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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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進路相談

10万字突破しました! 書きたいことはまだまだあって、このペースだといつ終わるの? 的なスローペースではありますが、次は20万字目指して書いていきます。

 月曜の放課後。

 悠太は研究室でなく、進路相談室にいた。


「……んー、不味いな」


 ノートと教科書を広げながら、険しい顔をする。

 復習をしているが、思うように進んでいないようだ。


「悪いなぁ、南雲くん。遅なった」


「いえ、無理を言ったのはこっちです。わざわざありがとうございます」


 広げていたノートと教科書をカバンにしまう。

 その間に、教師――杉浦は悠太の正面に腰を下ろした。


「遅れたのに恐縮されると、立場ないなあ。若いんやから、もうちょっと、我を出しても良いと思うで」


「我、ですか? 充分出していると思いますよ。担任じゃない杉浦先生に進路相談をしてるんですから」


「それを言われたらしゃあないけど、なんで担任に相談しなかったん?」


「先生が、うさんくさいからです」


 悠太はキッパリと言い切った。

 ヒドい評価をされた杉浦は、気にした様子もなく苦笑する。


「君、うさんくさいが理由って、どうなん? 自分の進路やろ?」


「経験上、有能でうさんくさい人間は信用出来るので」


「有能、ねえ。どこで判断したんだか」


「道化っぷりです。エセ関西弁に、一挙手一投足の全てが、うんさくさく見えるように計算されています。身体制御だけでここまで徹底できる人間が、有能でないわけがないでしょう?」


 悠太は呪力を用いずに剣聖に至っている。

 だからこそ、身体操作に関する技術であれば理解出来る。技術の難易度や精緻さが。


「呪力を用いずに、魔導に類する結果を得る。確か、原始魔導、というのでしたか?」


「別に、ちんけな手品や詐術の部類や。というか君、随分と穿った見方しとるなぁ。進路相談があるなんて言うとったっけど、本当の要件はなんなんや?」


「本当に、進路相談をしたいんですが?」


 悠太は本気で言っているが、杉浦は信じていない。


「本当に、ねえ。なら、仕事の範疇やし真面目にやるか。狙っとるんは進学、それとも就職?」


「大学への進学です。具体的には天魔大の……可能なら理系学科に」


 天魔大とはもちろん、天文魔導大学のことだ。

 天魔付属の上であり、優秀な生徒ならばエスカレーター式に上がることも可能だが、魔導学部のみ。悠太が入ることが可能な学部ならば、普通に受験しなければならない。


「ほー、天魔大な。――え、本気?」


「もちろん本気です。推薦枠が魔導学部にしかないのも理解してます」


 思わず素に戻ってしまったが、仕方がない。

 天魔大の偏差値は六五。魔導学部ならば七〇後半になる難関大学だからだ。


「……南雲くん、君、自分の成績理解しとる?」


「赤点は取らない程度、調子が良ければ五〇点くらいは取れます」


「無理やろ、絶対」


「やっぱりそうですか……」


 予想していた答えなので、悠太はショックを受けなかった。


「悪いことは言わんから、志望校変えた方がええで」


「分かってはいるんですが、出来るだけ足掻きたいので。合格するために必要なこと、教えてもらえませんかね?」


「一も二もなく、とにかく成績を上げえ。天魔大はそれしかないで。あそこ、AOとかやってへんから、正攻法しか無理やで。まあ、天乃宮家の推薦枠はあるけど、伝手ある?」


「伝手はないですね。本家の人間が生徒会にいますけど、俺を入学させるメリットがない」


 本家の人間とは、生徒会長の天乃宮香織のこと。

 注目されてはいるが、魔導師ではなく剣聖として。戦力確保のために取り込む可能性はゼロではないが、天乃宮家は単独で派閥を形成するほどに巨大。剣聖レベルの戦力も複数保有しているため、取り込む可能性は限りなくゼロに近い。


「せやろ。やから身の丈に合った大学を」


「成績を上げるためには、やはり塾に行くべきでしょうか? オススメの塾や、勉強法があれば教えてください。あと、狙い目の学部学科があればそれも」


「ちょい待ち。まさかとは思うが、諦めてへんの? 無理って言うたやろ?」


「何を言ってるんです、今のはただの現状把握です。今の成績で無理なら、上げればいいんですよ。もちろん、受験まであと一週間しかないとかなら、諦めますけど。でも、一年以上あります。なら、成績を上げるために最善を尽くす。目の前に先生がいるなら素直に頼る。当たり前のことです」


