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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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戦技終わって

「いやー、負けた負けた」


 現実に戻ってきた悠太は満面の笑みを浮かべていた。

 悔しがっている様子は一切なく、やりきったようにスッキリしていた。


「お待たせしましたが……なんです、その顔は?」


 ライカ、成美、フレデリカの三人は、顔を引きつらせている。


「……パイセン、自分が何やったか、胸に手を当てて考えてもらえます?」


「ああ、それか。剣聖ともあろうものが最後まで生き残れなかったんだ。俺の信用がガタ落ちになるのは分かるが、アレは相手は上手だった。数の暴力を上手く活用していたからな。多対一は苦手な部類だから、上手く弱点を突かれた」


「冷静で意外です。南雲くんは悔しくないんですか?」


「まったくないと言えば嘘になりますが、自分の不甲斐なさが三割、相手への称賛が六割、残りがその他ってところです」


「兄貴、二人が言いたいのはそこじゃないわ。首になってまで相手を殺したからドン引きしてるの。で、そんな執念見せたのにドライな態度だからバグってるんじゃないかって戸惑ってんの。その辺を説明して」


 なるほど、と頷く悠太。


「無理をした理由は、俺が剣聖だからですね。俺個人としてはフーに右腕斬られた時点で諦めたんですけど、剣聖としてはその程度で諦めるわけにはいかなんです。ドライなのは、仕事をやりきった開放感からです」


「えっと、剣聖だからってのは、どういうことなの?」


「剣聖は一種の権威です。現在の剣聖が弱いと思われては治安が荒れます」


「治安が荒れるって、パイセン自意識過剰ですか? 一人でどんだけ支えてるって言うんですか?」


「剣聖になってからまだ一年ちょいだが、魔導災害が七つ。犯罪者が三人ってとこだな。犯罪者は魔導一種や奥伝クラス。魔導災害は……かなり特殊だな。専門家の手に負えないのが回ってくるから」


 剣聖と呼ばれる条件は、強さではない。強いことは大前提。

 重要なことは、代替が困難な技術を習得していること。悠太の場合は空の目や、霊体などを斬る祓魔剣などがそれにあたる。


「あと、弱い剣聖がいるって噂が立つと、闇討ちとかが増えて困る。去年は春から初夏にかけて襲撃が多くて面倒だった」


 悠太だけでなく、フレデリカも遠い目を目をする。

 剣聖の弟子ということもあり、彼女も標的にされたのだ。こちらは弟子志望が多く、何度か負けてもいる。勝ったことを理由に弟子入りしたがる襲撃者は悠太がボコボコにして追い返したが、腹いせに悪い噂を流され、さらに襲撃者が増えるという悪循環が発生した。

 学業にも悪影響が出てしまったのだ。


「パイセンも、大変なんですね……」


「俺といよりは、剣聖がな。――さて、俺のことはともかく、初めての魔導戦技はどうだった? フーは言わなくても良いぞ。信頼してるし」


「信頼って便利な言葉ね。でも、言うことないのよね。兄貴の腕斬れて大満足だけど、祓魔剣とか立ち回りとかを制限してたし。あと、どうしょうもなく運が悪かったから……その辺は次回に期待ね」


 フレデリカの認識では、悠太との模擬戦をしただけ。

 戦う前の消耗具合から、悠太もそれを察していた。


「……あたしは、なんでしょう? 開始直後に撃たれて終わったんで、特に言うことがない?」


「なら、なんで撃たれたと思う? それが分かれば、鍛えるべき技能も分かる。――ただ、初期位置が悪いってのはなし。どうしょうもないが、それに対処するために考えるからな」


