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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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剣聖の意地

 一〇〇〇を超える呪弾が、悠太めがけて降り注いだ。

 数十人がタイミングを合わせて放ったようで、呪弾ごとに密度や術式に揺らぎがある。

 悠太は呪弾の雨を前に左腕を振りかぶり、目を見開いた。


「ふぅ――っ」


 武仙流「技」の理・奥伝――断流剣。

 未だ完成にはほど遠い練度ではあるが、ただの一振りで全ての呪弾が掻き消えた。


「ダラッシャァァァアアア――っ!!」


「剣聖覚悟ォォオオ!!」


「あれ、まさか……」


 四方八方から斬りかかられるも、左手一本で綺麗に捌いていく。


「あの、署の道場で会ったことありましたよね……? もしかして、お仕事ですか?」


「ははは、悠太くんに覚えていてもらえるとは光栄だね。でも、プライベートさ! 仕事で魔導を使う機会は少ないから、こうしてね」


「なるほど。ところで、俺の目がおかしくないなら、魔導省とか、自衛官とか、宮内庁の人もいません? 引退した人じゃなくて、現役の」


「プロが多く参加しているんだけど、君に言われたくない、かなっ! 剣聖がくるなんて、前代未聞だよ!」


「ちょっと部活に入りまして。青春でもしようかなー、っと」


 身体から力を抜き、押し倒されるように鍔迫り合いをやめる。

 身体が限界まで倒れたところで、軸足を動かす。倒れるときの勢いを推進力に変え、一気に距離を離す。

 離脱直後、悠太の居た地点に銃弾が撃ち込まれ、鍔迫り合いをしていた警察官が死亡する。


「あクッソ、逃げるんじゃ――」


「おいバカ、叫んでるヒマは」


「ええ、格上相手に残心をしないと首が飛びますよ」


 一振りで、二つ。

 小銃で武装した男達の首が飛んだ。


「剣士の人達はまあまあ、魔導師の方々は容赦なく適確ですが、練度が足りません。斬った直後に着弾するように撃てなければ脅威ではありません。数が多い銃は論外。距離を取って撃てば安全とか考えてません? そこは俺の間合いですので、離れてるとは言えませんよ」


 余裕綽々の体であるが、背中に汗を掻いている。

 魔導によるブーストがない悠太は、銃弾一発、斬撃一つでも致命傷になる。

 包囲の数を減らす以外に、生き残る道がない。


「だりゃぁああ――!!」


「威勢は充分。でも未熟――む」


 剛剣が振り下ろされると同時に、呪弾が撃ち込まれる。

 約六〇〇メートルからの狙撃は、剛剣からの退路を塞ぐように撃たれていた。

 悠太は剛剣を片手で流し受け、呪弾を流した剛剣で防いだ。だが悠太は膝を着き、容易には動けない状態となっていた。


「……どうしたんです? 今なら、攻撃し放題ですよ」


「ボスからの指示だ」


「追撃よりも、立て直しを優先したと? 思ったよりも余裕を見せますね」


「よく言うな。ボスからの指示なくても、追撃なんてしなかったよ。下手に手を出したら、俺を盾――じゃなくて武器にしただろう。柔剣ってやつか? 力任せの剣しか振れない俺からしたら、魔導と見分けが付かないな。さすがは剣聖ってとこか」


