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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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烏合の衆

 魔導戦技は、二年も経っていない新しい競技だ。

 根幹を担う結界世界の構築と維持、安全性などの問題から、まだ実験的な試行にとどまっており、知名度に関してはほぼない。

 だが、生命の危機なく実践を経験出来ると、参加者からの評判は良い。

 軍人や武人、魔導災害のエキスパートなど、戦闘を本職とする本物が幾人も参加している。

 そんな魔導戦技に、最初期から参加する女子大生が一人。


「だ・か・ら、その子には化け物の相手をしてもらって! こっちのメンツとかんなもんは、数集めてる時点でないのぉ、さっさとこっちに戻ってきて! 狙撃手いないなら勝率すっごい下がるからぁ!!」


 女子大生の名前はマキ。

 南雲悠太の討伐チームを結成した、非戦闘員だ。


「えっ? 撃っても当たらないんだから勝率変わらないだろう? お・バ・カ、か! 普段から合理性合理性言ってるのはどこ行った!? 五〇人近く集めたんだから充分に意味あるんだよぉ! ……えっ? むかつくからヘッドショットで潰れたトマトにしたい? …………無駄死にしたいなら、別に良いよ。感情を優先しても。代わりに二度とスポッターしないか――そう? じゃあ我慢して」


 マキは、戦闘に必須とされる魔導発動までの速度や、とっさの判断能力が低い。

 だが、魔導は戦闘のみの技術ではない。演算速度や並列処理など、研究者向けの適正値が高い。

 そんな研究者向けの能力あることで、大学一年からゼミに所属することになった。本人としても研究したい分野のゼミに入ることが出来て喜んだのだが……それが、魔導戦技への参加に繋がってしまった。


「……はあ、何やってんだろうな。導師号が欲しいのに、何でドンパチしてんのよ……」


「そりゃ、単位とカネのためでしょ? 教授が褒めてましたよ、マキさんのレポート。品質アップに繋がったってんでスポンサーから金一封が直接出たんでしょ。教授もゼミの単位も確定させたって」


「割に合わないのよぉぉおお!」


 荒野に絶叫が響く。


「だいたいね、スポンサーって天乃宮家よ!? 頭のネジがイカレたマッド共よ! そんな連中に目を付けられる意味、分かってる!?」


「いや、そこまで何ですか?」


「剣士には分かんないでしょうけど、そこまでなの! 研究のためなら人として大事なものから真っ先に捨てて、必要なら自分も生け贄に捧げるような連中なの! ……大学の近くにヤクザがいるって話あるでしょ? 竜種がトップって言われてる」


「ありますね。大戦を生き抜いた古種がいるって噂の」


「ここからは噂なんだけど、最近、その本拠地が壊滅したのよ。古種が動いたから死者はでなかったそうだけど、もし動かなかったら街が滅びたらしくて…………それをしたのが、天乃宮本家の人間らしいの」


「荒唐無稽な噂話……じゃ、ないんですよね?」


「噂の出所、教授なの。表に出ない兵器を使ったみたいとか、観測したかったとか、声をかけてくれたら隠蔽に付き合ったのにとか、酒の席でグチグチと……」


「教授も大概ですね……」


「うちの大学、天乃宮系列だから……」


 マキが所属する大学は、天文魔導大学。

 悠太達が通う天魔付属の大元であり、天乃宮家が直接運営に関わる大学だ。


「でも、おかげで最新の研究に関われてるじゃないですか、大学院生でもないのに」


「……否定、できない」


 最初こそ強制であったが、二回目からは自分の意思。

 相方の狙撃手や、後輩の剣士といった仲間を率いるのも、成り行きではあるが選択の結果だ。


「ところで、どう? 前線組は勝てそう?」


「無理だ」


 後輩の大男は即答した。


「無理って、指揮官としては困るんだけど」


「そう言われてもねぇ、マム。見れば分かるとは思いますが、格が違いすぎます。俺の師匠が相手しても、勝てないと思いますよ。数集めても同じですから、無茶言わないでください、マム」


