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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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ずるい紅茶

最近、ゲーミングチェアを買いました。

長時間、執筆してても疲れないところが○。長時間、紙にキャラ設定を書いてても疲れないところが○、です。

ええ、ゲームではあんまり使ってませんよ。

 その日は、五時限目が終わると同時に休校となった。

 部活動や委員会は全て中止となり、生徒達は速やかな下校を促される。

 悠太には、理由に心当たりがあった。


(やっぱ、天乃宮関連、かな)


 食堂で遭遇した天乃宮香織。

 危険に敏感な悠太が寒気を感じるほどの殺気を振りまき、これから本家関連の荒事があると言っていた。

 天魔付属は天乃宮家が出資する教育機関。魔導科目の教師は例外なく天乃宮家の影響下にあり、彼らを動員した結果、休校となったのだろうと推測した。


(放課後に会うって約束、どうなるんだろうか? 連絡先知らんし、困った)


 五分ほど悩んで、研究室に向かうことを決めた。

 確証はないが、二人は下校しない気がしたのだ。


「えー、休校になったのに、何でくるんですか? もしかして、半グレってやつですか?」


「もー、せっかく来てくれたのにそんなこと言っちゃダメだよ、成美ちゃん。今、紅茶をいれるので、南雲くんはそこに座ってまっててくださいね」


 缶から茶葉を取り出す姿は、悠太の目からも浮かれているように写った。


「後輩、お前は俺の何が不満なんだ?」


「は、何もかもに決まってるじゃないですか」


「んなこた分かってるよ。いくつか例を上げてろって話だ」


 なぜ嫌っているのか、ではない。

 初対面の時点でこの態度だったのだから、ろくな理由ではないはずだからだ。

 どの部分が嫌いかを聞いているのだ。


「しいて言うなら、枯れてるところですね」


「失敬な。これでもスキンケアはかかしてないぞ。パフォーマンスに影響が出るから」


「パイセンのお肌がミイラ化してるなんて言ってないですぅ。精神面の話ですぅ」


 お前は精神が枯れている、なんて言われたら普通は怒るだろう。

 だが、悠太は感心したように小さく頷いた。


「今日会ったばかりなのによく分かるな」


「その態度で分かります」


 ごもっとも、とばかりに苦笑する。


「あたしは、青春を無駄遣いする人が大っ嫌いなんです」


「人生を無駄にしてるつもりはないけど」


「人生じゃなくて青春です。一〇代のほんの数年間しかない、キラキラと輝く時間です。一分一秒だって無駄に出来ない時間を無駄にする人なんて、嫌うに決まってるじゃないですか」


 敵意にも近い嫌悪が、まっすぐと向けられる。

 真正面から受け止めた悠太は、微笑という成美の予想に反するものを返した。


「なんです、その顔。バカにしてるんですか?」


「まぶしいって思っただけだよ。……俺には思いつかない考えだ」


 悠太の微笑の中に憂いがあるのを、成美は感じ取った。

 何を言い返せばいいか分からなくなったところで、ライカが淹れた紅茶が置かれた。


「二人ともお待たせ。今日はアールグレイを淹れました」


「アールグレイって、まさかF&Mの……パイセンごときにはもったいないですよ」


「だめだよ、成美ちゃん。南雲くんを呼んだのは私たちなんだから、ちゃんとおもてなししなくちゃ」


 悠太は砂糖やミルクを入れないまま、カップを手に取る。

 アイスティーなどで嗅いだことのある柑橘系の香りを、数段強くした鮮烈な香りが鼻孔を走る。


「――うまぁ」


 としか、言えなかった。

 気付けばカップは空となり、ライカがおかわりを注ぐ。


「気に入ってくれて良かったです」


「いや、本当に美味しいです。淹れ方が良いんですか?」


「いえいえ、普通に淹れただけで」


「淹れ方もですけど、茶葉が良いんですよ。なんせ英国王室御用達の茶葉ですから」


 ピタリ、と悠太の手が止まる。

 ライラとカップの間を何度か視線がさまよわせ、カップを空にすることを選んだ。


「……どんな話しでも、最後まで聞かせていただきます。昨日はすみませんでした」


「本当ですか!? ふへへ、ありがとうとうございます」


 屈託のないライカの笑みに、悠太の胸が痛みを覚えた。


「…………昨日は全国大会、と言っていましたが、スポーツか何かの勧誘だと思って良いんですか?」


「はい! 魔導戦技、というチーム制のスポーツです!」


「……………………あの、俺、普通科です。あと、魔導を使えるほどの呪力、ありません」


 魔導を扱うためのエネルギー、呪力。

 触媒や発動を補助するデバイスの進歩によって、かつてほど重視はされないが、魔導を扱うために欠かすことの出来ない重要な要素だ。身体に蓄えられる呪力の量が、魔導師としての上限を決めると言っても過言ではないほどに。