「柔剣なんて、剛剣が振れない人間の小手先ですよ。呪力のない人間には、出来ることが少ないので」


 剣を含め、身体の大きさは強さに直結する。

 呪力と魔導である程度代用出来るが、大きく重い体躯の方が強いことに変わりない。

 悠太は特別小さいわけではない。一八〇には届かないが、特殊な鍛錬により筋肉が高密度で詰まっており、見た目以上の出力と持久力がある。

 だが、呪力を持つ武人と力比べをすれば負けてしまう。


「本当に、よく言うな。こっちは術式全開で崩そうとしてるのに、ビクともしないだろうが」


「魔導を斬るには、力の流れを知る必要があるので」


 武仙流「技」の理は、魔導だけでなく水や風のような流体を斬るための技術。

 「心」の理と違い極めてはいないが、中伝程度と渡り合うには充分な練度がある。


「……ちょっと、戦略級レベルの呪力が活性化してるんですが」


「あっはっは、剣聖を殺すためなら諸共でも構わんってのしか、ここにないないぞ」


「そっちじゃなくて、なんで使えるんですかね? 結界世界の制限で、戦術級までしか使えませんよ」


「企業秘密に決まってんだろう!」


 悠太は魔導師の適性がない。

 呪力視は使えないが、観の目によってこの弱点を補っている。

 これによって高位の魔導師以上に視野が広くなっているのだが、術式から使われる魔導を判別することは出来ない。そのため、呪力の過多や現状から術式を予測しているのだ。


「――っ!」


 使用される魔導は、単純な爆発。

 呪力を過剰に注ぎ込み、力業で範囲を広げて限定的に戦略級の規模を再現。

 悠太は迎撃するために大男の身体を崩すと同時に、剣を振った。

 押さえつけられていた力を利用し、デコピンの原理で威力を高める。片手で立居合を再現するという絶技ではあるのだが、誰一人気付くことはなかった。


「……あー、これは負けだな。全員斬るのは無理だ」


「なーにが負けだな、だ。今の一瞬で何人斬った!?」


「んー、七人? でも、致命傷だ。戦略級を隠れ蓑にして狙撃出来るとか、予想外にもほどがある」


 腹を押さえながら、困ったように首を傾げる。

 内蔵へのダメージと出血量から、悠太は死亡するまでの時間を計算する。


「問題は……死ぬまでに何するか? このままだと、剣聖としての権威が傷付くし……」


「やー、傷付かんだろう? これまでにどんだけ暴れたと思って」


「よし、決めた。やっぱり王道だな。包囲を突破して指揮官を斬ろう」


 右手があれば、ポンと手を打っただろう。

 だが片腕なので、決めると同時に駆けだした。もっとも包囲の厚い部分へ向かい、斬られることも気にせずに駆け抜けた。


「くそっ――マキさん、そっちに剣聖が向かった!」


 バランスが悪く、こけそうになる動きすらも、推進力に変える。

 一歩ごとに流血量が増えるが、気にせずに駆ける。迎撃のために呪弾などが降り注ぐが、狙わせないために上下左右を縦横無尽に駆ける。また、遠距離から魔導を撃ち込む後衛が近くに居る場合は、ついでとばかりに首を斬っていく。

 だが、悠太も無傷ではない。


「届かないな、これ……」


 包囲網を築いた指揮官――マキに近付くごとに、迎撃の密度が上がっていく。

 また、被弾率を下げるために複雑なルートを駆けるため、前衛組との距離も詰まっていく。

 指揮官を斬り殺すため、あらゆる手順を模索するが、どれも届かない。考える間にも時間はなくなっていき、ついにその時は訪れる。

 悠太が指揮官の顔を捉えると同時に、あらゆる術式が殺到した。


「やった……?」


 マキは、悠太を仕留めるためにあらゆる手を尽くした。

 極限まで思考を加速し、限界まで視野を広げ、指揮以外の全てを切り捨てた。

 一歩間違えば脳が焼き切れるほどの情報を処理し、ついには悠太の身体が爆散するのを見届けた。

 一秒が一分に感じるほどの圧縮した時間の中、必至で目を凝らす。何度も確認しても、間違いなく身体は四散している。首から上は形を保っていて、なぜか剣を咥えているが、それ以外は塵同然。

 ホッと安堵しながら思考加速を解除し――


「ぁえっ……?」


 ――視界が空を飛ぶ。

 飛びながら、くるくると回転する。


(首、斬られた……どうやって?)


 自身の首が宙を舞う間、思考を続ける。

 続けなければ、発狂しそうになるから。

 高度が下がり始める時点で、マキは答えに至った。


(……まさ、か。咥えた剣? 斬るための推進力を得るために、わざと、爆破された……?)


 地面に着くまで、マキの胸中を恐怖が占めた。

 魔導戦技で幾度となく死を経験したが、首だけになってまで殺しに来たのは悠太一人。

 やけっぱちの特攻や、殺すことに快感を覚えた狂人、頭のネジが外れた魔導師などを相手してきたが、悠太の行動はどれとも違う。

 マキと同じ、勝利するための計算尽くの行動。

 冷徹と呼ぶほどの理性を感じるが、その裏にあるのは執念と呼ぶべき貪欲さがある。


(……そっか。人間じゃなくて、妖怪の類いだったか)


 首が地面に触れると同時に、マキは結界世界から退場する。

 悠太の首が塵と化すのを眺めながら。

お読みいただきありがとうございます。


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