マウント取る
宴会はどの程度続くイメージがあるだろうか?
午前様や、二次会三次会、という単語を聞けば一晩中するイメージがあるかも知れないが、ごく当たり前のことを言おう。
人は、一晩中飲み食いなどできない。
「うぇぇ……」
「……ママ、さすがに恥ずかしい」
どんなに酒が強くとも、胃袋には限界があるのだ。
アルコールを摂取し続ければ酩酊して思考が鈍り、食べ過ぎれば吐き気でダウンする。
無理をして飲み過ぎなければいい、飲み過ぎ食べ過ぎは毒、と賢い人は言うだろうし、間違いなく正しい。正しいが、人はそもそもが愚かなのだ。
ただ、勘違いしてはいけない。
自制心が欠けている人も確かいるが、飲まざるを得ない状況もあるのだ。
「……でも、やりきったわ……最後まで……」
「身体強化とか解毒術式使ってまで飲むのはおかしいよ!」
「田舎での飲み会はマウント合戦の場でもあるので、多少は仕方ないと思いますよ」
「……じゃあ、魔導使ってまでマウント取るのは田舎でも普通なの?」
「…………よっぽどがないと……やらないですね」
一昔前までは、酒をたくさん飲めるのがカッコいい、という価値眼があった。
大学の飲み会で先輩からの酌を断れないのも、コミュニティから排除される可能性が高いから。あからさまなイジメはなくとも、情報伝達の遮断や、悪評の流布、または悪意を持ってデマを信じ込ませるなど。
「よっぽど……ヴォルケーノのこと……」
「……一番、可愛いのはライカちゃん、なの……アイリーンさんも、……確かに魅力的な子だけど……一番可愛いのは、ライカちゃん」
親バカ談義でマウントを取るために無理をしたと理解した。
通常ならチョップの一つも落とすところだが、下手に刺激すれば胃の中身が逆流しかねないのでガマンした。
「悠太くん、何も聞かなかったことにしてくれない?」
「なら、こちらも。アイリを可愛いと自慢してたの、俺の親なので」
悠太は一人っ子であり、愛想が良いわけではない。
空を斬るなどという子供の戯言を実行しようと剣聖に至ったが、家業についてはノータッチ。それに対してアイリーンは姪であるが、家業である農業の手伝いはもちろん、害獣駆除にも積極的に関わっている。
田舎基準でどちらを可愛がるかと言えば、答える必要があるだろうか。
「悠太くんの方だったの!? アイリちゃんの写真、スマホで見せてたよね?」
「アイリだけじゃなく、俺やフーの写真も入っています。特にアイリは、俺とフーの代わりに農業の手伝いしているので。……地元での評判も、アイリの方が圧倒的なんですよね」
「悠太くんは剣聖で、フーカちゃんは魔導三種なのに?」
「都会の、それも魔導科の価値観ですね。うちのような農家であれば、魔導の価値はほとんどありません。もちろん、プロになれば高収入が約束されるので、才能がある子を支える伝統はあります。が、実質的な評判を考えるとどうしても……特にフーは」
不器用すぎてたらい回しにされたあげく、武仙に預けられるしかなかった。
この悪評が広まらないはずがなく、不愉快な扱いとなったのは違いない。
「ちなみに、俺はもっとアレです。魔導師でもないのに剣を振るなんて、と。剣聖になってもあまり変わりませんね」
「魔導資格みたいに、わかりやすくないから?」
「……中学で、ちょっとやんちゃした関係ですね。ガラが悪くて絡んできたのを、素手でのしていったら不良判定を受けて。ヒドいときには県内の高校生まで絡んできて」
「無謀……あ、違うか。中学生なら剣聖じゃないから」
「三剣や絶招は使えませんが、中伝にはなっていたので。基本は顎を殴って脳を揺らせてノックダウン。あまりにも綺麗に落としすぎて、実力差が伝わらなかったのが原因だったと反省をしています」
剣士の中では温厚であるが、それが弱気の表れと捉える者もいる。