「それは……承知しています。視れば、分かりますので」


「なら、教えてください。呪力の少ない俺を、魔導スポーツに誘う理由を」


 悠太の呪力量は、最低ランクと言えるほどに少ない。

 これよりも低いとなると、呪力をまったく蓄えることが出来ない、というレベルとなる。

 悠太を誘った理由によっては、断るしかないと考えていた。


「南雲さんが、とても強い方だからです」


 理由になってない、と席を立とうとするが、空になったカップが引き留める。

 最後まで話を聞くと言ったことを思い出したのだ。


「根拠はあるんですよね?」


「えと……根拠というか、強いんだろうって思っただけで……」


「その思った経緯を、可能な限り言語化していただければ」


 ――己が業を知りたくば、理に至る道筋を知れ

 という、己が師の言葉を悠太は思い浮かべる。同時に、自分がまだ未熟であることを思い出し気分が落ち込んだ。


「耳を見れば分かるかもしれませんが、私は妖精の血が濃いです。家系的なもので、親族にも多いです。中には、古種と呼ばれる人もいまして……その、気を悪くしないで欲しいのですが。……南雲くんは、その人と雰囲気とかが似ていて。だから、強いんだろうって思いました」


 悠太は、困ったように耳の裏側をかく。

 古種とは、魔導世界において『化け物』と呼ばれる存在だ。

 悠太は気にしないが、人によっては「お前は化け物だ」と罵倒されたと受け止められる。


「……はあ、そこまで腕を買われたら、断るわけにもいきませんね」


「い、いいんですか……?」


「いいんです。先輩の目に敬意を表したいので。――ただし、事が魔導スポーツですからね。参加資格を満たせなかった場合は、なし、ですので」


「それはもちろんです。――成美ちゃん」


「はいはい、大丈夫ですよ。ちゃんと用意してますからね。――パイセン、これ」


 金属で出来た、木刀を押しつけられた。


「どうしろと?」


「柄握ったまま、柄頭を押し込んでください」


 悠太は成美の指示を実行した。

 すると、木刀に刃にあたる部分がかすかに光った。

 同時に、悠太は自身の呪力がごっそりと減ったことを知覚する。


「……呪力を使うおもちゃ?」


「んなわけないでしょ。魔導戦技で使う武器です。起動できたって事は、参加可能です。良かったですね。なるみん的には非常に残念ですが」


「ダメだよ、もう。そんなこと言っちゃ…………あれ?」


 突如、ライカが自分の胸を押さえた。

 目を見開き、呼吸が荒れる。


「え、え? 何ですか、先輩? 体調が悪いんですか? 憤慨モノですが、またパイセンに運んでもらいますか?」


「体調じゃなくて、霊脈がすごい乱れて……あっち側で――え?」


 ライカの声に導かれて、二人は窓の外を見る。

 特筆すべきことがほとんどない、日常の風景が光景が広がっていた。

 だが三人は、特筆すべきことに目を奪われた。


「なんです、アレ。流れ星、ですか?」


「いや、流れ星にしては違和感が。というか、落ちるぞ、アレ」


「……――っ!」


 流れ星のような何かが落ちる直前に、ライカは駆けだした。

 研究室の奥へと続くドアを開け、勢いよく閉めた。


「なあ、後輩。念のために聞くが、アレは牧野先輩の普通か?」


「んなわけないでしょ。普通に緊急事態です」


 互いに顔を合わせながら頷き、示し合わせたように立ち上がり、

 ――研究室が大きく揺れた。


「――っ、行きますよパイセン!」


 ライカが閉めたドアを開け、熱波に襲われた。


「…………うそ、……フェーズ、Ⅱ……」


 熱波の中心にいたのは、炎の巨人。

 ライカは心臓を抑えてドアの近くで身体を丸め、成美は呆然と立ち尽くす。

 悠太は手にしたままの金属棒を一瞥し、柄を強く握りしめた。

お読みいただきありがとうございます。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。



余談ですが、紅茶が好きです。

主に、Fortnum & Mason の茶葉を買ってますね。最近だと、ラプサンスーチョンという銘柄にはまってます。松のスモーキーな香りがクセになる一品。ダージリンとかアールグレイみたいに、香りの強い紅茶が好きな方はぜひ。


……ちょーっとばかりクセの強い香りなので、初心者向けではないですが。

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