待ち合わせ、遅れた人は罰ゲーム……しない
1000PVを超えました! ありがとうございます。
これからも定期更新を続けていこうと思いますが、実は先週からノープロットです! ……こっから、どうしよう。
科学万能、魔導全盛の時代であっても、魔導は危険なモノだ。
扱いを誤れば魔導災害を発生させ、最悪の場合は世界の根本たる物理法則を歪めてしまう。だが、危険であっても技術は技術。使わなければ腕は錆びていき、いざという時につまらないミスをする。また、使用機会が少なければ若手は育たず先細りする。
魔導センターとは、そんなジレンマを解消するために作られる施設だ。
「遅いですよ! 皆、パイセンを待ってたんですから、ジュースくらい奢ってくださいね!」
「ふざけんな、五分前だ」
「五分前でも最後は最後ですぅ。待たせたらお詫びをするルールを知らないんですかぁ?」
「いいか、後輩。世の中には予約時間があるんだ。こういう施設に入れるのはな、予約時間の五分前とかそのくらい。それ以前に集まっても結局待つことになる。それが社会のルールってもんだ」
成美の戯言に正論で返して、悠太は受付に向かう。
「すいません、予約していた南雲です」
「南雲様、四名様ですね。会員証の提示をお願いします」
「はい。――先輩達も出してください」
魔導が暴走しないように、暴走しても被害が抑えられるように、魔導センターは造られている。
ただ、対策はされていても万全ではない。過去には魔導を失敗し続けて、魔導センターを崩壊させた者もいたほどだ。それ以降、魔導師個々人に対するリスク管理として、会員制になっている。
「では、二〇六号室をご利用ください」
「ありがとうございます」
鍵を受け取った悠太達は、エレベーターに乗る。
二階で降り、表記を頼りに部屋を探し当てた。部屋は細長く、手前半分に机や椅子、ホワイトボードや薄型ディスプレイがあり会議室のよう。仕切りで区切られた奥の半分は魔導対策が施されており、デバイス調整機や人が寝れる堅い台などが置かれている。
「荷物はその辺に置いて、まずは目標を説明」
「ちょーっと待ってください。何でパイセンが仕切ってるんですか? てか、目標って?」
成美が手を上げ、異を唱える。
だが、荷物はきっちりと部屋の隅に置き、椅子に座る。
「俺は一応と言えど剣聖で、戦闘が専門だ。成長のためにフーに仕切らせることも考えたが――先輩と後輩はド素人だからな」
「ド素人なのは認めますけど、上から目線が気に食わないです。というか、フーカ先輩に甘くないですか? 大切な妹は崖から落とさないと?」
「崖だったら蹴り落とすが、活火山の火口はさすがに……人として、な」
「あたしらは火口ですか、そうですか」
蹴り落とす発言はスルーされた。
ライカはオロオロとフレデリカの顔を見上げるが、気にした様子がないので黙ることにした。
「まあ、パイセンが強いのはその通りですし、フーカ先輩を育てた実績があるので納得しますが――目標ってなんです? やるからにはトップを目指すつもりですが」
「事前に調べたから断言するが――トップは絶対に無理だ」
不満げに唇を尖らせるのは、成美だけ。
ライカとフレデリカは「やっぱりなー」と納得していた。
「会員証に紐付けたポイントシステムがあるから、それで順位は付くが……ぶっちゃけ桁が違う。全戦全勝を前提でも数年かかるし、その間にもトップはポイントを稼いで差が開く。それでもトップを取りたいならロードマップくらいは作るが」
「じゃあ、いいです。別の目標を立てましょう」
見事なまでの手のひら返しであるが、悠太は特に気にすることもなかった。
ゴロゴロとホワイトボードを見やすい位置に動かし、マーカーのキャップを外した。
「まずは、魔導戦技についての説明から始めよう。大まかには、魔導剣術部とのアレだ。あの時は高度な結界と幻術だけだが、電子技術と併用しているのと展開規模が大きな違い。それ以外は同じようだし、気にする必要はないな」
「同じというと、痛みとかもないんでしょうか? あと、私のヴォルケーノはどういう扱いに?」
「生成りレベルの融合度なら反映されるみたいですが、先輩は召喚士程度の取り憑き具合ですから……さすがに反映は無理ですね。呪力量の再現には問題ないですが」