悠太が武仙の弟子というのは、地元ではそこそこに知られている。呪力もないに等しいので、名を上げようとする連中からカモに見えてしまう。ただ、中伝の位階は軽くない。呪力のあろうがなかろうが、中伝以下にはまず負けない実力がなければ与えられない。
その結果起こるのは、延々と報復の連鎖が広まるという惨事。
「普通、手も足も出ない相手なら、どこかで止まると思うけど……」
「田舎、不良、子供、メンツ、これらが合わさった結果、呪力なしに負けたら舐められると引くに引けなかったのでしょうね。高校生を落として後、初伝の大学生が出てきた時は武器を解禁しようかと悩みましたね。向こうが頭下げてきたことで手打ちになりましたが」
「大学生で、初伝? 落としたっていう高校生じゃなくて?」
「フーや、全国大会に出てくるようなのと一緒にしてはいけませんよ。あれは上澄み中の上澄みです。大学生で初伝なら充分に才能があります」
ライカが関わってきた魔導師や剣士は、本当に上澄みなのだ。
例えば、フレデリカ。圧倒的な呪力量と徹底した反復で、魔導三種と初伝を持っている。高校生でプロの仕事が出来るのは、普通に考えて上澄みである。
「言われてみれば、そうだね…………よく、生きてるな」
夏休みには鬼面、文化祭では朱い妖精、と二体の化け物と関わっている。
先日の修学旅行では、自我を奪われていたが奥伝と相対した。化け物と比べれば劣るが、本機で殺しに来た点では化け物以上の脅威。
さらに、魔導戦技では初伝だけでなく中伝との戦闘も経験済み。
初伝は充分に勝ち目のある相手なので、自分の中での相対価値が下がっていた。
「この業界にいれば割と感じます」
「剣聖なのに?」
「上を見上げればキリがないんです。特に俺は、剣聖と言っても最弱。呪力がないのでやれることが少ないんですよ」
「悠太くんの剣は万能過ぎると思うんだけど……」
対人戦にかけては、悠太は無類の強さを発揮する。
要となるのが祓魔剣だ。人の戦意や意識を斬ることで、剣が触れただけで気絶させることが出来る。絶招・虚空を用いれば、剣でなく素手でも同じことが出来る。
化け物や本物の域にいるなら別だが、それ以外は触れれば終わり。なのだが、近付かなければ意味がない。一足一刀の外側に悠太を置き続けることが出来るなら、それだけで勝てるのだ。これは悠太も自覚している弱点なので、距離を詰める術は色々と考えている。
ただ、呪力がないという制約があるので、その術が限られる。
「悠太、少し良いかい?」
食器を片付けていた武仙が、悠太に声をかける。
「お客さんがこちらに向かっているから、出迎えを頼む」
「…………分かりました」
ライカに声をかけ、玄関へ向かう。
武仙の感知領域は広い。酔っていようが寝ていようが、領域内の人の数、人の種類は簡単に判別できる。移動経路から目的地を推測することも、悪意の有無も判別する。
その彼がわざわざ悠太に出迎えろと言うのは、意味がある。
答えは、悠太が玄関を空けてすぐに判明した。
「鬼面殿、と……初空の」
京都で相対した奥伝、鬼面。
そして、悠太と鬼面が相対する原因を作った少女。
「何よその顔は。もしかして、こられて迷惑だなんて思ってないでしょうね」
初空の未来視、十二天将が一人、天乙。
天乃宮の星詠みに並ぶ称される彼女がここに来た理由に、悠太は身構える。
「天乙、殿。そこ、まで。――悠太殿と手、合わ。せしたことを、武仙殿に。伝えに。天、乙殿。は、付。き添いだ」
たしめられた天乙は、ふんっ、とそっぽを向く。
宴会の惨状が残る家に招いていいかと少し悩み、悠太は二人を家に上げることにした。
「散らかっていますが、どうぞ」
鬼面は武仙の実体は知っている。
天乙には、知られても別に良いかと即座に結論を出した。
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次回は、5月27日(水)1:00 を予定しております。
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