うさんくさい仕事内容
設定ミスで、先週に2話も投稿していた……ort
ゴールデンウィークの初日。
朝早い時間に、チャイムが鳴った。
「よう、悠坊。朝早いんだな」
「……早すぎませんか?」
「朝飯食ってないなら待つぞ?」
「いえ、朝のルーチンは終わってるので。ただ、準備はさせてください」
手早く準備を済ませた。
所持する武器は、護身用の警棒のみ。
刃物が必要な場合は、依頼者に用意するのが悠太のスタイルだ。
「まーた、そんな適当なの持ってくの? その警棒だって、警察からもらったヤツでしょう。少しくらい見栄張ったらどうなの? 内海さんもそう思いません?」
「悠坊らしいというか、求道思想らしい考えだと思うぞ。それに、剣聖に見合う武器を用意させるってのも、ハードルとして機能してるからな。許可を持ってない相手に武器を持たせて、補導されないようにするってのもハードル高いんだぞ」
「刀剣所持の許可証を取る手間を惜しんでるだけだよ。それに学業優先にしないと、志望校に入れない」
ダイニングでは、フレデリカと内海がゆったりとコーヒーを飲んでいた。
「思ったよりも早かったな」
「大まかな準備は昨日のうちに済ませてたので」
悠太は自分でインスタントコーヒーを淹れると、二人と同じように座った。
「時間があるなら、今日の仕事について説明してもらえますか? 警察としてではなく、個人的な仕事とは聞いていますが、詳細はまだ」
「え? まさか兄貴、空手形で仕事を受けたの?」
「借りを精算するためにな。うさんくさい魔導師は有能だけど、隙を見せると食いつくから」
「刑事相手に、ひっどい言われようだな。剣聖相手にんなこたぁ、しねえよ」
剣聖じゃなかったら食いつくんだ。
二人の胸中は一致した。
「仕事は単純に護衛だ。ちょっと高い買い物するから、腕利きが欲しかったんだよ」
「だからって俺を使いますか? 今日だけで一〇〇万円ですよ」
「大丈夫だ。名目は個人だが、ちゃんと経費として落とすからな。懐は一切痛くない」
それは個人ではなく警察としての仕事では?
二人の内海への評価が、対して借りを作るのは危険という形で一致した。
「さて、そろそろ行くか」
「……仮想敵くらいは聞いてもいいですか? 仕事がうさんくさくて、さすがに不安になってきました」
「んー、行きは大丈夫だ。中央閥を敵に回すことになるからな。問題があるなら帰りだが、候補が多すぎるな。帰るまでに見極めれば問題ない」
「…………どうしよう、フー。猛烈に帰りたくなってきた」
「帰るも何も、家はココじゃない。わたしはこれから部活だから、巻き込まないで欲しいわ」
そそくさと、フレデリカは家から出て行った。
魔導センターが開くまで時間があるのだが、本当に巻き込まれたくなかったようだ。
「やれやれ、嫌われたもんだね。ま、魔導師を警戒するってのは正しいな。師匠が良いんだな」
「おべっかなんて必要ないんで、さっさと行きましょう。どこかは知りませんが」
悠太は内海が乗ってきた車に乗り込んだ。
くたびれているが、悠太には見慣れた車だ。なにせ内海が仕事で使っている覆面パトカーだからだ。
「……個人じゃなくて、警察としての仕事ですよね、今日」
「個人だよ、個人。その証拠に、ランプは積み込んでないからな」
「警察手帳は?」
「持ってきてるが、職質対策だな」
刑事が職質を警戒するのはどうかと思うが、警察の車両を使っているので仕方なしだろう。
未成年の悠太が助手席に乗っているのも、警戒される要素となっていた。
「さ、到着だ。寝てなかったが大丈夫か?」
「眠くないので平気ですが、相棒はいつも助手席で寝てるんですか?」
「おしいな、運転席に座るのが久しぶりってだけだ」
「…………そうですか」
呆れてモノも言えなくなった悠太であった。
「ところで、ここホテルですよね? 誰かに会うんですか?」
「いや、イベントに参加するんだ。悠坊もきっと気に入るぞ」
言われるがままに、内海に着いていく。
途中、会員証やら入場料などを支払う。悠太の分は内海が支払った。
「どうだ、悠坊。さすがに壮観だろう」
「……ええ、ここまでの数は。古物商……では、ないですよね。武器の質もですが、人が多すぎます」
自前の刀剣を用意していない悠太でも、目を見張る武器が多く並んでいた。
刀や両刃剣が多いが、槍や銃などもショーケースに収められている。
「オークションの前の品評会だ。お前さんの目から見てどうだい?」
「ぶっちゃけ、自分じゃ使わないですね。支給品なら別ですけど……アーティファクトはなぁ」
展示されている武器のほとんどに、呪詛が固着していることを、悠太の目は逃さなかった。