「そうですか。なら、暴走はしない……あっ、違うの。邪魔って訳じゃなくてね」
急に手をワタワタとさせながら、何かに謝るライカ。
少なくとも三人に対してではない。
「他に質問もないようだから次は種類について。魔導戦技は一対一、チーム戦、バトルロワイヤルの三つに分かれる。一対一は言葉のまま。チーム戦は、五人までを一チームとしての四つ巴。最後のバトルロワイヤルは、参加人数一〇〇人の規模。この中で俺たちが参加すべきはどれか、分かるか、フー?」
「バトルロワイヤル一択ね」
微塵も迷わずに答えた。
「なんでですか、フーカ先輩? 一対一は論外にしても、チーム戦もありなんじゃ」
「ライカ先輩と成美が弱すぎてチームとして機能しないのが一つ。一五人ぽっちじゃ兄貴を殺しきれないのが二つ。兄貴やわたしに寄生する形になって成長しないのが三つってとこね」
「正解だ。まずは全員、バトルロワイヤルで生存能力を磨いてもらう。魔導に関わると死にやすくなるからな。コレを鍛えておけば長生き出来るから、腐ることはないぞ」
「……パイセン、発想が怖いです。脅さないでください」
冗談だから安心しろ、などという慰めの言葉はない。
それどころか、ライカまでもが真剣に眼差しを向けているのを見て、文化が違うと戦慄をした。
「具体的な数値を発表する。先輩と後輩は八〇位以上、フーは五〇位以上、俺は祓魔剣を封印して一位。先輩と後輩は特に期日を設けないので、潰れない程度に」
「わたしは?」
「魔導剣術部に支障が出なければ別に。なんなら、一対一で野良試合しても構わんぞ」
「えっと、南雲くんは? 封印って、手加減してってことですよね? 大丈夫なんですか?」
「修練の一環なので、加減しない方が問題です。魔導戦技のデータはアーカイブ化されるので、手の内を明かすことと同義です。勝っても負けてもいい場で切り札を使うリスクは分かりますよね?」
データがあれば神様だって殺してみせる。
重度のゲーマーの言葉であるが、ある種の真理である。
理不尽が人の形をしている魔導師であろうと、からくりが判明すれば対策が取れる。失敗しても失敗したデータを元にさらに対策を取る。この一連の流れこそが人の強さなのだから。
「兄貴の場合、それだけじゃないでしょ」
呆れ半分、戦慄半分の呟きだ。
「おや、どういうことですか。言外に手札を隠して五〇位以上になれと言われたフーカ先輩」
「祓魔剣ってね、精神とか霊体みたいに形のないもの特攻なのよ。だから魔導戦技みたいにアバターで戦う競技でも、その気になれば精神を斬って植物状態にすることもできるの。魔導災害とか指名手配犯ならともかく、スポーツでそこまでする理由ないでしょ、そういうことよ」
「えーっと、パイセンって確か、最弱なんですよね? 最弱の剣聖なんですよね? そこまでできるんですか、剣聖って?」
「最弱ってのはね、スペックの問題よ。片手で車を振り回せるのが当たり前の連中の中に、一〇〇キロ持つのが精一杯の人がいたら最弱でしょ、そいういうことよ。――でも、技量だけで言えば、現役の剣聖ではトップレベルね。兄貴以上って、剣聖の枠を超えちゃうから」
さらっと飛び出た人外宣言に二人がドン引きする中、悠太はデバイス調整機を操作する。
調整機としての使い方以外も、魔導戦技に関する設定も可能なのだ。
「デバイスの登録画面を出したから、急いで登録を済ませろ。予約してた時間まで一〇分もないから」
「ちょっと、何でそんな早いんです!? 余裕を持って予約してくださいよ!」
「一〇分もあれば充分だろう? アバターの設定も全部会員証に入ってる。終わったらそこの台に寝てデバイスを起動。それで身体が自然と寝て入れるから。名前なんかも弄れるはずだぞ」
「だから、もっと早く言ってください! 大事なことなんですから!?」
成美の文句を聞き流し、悠太はデバイスを起動するのだった。
その様子にさらに憤慨する成美をライカがなだめ、その隙を突いてフレデリカも台に寝そべりデバイスを起動する。
二人が寝たことで行き場の失った怒りを飲み込んだ成美は、ライカと一緒にデバイスを登録するための操作をし、同時にデバイスを起動するのだった。
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