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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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部活成立

ようやく1話の場所を越えました。長かった……。

 顧問の問題が片付いたことで、魔導戦技部は始動――しなかった。


「はぁーっ!? なんで却下なんですか!?」


「書類に不備があるからよ」


「もうリテイク七回なんですけどぉ! 部活作れって本人が却下するって、どういう了見です!?」


「だから、不備だって。赤丸付いてるとこを変えろ」


 リテイクに次ぐリテイクで、時間だけが過ぎていく。

 ゴールデンウィーク直前になっても受理されることはなく、成美はついに悠太に泣きついた。

 これ以上、時間を消費するのは良くないと判断し、渋々ながら悠太は書類を修正した。日はすでに沈みかけていたので、一人で生徒会室へ向かう。


「はい、オーケー。……長かったわ」


「ああ、まったくだ」


 二人して同時に、ため息をついて。


「最初っからあなたが書けば良かったんじゃないの?」


「言い出しっぺがやるべきだし、俺がやったら後輩が成長しないだろう。……アレが、ここまで頑固だとは思わなかったけどな」


「頑固ってよりは、書き方を知らないだけよ。ライカも呪力制御と一般学力優先で教えるヒマなかったし、その点は失敗ね。……でも、あなたが教えても良かったのよ。成長って、そういうことでしょ」


「請われれば教えたが、請われなかったからな」


 成美とライカが書類を作っている間、悠太は受験勉強にいそしんでいた。

 鬼気迫る様子に、さすがの成美も邪魔出来なかったのだ。あまりもリテイクを食らいすぎて、最終的に泣きつくことにはなったが。


「これからは自分から声をかけるようにしなさいよ。――というか、どう悪かったのか、どう書くべきだったのかくらいは、教えときなさい。今日まで頑張ったんだから」


「そうだな。同じことに巻き込まれるのはさすがに勘弁だ」


 部活動でも書類仕事からは逃れられない。

 実体はどうあれ、教育の一環なのだ。成果を報告する意味も込めて、記録を残す必要があるのだ。


「しかしだ、下校まで時間あるのに、一人なんだな?」


「生徒会の仕事が毎日あるわけないでしょ。最初っから一人よ」


「そうなのか? その割には、毎日居ただろう?」


「あ・な・た・達の所為よ! ライカと剣聖が所属する部活を、放置するバカがいると思う?」


 悠太は反論せずに頷いた。

 ライカに宿った精霊は魔導災害認定されても不思議ではなく、悠太はその精霊を斬り殺せる。香織は別に二人は即暴走するとは思っていないが、万が一を考えないのはただの愚か者だ。


「少なくとも、そんなバカを生徒会に入れるわけがないな。だが、最近の先輩は安定してるだろう? 俺も精霊がバカ騒ぎしない限りは、剣を振る気はないぞ」


「南雲くんはそうでしょうとも、紀ノ咲さんは違うし、ライカは箱入りなの。あの子のテンションにライカが引きづられて、ヴォルケーノまで道連れになる可能性、割とあるのよ」


「俺はよく知らないが、精霊種ってそこまで不安定なのか?」


 霊長一類・精霊種。

 最も希少であるが故に、最も不明な霊長類。

 剣聖であっても、剣以外の専門知識がない悠太には未知の存在である。


「ライカと共棲してるボルケーノだからよ。繋がりが強すぎて、どっちも影響を受けちゃうの。まあ、完全に独立してる存在なんていないから、普通のことっちゃ普通なんだけど……実体がない霊的存在は顕著で。でも、最近はライカも安定して大分マシになったのよね。まだ安心は出来ないけど」


「ああ、そうだ。先輩のことで聞きたいことがあったんだ」


 偶然思い出したように切り出したが、最初から切り出すつもりの話題であった。


「今回の件、どこまでがお前の手のひらの上だったんだ?」


「今回のって、具体的には?」


「牧野先輩と精霊との関係だ。前々からの積み重ねがあったとしても、魔導戦技をやる前と後で変わりすぎだ。一週間もしないであんな成長出来るほど、人は優秀じゃない」


 高校二年生で剣聖に至った悠太が言っていいことではない。

 ただ、彼はフレデリカという事例を知っている。一歩一歩、亀のようにゆっくりとした成長しか出来ない彼女を間近に指導する彼から見て、ライカの成長ぶりは異様に映ったのだ。


