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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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出品物

 悠太と遭遇した真門は、借りてきた猫のように固まってしまった。

 何度話しかけてもアワアワとするだけで、悠太はどうしたものかと思案する。


「悠坊、知り合いか? その割には怯えられてるが」


「知り合い、ではないですね。話したのも今日が初めてですし。名前も、天乃宮が呼んでたから知ってただけなので」


「ははぁ、天乃宮家の関係者か」


 獲物を見付けた肉食動物のように、内海は目を細めた。


「やあ、少年。初めまして。連れが失礼をしたようで悪いね」


「……いえ、失礼な反応をしたのは僕の方ですし」


「気にしなくて良い。剣聖のヤバさを理解してたら、そんな反応になるのは当然だ」


「誰がヤバいだジジイ。あんたの方がよっぽどヤバいだろうが」


 内海の刑事としての手腕の目の当たりにした悠太の評価である。


「あー、同じ穴の狢ってやつですね。本家でよく見たので分かります」


 固まっていた真門は、ホームに帰ってきたような安堵を浮かべた。

 二人は彼と反対に、怪訝そうな顔を歪めた。


「……おい悠坊。お前のせいで変な誤解を与えたようだ。どうしてくれる」


「正当な評価ですね。……ただ、俺と天乃宮を同列に扱うのは納得いかない」


「ははっ、それこそ正当な評価だ。警察の中では危険度が同じだからな」


 二人は和気藹々と互いに互いの評価を語るが、互いに対する殺意を隠し切れてない。

 真門はしばらく様子を眺めながら、会話が一段落するのを待った。


「挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。天魔付属の普通科一年、隈護真門です。どうぞよろしくお願いします」


「いや、こっちこそ。普通科二年、南雲悠太だ」


「ええ、ええ、存じてます。香織ちゃんから色々と聞いているので。では、これで……」


「隈護で、天乃宮。まさかとは思うが、隈護家の長男か?」


「…………まあ、はい。その廃嫡された長男が、僕です」


 内海に声をかけられたことで、真門は足を止める。

 どうやら悠太から逃げることを諦めたようだ。


「廃嫡? ……何か、犯罪的なことを?」


「違います。本家との関係というか、政治的なアレコレです」


「なるほど。やっぱり、大手は政治的な面倒ごとがあるのか」


 悠太が所属する武仙流は、派閥と呼ぶのも烏滸がましいほど小規模。

 武力は最上位ではあるが、影響力はほぼない。

 対して天乃宮家は一族のみで企業閥を形成するほどの大手。悠太では想像もつかない苦労があるのだろう。


「なら、ここにいるのも天乃宮関連の仕事か? 今日はアーティファクトが多めで、魔導師以外にはつまらないだろうし」


「残念ながらご明察です。……本家の一員が小遣い稼ぎに出品をするので、その代理です」


「代理って、自分で出せばいいじゃないのか? わざわざ隈護くんに代理を頼む理由はないだろう?」


「真門でいいですよ、南雲先輩。隈護姓を名乗るのは、ちょっとした抵抗感があって」


「なら、俺も悠太でいい。南雲だとフーと被るから」


「分かりました、悠太先輩。――それで、本家の人が出ない理由でしたね。簡単です。天乃宮姓を名乗る魔導師は、基本的に危険人物だから、本家に隔離されているんです。高校生をやってる香織ちゃんは、数少ない例外だと思ってください」