「誰が母親だ、マム言うな!」


「マムってのはアレです、女の指揮官を表す英語で」


「知ってるよ! 知ってるけど、その呼ばれ方が嫌いなの!」


 一通り怒鳴り散らして、マキは落ち着きを取り戻した。


「それで、無理って具体的にはどう無理なの? 身体的スペックはこっちが上でしょ?」


「呪力がないみたいですから。力や速度なんかは、南雲さんの方が上だし、魔導だって使ってる。なのに、まったく当たってない。つまり機を見る能力が抜群なんです」


「ふむふむ。なら、機を見る能力に負荷をかければいい、と。数で囲むのは正解っぽいな、うん。――ところで、南雲さんって化け物とタイマンしてる子だよね? 知り合い?」


「去年の、魔導剣術の県大会で当たったんですよ。俺が勝ったんですけど……クッソ強くなってます。去年はほぼ剣術だけでベスト八だったのに、今はバンバンと魔導も織り交ぜて――ってのは、蛇足ですね。マキさんの負荷をかけるってのは合ってるんですが……南雲さんもやってるんですよね」


 えっ? とマキが固まる。


「南雲さんは俺たちに介入するなって言ったでしょ? あれは化け物さんに集中するためです。でも、化け物さんはそのことを知りません。俺たちと手を組む気はないって南雲さんが言っても、俺たちが介入しないとは確信してないはずです。だから、狙撃とか奇襲されても対応出来るように、気を回してます。つまり、負荷がかかってるんです。なのに、まったく当たってないんですから……無理だって言いたくもなります」


 マキは、頭を抱えてしゃがみ込む。

 研究者志望ということもあり、近接戦闘の機微などまるで分からない。後輩の大男をアドバイザーとして置いているのも、そのため。


「そ、そこまで、なの?」


「ええ、そこまでです。小規模ですが、マキさんがやろうとしてることを、たった一人で実行してるのが南雲さんで、まったく意に介してないのが化け物さんです。……どうします?」


「……役割を、変えよう。前線組が足止めして、後衛組が大規模術式でなぎ払う……でも、なんとかされそうだから、二発目を用意して」


「俺たち諸共に、ですか? 俺はいいですけど、他は別ですよ」


 マキがまとめた討伐チームは、悠太という脅威でまとまっただけの烏合の衆。

 悠太を倒した後は敵同士に戻るため、まとめてなぎ払う方策では即瓦解する。


「あれこれ考えても仕方ない。直接会って、説得する」


「分かりました。集まってる場所まで案内します」


 案内と言っても、すぐ近く。

 悠太討伐のための陣形は整っており、魔導剣士を中心とした前衛組も集まって談笑していた。


「どうも、皆さん。方針が決まりましたので――」


「俺たちごと吹っ飛ばす系のヤツか? 構わないから、ド派手に頼むぞ」


「いやいや、無理に派手にする必要はない。確実に、殺して欲しい」


 などなど。

 烏合の衆のはずが、なぜか死兵のごとき覚悟を固めていた。


「え……? どうしたんです? 悪いものでも食べました、終われば敵同士なんですよ?」


「言いたいことは分かるが、仕方ない。剣聖とドンパチして、勝てるかも知れないんだ。命なんか惜しんでられるか」


「剣聖……? 剣を持った理不尽とか、奇跡を斬る埒外とか、言われてる……あの?」


「あの、剣聖だ。いやー、楽しみだな! 魔導一種や古種よりもよっぽどレア。なんか動きがぎこちない気がするけど、手加減してんだろうな。――ところで、神道無念流っぽいけど、動きおかしくない?」


「警視流から引っ張ってきて、魔改造した系の遊びだからな。悠太くん、剣なんて近付いて斬るだけって言って求道思想の子だから」


「あー、求道思想か……マッドな魔導師と変わんないのが多いんだよな……。ストイックだから目立たないだけで、一番イカレてる」


「人斬りの殺人鬼よりはマシだろ?」


 それもそうだ、と笑いが上がる。

 マキはお前等も充分イカレてるだろうと思ったが、言っても意味がないので飲み込む。


「おい、見ろ! あの嬢ちゃんがやったぞ!」


「惜しかったな。あと一歩だったのに――でも、剣聖は何やったんだ。あれじゃ死なないだろう?」


 気がつけば、戦闘は終わった。

 悠太の右腕を斬り飛ばすという大戦果に、討伐チームは沸いた。


「……全員、配置に。決戦です」


 剥き出しの獰猛さに、マキは冷や汗を隠せない。

 だが、止まることは出来ない。不安を抱えながら、戦場から離れていく。

お読みいただきありがとうございます。


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