「前々から、気持ちの悪さを感じてたんだよ。部活が形になるまでは黙ってたが、もう良いだろう」


「考えすぎ――なんて言っても、信じるわけないわよね?」


「牧野先輩が俺と接触した時点から仕組んでいた、なんて話なら信じるぞ。俺が先輩と関わった翌日に、精霊が暴走しかけたくらいだからな」


 天乃宮家は星詠みの一族。

 一つの家で派閥を形成するほどの影響力を持った理由として語られるのが、星詠みとして完璧に未来を詠むことが出来る、というもの。

 とはいえ現代では「完璧な未来予知は不可能」という結論が出ている。

 それでもこのような噂が流れるのは、天乃宮に関わったモノが手のひらの上で転がされたという気持ちの悪さを覚えるからだ。


「……先に言っておくと、私の専門は呪詛と神楽よ。一族としてメインとして研究しているのが宇宙開発だから、主流からは外れてるわね。天文魔導学の方もそれなりに力入れてるけど、それは宇宙関連の基礎にも繋がるからよ」


「そこは知ってる。天魔大が第一志望だから、占星術関連の学部は一切ないってのは確認済みだ」


「え? 南雲くん、あの成績で天魔大が第一志望だったの?」


 言外に無理だと言われているが、悠太は気にしなかった。


「まだ時間はあるからな。やれるだけはやるつもりだ。――天乃宮が言いたいことは分かる。未来予知を研究なんて無駄なことはしないってことだろう? でも、天乃宮家は本物の魔導師集団だ。本家が秘匿してると考える方が自然だと思うが? あと、一〇〇%は無理でも限りなく一〇〇%に近い予知をすることは可能だろう。それが出来ないなんて考えるほど、バカのつもりはないぞ」


「まったく、魔導師でもないくせに警戒心が高いわね。杉浦先生もコレにやられたのかしら?」


 教師の杉浦が監視目的で就職したことを知っていたようだ。


「仕方ないから、事実だけ教えてあげる。ヴォルケーノが暴走した後、本家から報酬をもらってね。その内容が――あなたに報酬を渡せってものだったわ。それ以上の説明はまったくなかったけど、結果だけ見れば私の利益になったわね」


「そうか」


 嘘は言っていない。

 そう判断し、それ以上の追求はしなかった。


「話は変わるけど、バイトに興味はない?」


「……荒事はしないぞ」


「大丈夫、魔導戦技関連だから。剣聖としての視点でレポート書くだけの、簡単なお仕事よ。報酬は内容次第だけど、南雲くんならかけると思うわ。成績は残念だけど、書類仕事とかは出来るみたいだし」


「そのくらいなら構わないが……」


「じゃあ、魔導センターには話し通しておくから、ゴールデンウィークからよろしく。どうせ、魔導戦技三昧の予定なんでしょ。ライカはそのつもりらしいし」


 正式に発足した魔導戦技部最初の活動が、ゴールデンウィークに予定されている。

 発足する前から参加はしていたが、あれは非公式の活動である。


「悪いが、ゴールデンウィークにはバイトがあるから別行動だ」


「あら、そうなの? 剣聖を扱き使うなんて、どんなやつよ」


「杉浦先生の元上司。うさんくさいことこの上ないが、作った借りを返さなくちゃいけなくてな」


 元上司とは内海刑事のことであり、借りとは杉浦の情報を伝えたこと。

 バイトと言っても、悠太へ回される仕事は警察からの正式なもの。高校生が手にするには不相応なほどの大金が動くのだ。


「元上司って、警察の刑事よね。剣聖を動かすほど厄介なのって、いたかしら?」


「個人的な護衛らしいが、詳しくは知らん」


「……個人的、ねえ。うさんくさいわね」


「同感だが、断った方が面倒なことになるから」


 悠太は、疲れたような声を絞り出した。

 香織は何かを悟ったように、優しい眼差しを向けた。


「……武運長久を祈っているわ」


「そうしてくれ。あと、レポート用の書類があるなら今欲しい。この前参加した分を書いておく」


「出来を期待しとくわ」


 書類を受け取った悠太は、バイトの準備をするために出て行くのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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