「というか、いいんですか? アーティファクトって魔導災害ですよね? 固着してるってことは、フェーズⅢ以上。中央閥のメンツとか言ってましたし、危険性とか色々と」
「下手にまとめとく方が危ないんだよ。呪詛が相互干渉して変な魔導反応が起こったりするからな。だから、定期的にオークションで放出してるんだ。お前さんの主義には合わんらしいが」
アーティファクトの武器は、妖刀や魔剣とも呼ばれる。
魔導師のみならず、武人であれば誰もが使用を夢見る憧れでもあるが、悠太の琴線には一切振れなかったようだ。
「主義ってほどじゃないですし、人に押しつける気はないですよ」
「武を高めるために強い武器を使わないってのは、充分に主義だよ。後、押しつけるのは無理だろう。剣聖でもなきゃ死ぬぞ」
「いや、俺でも死にますから。武器に頼るのは未熟の証ですけど、未熟を認めないのが一番ダメですから」
実際、刀剣に限られるが、悠太は渡される武器を文句なく使う。
それが可能なのは、武仙流の奥義が武器を選ばない技だからであり、自身の技量が足りないと判断すれば相応の武器に頼ることもある。
「その割には、普通の剣を好むよな?」
「選ぶ余地があるなら、そうですね。魔導師でないので活用しきれないだけならともかく、未熟なので感覚の狂いがそのまま隙になるので」
「……やっぱ、お前さんは眩しいね。そこまで貫けるなら充分に主義だし、剣聖に至ったのも納得しかしない。だけど気を付けろよ。お前さんは剣士の理想を体現してるが、俗な剣士からしたら直視出来ないほどの高潔さだ。勝手に逆恨みされてもおかしくないぞ」
「そう、ですかね。俗な方が、人間社会では生きやすいんですけど……」
悠太は、自分が優れているとは考えていない。
一般社会での評価対象である学業の成績が低く、成美からは枯れていると表されるほど感性も一般社会からはかけ離れている。
「魔導師や武人が、生きやすさを求めると思ってるのか?」
「それは、ただのワガママですよ。本気で自分の道を突き進みたいなら、社会との共存を考えなければいけません。もしくは、師匠のように人間社会から隔絶された生活を送るか、ですね。内海さんが言ってるのは、自分がこれだけのことができる、これだけ頑張ったんだから自分を敬え、というワガママです。――その末路は、内海さんが一番よく知ってるでしょう?」
知らないはずがない。
指名手配された魔導師の捕縛を、何度か悠太に依頼しているのだから。
「個人的には同意見だが、理性的に考えられるならワガママにはならないだろう? だから、気を付けろって話だよ。ここに集まったのは、そんなのが多いんだから」
「あー……まさか、候補が多いってそういう?」
「今日、競り落とす物もモノだからな。コレだ」
悠太は言葉を失った。
呪詛など微塵もない普通の打ち刀なのに、使いたいという衝動が膨れ上がる。
おそよ一分、膨れ上がる衝動を鎮めるが、まだ目を逸らすことができなかった。
「……なんですか、コレは?」
「冬内の名前は聞いたことあるか? コレがそれだ」
「銘は……」
「もちろん、ない。ただの習作だ」
武器に執着しない悠太であっても、冬内の刀について聞いたことがある。
習作でも神をも斬る剣とか、無銘の習作でも数千万の値が付いたとか、真作にはドル換算で億単位の懸賞金が付けられている、など。
ほとんどが金銭に関するものであり、神うんぬんは誇張だと思っていたが、目の前にある打ち刀はそれに近いことが出来そうであった。
「予想価格は?」
「この出来だと、五〇〇万前後だろうな。一〇〇年も経ってないし」
「……習作でこれなら、真作はどれだけ?」
「気になるか、気になるよな? まあ、今日の目玉がアーティファクトって理由が大きいけどな。しかるべき時期と場所に出品すれば、一〇〇〇万は超えると思うぞ」
「………………なるほど」
出来レースの一環であることを悟った悠太であった。
気が抜けると同時に、打ち刀から目を逸らすことが出来た。
「他にも色々あるからな。解説しながら案内してやるよ」
「アーティファクトの知識を蓄えると思えばいいですけど、話したいだけじゃ………………んん?」
悠太は見覚えのある人物を見付けた。
名前は……思い出せない。だが、確かに見覚えがある。どこで見かけたのかと記憶を辿り、名前を思い出せない理由を悟った。
そもそも、名乗り合ったわけではない、と。
「もしかして、天乃宮に拉致された一年生……えっと、真門くん……で、いいのか?」
「そうです……あの、さまかと思いますが、南雲先輩ですか? ……剣聖の」
魔導剣術部と模擬戦をすることになったとき。
魔導戦技の結界を張った普通科の生徒であった。
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