「えー……撃たれないためには、見つからないこと?」


「あと、撃つ人がどこにいるかも探す必要があるよ。私は半径三〇〇メートルを探索したけど、どこから狙撃されたのか分からなかったし……」


「その狙撃したヤツだけど、五〇〇メートルは離れた場所から撃ってるわよ」


「いやいや、無理ですよ。半径五〇〇って、処理できませんよ。あたしじゃ半径一〇〇が限界ですし。……というか、フーカ先輩、そんなに広く感知してるんですか?」


「んなわけないじゃない、観の目でザックリよ」


 これは悠太も同じ。

 移動速度などを犠牲にすれば数百メートルをカバー出来るが、普段はしない。


「ザックリって、具体的には?」


「視野を広くして怪しい場所を見付けて、何もなかったら全体をボーッと俯瞰する」


「かなり高度なことですよね? 処理出来るんですか?」


「いきなり全部しなくてもいいのよ。少しずつ出来ることを増やして、慣れたら最適化。それでまた出来ることを増やす」


「うへー。でも、まだ出来そうですね。頑張ってみます」


 探索技術を上げる方策が見え、手をグッと握るライカと成美。

 フレデリカは自分が通った道でもあるので、感慨深そうに頷いている。


「大変だけど、覚えれば便利だから頑張ると良いわ」


「はい、頑張るので、フーカ先輩もアドバイスお願いしますね!」


「え、わたしが!?」


 アイデアを出した後は関係ないと思っていたフレデリカは、目を丸くする。


「はい、フーカ先輩にお願いしたいんです」


「……兄貴から教わればいいじゃない」


「パイセンは剣聖じゃないですか。ちゃんとした技術とか教えてもらうだけのおカネなんて、払えません」


「わたしなら良いって言いたいの?」


「それが一番なのは否定しませんが、教えた方が覚えられるって言うじゃないですか。あたしとライカ先輩に教えることで、色々と腕があると思うんです」


「詭弁ね、お断りよ」


 すげなく断るフレデリカ。

 だが、成美に諦める気はないようだ。


「なら、取引しましょう。魔導のアドバイス、欲しくないですか?」


「魔導三種持ちのプロに何を教えてくれるっていうの?」


「フーカ先輩が苦手そうな、創作系ですね。ブサ可愛い雀さん、綺麗にしたくないですか?」


 ピクリ、と反応した。

 フレデリカは呪力こそ多いが、度を超えた不器用。

 コンプレックスにもなっており、改善の目処が立つなら飛びつこうとしてしまう。


「……式神とか、使わないし」


「なら、他の術式も見ますよ。汎用術式も苦手っぽいですし、どうです?」


「…………安くないからね」


「もちのろんです!」


 交渉成立。

 契約の証に握手をする二人を、悠太は嬉しそうに眺めている。


「南雲くん、どうしました? 気になることでも?」


「いえ、フーのことでちょっと。魔導関連で情報交換出来る子が、今までいなかったので。ちゃんと成長してるんだなと、実感しています」


「フーカちゃんのお師匠様だから、気になるんですね。でも、良いんですか? 私も観の目? というのを教わることになっていますが」


「武仙流では、観の目は基本です。対価ももらっていますし、初伝が教えますからね。問題ありませんよ」


 問題なのは、皆伝であり剣聖でもある悠太が教えること。

 弟子であるフレデリカは例外だが、それ以外を相手にする場合、莫大な対価が必要になる。


「時に牧野先輩。そろそろお昼ですが、お腹は空いてませんか?」


「こ、答えにくいですが、……はい、空きました」


「なら、エントランスに行きましょう。お弁当を作ってきたので。――二人とも、昼にするぞ」


 悠太は持参した重箱を手に、会議室を出る。

 すると、隣の二〇五号室のドアが開く。


「だーかーらー、アレは人間じゃない、妖怪よ!」


「いやいや、マキさん。確かに強かったですけど、妖怪じゃなくて化け物でしょう?」


「いーや、違うね! 首だけで飛ぶとか、絶対に飛頭蛮――」


 声を上げる女性と、悠太の目が合った。

 悠太は、どこかで見たような? と首を傾げる。

 女性は三秒ほど固まった後、ガタガタと震え始める。


「……で、でで、で…………」


「……? …………あ、もしかして」


「で、出たぁぁぁあああ――っ!!」


 ひゅんっ、と会議室に逆戻り。

 悠太は耳の裏を掻き、途方に暮れる。


「あれ? もしかして剣聖さんです?」


「君は剛剣の。じゃあ、やっぱり彼女が指揮官ですか」


 先ほどまで殺し合っていた相手が、隣にいた。

 奇妙な縁を感じながら、悠太はどうしたものかと思案する。

お読みいただきありがとうございます。


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