 全く堪えた様子のない悠太を、杉浦はまじまじと見る。

 建前と思っていた進路相談が、本気のものだったからだ。


「天魔大に行きたい理由があるん? 君、剣聖やろ。剣人会資本の大学なら、どこでも入れるで」


「おや、よくご存じで。世間知らずの教師には興味ない情報だと思ってたんですが」


「そら仕入れん連中の怠慢や。最弱の剣聖の情報は、その気になれば誰でもアクセス出来るんやぞ。まあ、名前と経歴くらいやけど、知らなくても南雲くんが達人なんはちょっと見りゃ分かる。――で、どうなん? 天魔大に固執する理由、あるん?」


 剣人会は、武術家で構成された互助組織だ。

 規模は日本最大で、海外にも支部があり影響力も大きい。

 悠太は所属していないが、緩く関わりを持っている。


「今の住居から一番近いのが天魔大だからです」


「しょうもな!?」


 良くある理由だが、難関大学に挑む理由ではない。

 天魔大の近隣には別の大学もあるので、余計に。


「諸事情あって、住居を移せないんです」


「いやいやいや、他にも選択肢あるやろ! 絶望的なとこ選ばんでも」


「目標が高ければリカバーが効きます。最初から低くしては、成績の伸びも悪くなる。あと、良い大学の方がより深く学べる気がするので」


「しっかりしとるようで、ふわっとしとるな」


 呆れ果てる杉浦だが、悠太の本気度は伝わったようだ。

 プリントの裏に何かを書き込んでいく。


「ほれ、評判の良い塾と、勉強法の名前を書いといた。後は自分で調べるとええ」


「学年便り、もしかして裏紙ですが? ちゃんとした紙使ったらどうです」


「エコだの経費節減だのと、うるさいんよ。自前の用意してもいいんやけど、使うとるとな、寄越せとか生意気だとか抜かす常識のないのがいてな。やっぱ教師しかしてないと、社会常識ってもんに疎くて困るわ」


「魔導師は自己中が多いって聞きますから、それも関係してるんじゃないですか?」


 悠太はプリントに目を通すことを優先する。

 杉浦の話も聞いているが、世間話に付き合う程度の認識だ。


「いーや、違う。外を経験してから入ってくる、訳あり魔導師の方がマシや。社会常識ないんは、教師しかしとらん連中やからな。魔導師としては秀才程度の腕で、教師歴が長いだけなのにマウント取ろうとしたり、自分より良い物使うたりすると嫌み言ったり。性格が悪いにもほどがある」


 鬱憤がよっぽど溜まっているな、と他人事のような感想を悠太は抱いた。


「そんな不満たらたらなのに辞職しないって事は、やっぱり企業閥を監視するために、中央閥から派遣された人員なんですね」


 不満たらたらの顔が、カチリとスイッチを入れたように切り替わる。

 悠太は一度、プリントから顔を上げ、またプリントに戻した。


「君、やっぱり穿った見方しとるな。進路相談が本気すぎて油断したけど、やっぱり別に本題があるんやろ」


「反論すると思いましたが、しないんですね。意外です」


「この間合いで、剣聖を敵に回すほど酔狂やなくてな。あと、教師が生徒に手を上げるんは不味いやろ? 求道思想の剣聖なんて、最高に頭イカレた化け物が相手だったとしてもな」


 化け物呼ばわりされた悠太は、プリントをカバンにしまった。

 いかにも不満がありますといった体である。


「頭がイカレてるのは認めますが、化け物とはなんです。その辺にいる魔導師よりも常人ですよ、俺は」


「他人にゃ斬れんモノが斬れるのに、常人程度のスペックしかないのは化け物以外の何者ないわ。いいからとっと本題言うてくれん。これでも忙しいんや」


「本題なら最初に言ったでしょ。進路相談です」


「信用出来んなぁ」


 もっともな反応であった。

お読みいただきありがとうございます。


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