の総称です。残念ながら、そんな連中の同類になれるほどの業は持っていませんよ」


 自分をあんな人でなしと一緒にするな。

 という強い意志を感じたため、悠太はそれ以上踏み込むのをやめた。


「自己中か、個人的には頷くしかないな。自己中な内海さんはどう思いますか?」


「俺も同感だな。中途半端に自尊心を肥大させたのが多いからな。例えば求道思想の連中なんて、下手な魔導師よりも質が悪いときたもんだ。その中でも特に質が悪いのは、最弱の剣聖なんて呼ばれる小僧なんだぜ。知ってたか、悠坊?」


「剣聖なんて呼ばれる連中に例外はいませんからね。そんな剣聖から見てうさんくさい人種に、刑事やってる魔導師が入っているんですよ。典型例は、六〇〇万弱で冬内の剣を落札したクソジジイですね。知ってましたか、内海さん?」


 これまでは人の目があったので互いに加減していたが、真門以外の目がなくなったので鬱憤を晴らす。

 最初は聞き流していた真門だが、しばらくして耳を手で塞いだ。限界まで聞いていない振りを続けたが、二人の鬱憤晴らしは終わらなかった。


「あの、お二人とも。僕が悪かったので、やめていただけませ……んん?」


 耳から離した左手で、胸ポケットに入れたスマホを二回叩く。

 黙って、頭を抱えて、意を決したように顔を上げた。


「内海さん、人気のない場所に移動してもらえませんか?」


「別に構わねえけど、なんでだ?」


「包囲されかけています。今ならまだ襲撃地点を選べますから、民間人を巻き込まない場所に移動しませんか?」


「――マジか。いや、納得っちゃ納得だが、まだ都心だぞ」


「ええ、都心だろうが関係なく包囲を始めてます。まだ人数が少ないですが、このままだと囚人観衆のもと襲撃。明日の一面を飾ることになりそうです」


「そりゃ困る。悠坊、希望はあるか?」


「見晴らしの良い平坦な場所。夜遅いですから、光源の有無は二の次で」


 突如振られた質問に即答した。

 常に戦いについて考えていなければ出せない速度だ。


「了解。んじゃ、臨海公園にでもいくか」


 法定速度の範囲内で、進路を変える。

 ナビやランプを使わないのに、なぜか赤信号や渋滞に捕まることなく目的に到着する。

 三人は車から降りて、見晴らしの良い場所で待機する。


「あのー、六〇〇万の刀を僕が持ってて良いんですか? 悠太先輩が持つべきでは?」


「俺はいらん。警棒があれば充分だ」


「修行か何かは知らんが、わざと弱い武器を使う頭のおかしい剣聖だからな。まあ、よっぽどの相手なら使うだろうから、気にしなくて良いぞ」


 魔導師の家系で育った真門には理解できない思考。

 剣聖でなければ勝機を疑うところだ。


「いえ、それもですけど……部外者に持たせるには高価すぎるでしょう?」


「でもなぁ、おじさんが持ってても邪魔だから。いざという時に、少年を守れなくなるのは困るだろう」


 真門が刀を盗むことを微塵も疑っていない。

 敵の影が見えない段階では、盗むためにこの状況を作り出した可能性もあるのに。


「……その信用に応えられるよう、頑張らせてもらいます」


「頑張らなくてもいいさ。――ただ、誰が来るのか分かるか?」


「えっと……」


 胸ポケットのスマホを手に、人差し指をポチポチと。


「妖刀……わた、ぎり? が、二三人――って、多!?」


「そうか、二三人か。多いけど、いけるだろう。でも、奥伝が二人居たらマズいな。内海さんって、四肢欠損を治せましたっけ?」


「刑事にむちゃ言うな。動脈に達した切り傷が限界……じゃない。妖刀《綿霧》たぁ、厄介にもほどがあるぞ。人を増やしても、犠牲者が増えるだけだ」


 それぞれが、それぞれの理由で眉をひそめる。

 特に険しいのが内海だ。


「疑うわけじゃねえが、情報の精度はどの程度だ」


「信頼度八五%なので、まず当たります。あと悠太先輩――」


 幽鬼のように生気と存在感のない集団が、三人を囲うように姿を現した。


「その二二人は初伝と中伝の混合で、遅れている一人は奥伝みたいです。信頼度九九%の確率で、合流まで五分はかかるようですよ」


「なら、サクッと終わらせるに限るな」


 折りたたみ式の警棒を伸ばし、半身になって身をさらす。


「要求があるなら聞きますよ? 一応、ですが」


「……剣聖」


 ぎょろり、と。

 二二対、四四個の瞳が、悠太に集中した。


「剣聖」「剣聖」「剣聖」「最弱の」「剣聖」「剣聖」「敵」「敵」「敵」「剣聖」「剣聖」「剣聖」「見返す」「見返」「す」「見」「返す」「剣聖」「を見」「返」「す」「剣聖」「を殺」「せ剣」「聖」「剣」「聖は」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「斬れ」「斬れ斬」「れ」「斬れ斬」「れ」「斬」「れ斬れ」「斬れ」「斬れ」「斬れ」「斬れ」「斬れ」「斬れ」


 意味のない、しかし明確な敵意と殺意を載せた合唱は、


「……残念だ」


 悠太の一足一刀と共に断ち切られた。


「妖刀と言うから大層なアーティファクトかと思えば、人形を量産するだけの呪詛。しかも、斬気と殺意を増幅するだけして、自我を塗りつぶすときた。武芸の基本は克己。その衝動を抑え、自在に手綱を捌くことでこそ真価を発揮するというのに……これじゃあ、ただの烏合の衆だ」


 武仙流「心」の理・奥伝――祓魔剣。

 霊体や、呪詛や、精神に巣くう魔性など、形のないモノを斬る武の深奥。

 これを極め剣聖に至った悠太であれば、呪詛を斬り裂くのに刃など不要。警棒の一打――否、警棒をかすらせるだけで、妖刀の呪詛は断ち切られ、霧散する。

 文字通りの一刀一殺。

 二分もかからずに、二二人の殲滅は終了した。


「……さすがに消化不良。これのどこが厄介なんだか」


「祓魔剣が天敵だからだよ。……っていうか《綿霧》の厄介さは戦闘力じゃなくて感染力だ。かすっただけで呪詛を植え付けられるミーム型の魔導災害なんだよ。実質、駆逐は不可能だ」


「確かに厄介ですけど、アーティファクトの定義からは外れませんか?」


「発動の条件は、刃物で相手を切りつけることだから、一見すると妖刀に見えるんだよ。江戸中期から剣客の間で感染し続けて、現代まで生き残っててな。江戸後期には妖刀《綿霧》って呼ばれてたから、例外枠でアーティファクトなんだよ」


「なるほど、理解しました。――なら、あの人が感染源ですかね?」


 戦闘開始から約五分。

 二三人目の人物――奥伝級の達人が、悠太の眼前に現れた。

お読みいただきありがとうございます。


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