 悠太には初耳の情報だが、聞いたと同時に納得した。

 魔導師とは危険な生物だ。魔導という技術自体が世界の法則に干渉するものであり、制御を誤ればすぐに魔導災害が発生してしまう。

 国家が魔導資格を管理しているのが、その危険性を証明している。


「天乃宮家が出品した物が。ちょっと気になるな。良ければ案内してくれないか?」


「いいですけど……つまらなくても何も言わないでくださいね。本家の研究とは関係のない、趣味で作った物みたいですから」


 内海の希望を聞いた真門は、展示されているエリアに案内をする。

 そこは、デバイスが集められていた。


「こりゃ、クロックワンドか? まーた懐古主義的なもんを」


「ええ、本当に。……でも、見た目と性能は良いんですよね。裏側からムーブメントが見えるんですが、見てくださいよ」


「……はぁ、こりゃスゴい。ここまで精密で重厚なムーブメント、見たことないぞ」


 クロックワンドは、懐中時計のようなデバイスだ。

 見た目から分かるように、懐中時計をルーツとするデバイスだ。古典魔導から現代魔導に変遷する間に発生したデバイスで、現代デバイスの祖とも言われる。


「魔導は使わないから分からないんだが、使いものになるのか?」


「ええ、信じられないことになるんです。こと結界に関することに限り、現行の最高品質よりも上です」


「……はぁぁ、さっすが天乃宮。化け物揃いだな」


 古いデバイスがオークションに出品される理由はここにある。

 汎用性や使いやすさに限れば、現行のデバイスに軍配が上がる。だが、本物の魔導師が制作したデバイスの中は、特定の分野で現行品を超える性能を持つ物も珍しくない。


「なんなら、買いますか?」


「売ってくれるのか?」


「これは出品しているので無理ですが、同じ人が作ったデバイスもいくつかもってますから。お値段はこのくらいで……」


「……値引きは」


「無理です」


 悠太が聞き耳を立てると、八桁近い金額を提示していた。

 改めて出品されたクロックワンドの最低落札価格を除くと、やはり八桁近い。

 悠太と同じように聞き耳を立てている者も少なくないので、クロックワンドの落札価格は最低価格を軽く超えてくるだろう。


「ぐぬぬ……非常に惜しいが、今回はやめとく」


「そうですか。売れたら追加でお小遣いがもらえるので残念――」


「そうか交渉決裂か! なら次は私が――」


「出しゃばるな! 次は俺が――」


 と、内海を押しのけた大人達が、真門に群がってきた。


「あ、あの……落ち着いて」


「落ち着けば売ってくれるのか、売ってくるんだな!?」


「……えーっと、すいません。皆さんはその、最低条件を満たしていないので、売れません」


 大人達は、喧々囂々とまくし立てる。

 だが真門は一切引くことなく、彼らが九桁近い金額を提示しても断った。


「真門くんはスゴいな。廃嫡されたって話だけど、なんでだ?」


「天乃宮家には踏み込まねえ方がいいぞ、悠坊。廃嫡されたって言っても、少年は天乃宮の呪鬼の側にいる。分家筆頭格の隈護家でも、そんな好待遇はありえないからな」


「……好待遇なんですか、それ?」


 罰ゲームか嫌がらせにしか思えない悠太だった。


「はぁ……ヒドい目に遭った。こんな骨董品の何が良いんだか……」


「いや、展示してる場所で、出品しているカテゴリーの物を売る話をしてたら、ああなるのは当然だろう」


「そっか、そうですよね……はぁ。やっぱり、本家と関わると碌なことにならない」


 大人から解放された真門が、悠太達の元に戻った。

 疲労でフラフラと身体が揺れている。


「そういえば、天乃宮が代理じゃダメだったのか? アレも本家の人間だろう?」


「別に大丈夫ですけど、というか最初は香織ちゃんの仕事だったんですけど……考えてください。香織ちゃんをこんな欲望の坩堝に放り込んだら、どうなると思いますか? 具体的には、さっきの僕みたいに群がられたとしたら」


「控えめに言って、血の雨が降るな。うん、君は正しいことをした」


 悠太と真門の心が一つになった瞬間だった。


「時に少年、そろそろ昼飯だが、用意はあるのか? もしないなら、オジサンがおごってやるぞ」


「いいんですか?」


「もちろんだ。あ、悠坊にもおごるからな、心配するな」


「断る理由もないので、ご相伴にあずかります」


 悠太と真門を連れて内海が入店したのは、ホテルに併設された中華店。

 ランチメニューからそれぞれ好きな物を選び、中華に舌鼓を打つのだった。 

お読みいただきありがとうございます。


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