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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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現代魔導の傑作

 バレットは現代魔導の傑作であるが、使いこなす者は少ない。

 そも傑作と言われる理由は、使用難易度の低さと、カスタマイズ性にある。理論上ではあるが、カスタマイズ性を駆使することであらゆる状況に対応できる。

 だが、ほとんどの魔導師はカスタマイズしない。

 特定の状況に特化した術式を複数用意し、状況に応じて使い分ける方が楽であり、より素早く対応できるからだ。また、そもそも論になるが、その場その場でカスタマイズ出来る者などほぼいない。

 カスタマイズ済みのバレットを複数用意すれば問題は解決するが、わざわざ用意するなら別の術式を用意する。カスタマイズ性の代償として、特化術式と比べて効果が低いのがバレットという術式なのだ。

 それを理解した上で、ライカはバレットを主力として使い続ける。


「サテライト、モード五」


 一〇〇の光弾が一つに収束される。

 収束した光弾を保有したまま、新たに一〇〇の光弾を生成。

 多数の光弾で奥伝を牽制しつつ、隙を作っては光弾を収束。

 ヴォルケーノの炎で壁を生成する頃には、収束した光弾が三つ浮かんでいた。


(やっぱり、対処に優先順位がある。直接攻撃が最優先で、環境形成なんかの戦術構築は後回し。間隙なく撃ち続けてれば、好き勝手出来るし、同じ行動を続けても通じる)


 バレットを主力にする理由は、フレデリカと似通っている。

 莫大な呪力量からすれば、バレットの消費量はないに等しい。一〇〇や一〇〇〇を消費しても、総量の一〇〇分の一にも届かない。故に、考え無しに使っても物量で圧倒できる。光弾一発は威力が軽いが、収束弾を生成すれば弱点は補える。

 消費量に比べて威力が低いという弱点はあるが、そもそもの呪力量が莫大なので弱点にならない。

 また、ライカ固有の問題として、ヴォルケーノの存在がある。

 他の魔導師が勉強や訓練に使う時間を、ヴォルケーノの制御に当ててきた関係で、魔導師としての腕が低いのだ。精霊との共存が出来た現在でも、ヴォルケーノに指示を出した方が下手な術式を扱うよりも容易い。

 その結果、バレットへの造形を深めることが最も効率が良くなったのだ。


「バレットセット、マクロロード――ファイヤ」


 光弾の弾速は、通常の五倍。

 軌道はただまっすぐ飛ばすだけで、射程も奥伝に届くギリギリまで削り、消費呪力を数百倍にまで高めることで実現した高速弾。威力は通常弾の三〇倍程度と落ちてしまったが、弾速と合わせることで、軽自動車と衝突するレベルの破壊力となる。

 それを時間差で三発射出した。

 避けようにも炎の壁に阻まれて出来ず、後退する時間もない。

 魔導戦技での経験と、自身の強みを活かして掴んだ勝機を、


 奥伝技・再現――破城剣


 奥伝は斬り裂いた。

 一太刀、順当に光弾は斬り裂かれた。

 二太刀、足の骨を砕きながら、返す刀で光弾を斬り砕く。

 三太刀、腕だ潰れ、内臓を痛めるほどの無理をして、光弾を弾き逸らす。


(なんて……無茶なっ)


 自我を奪われ、傀儡状態になった故の無謀。

 されど、奥伝の負傷としては軽い部類。手当てすれば後遺症が残らないなら、さらなる無茶を重ねる。残った足で地を蹴り、全身を最後の太刀を振りかぶる。

 相打ち覚悟の特攻は、剣人会では普通のことだ。


「……――パージ」


 普通故に、ライカは何度も経験をしている。

 経験したからこそ、対処をしている。幻術で隠した最後の一手。

 炎の壁や、数えきれぬほどの光弾、それらを消費し撒き散らされた呪力によって、隠し通した呪力の塊。

 ライカの総呪力量の十分の一。

 すなわち、並の魔導一種の一〇倍、フレデリカ一人分の呪力の塊に、穴を開けた。

 術式も何もない。ただ、ダムの水門を開けたようなもの。制御されていない呪力は濁流となった。横に広がるはずの呪力は、炎の壁に阻まれて前方へと収束する。

 こうなればもう、奥伝技も何も関係ない。

 万全であれば切り抜けることができただろうが、満身創痍の身では押し流されるだけ。

 呪力の鉄砲水に為すがまま流され、屋上を囲うフェンスをへし曲げ、空中へと射出され、二つ向こうのビルの屋上に叩き付けられた。


「――…………終わっ、た?」


 安堵よりも先に、血の気がひいた。

 胴、腕、脚、首、頭、全身のありとあらゆる部位を斬り落とされる様を、今更さながらに幻視した。右手で首を、左手で腹部を触り、血が流れていないことを触覚で理解して、両足から力が抜けた。

 ガクンと膝を着き、前のめりになりそうになる頭を後ろへと傾け、仰向けに倒れる。

 呼吸は荒いのか、胸部が何度も上下する。だが不思議と呼吸音は聞こえない。

 破裂しそうなほどに早鐘を打つ心臓の鼓動が、全ての音を塗り潰しているのだ。


「はぁ……ふぅ、すぅ……」


 自然と上下する胸部に合わせ、大きく呼吸をする。

 二〇、三〇と繰り返し呼吸をして、ようやく耳に心臓以外の音が戻った。


「勝てた、勝てたんだぁ…………」


 心臓にこもった熱が、勝利の証。

 視界いっぱいに広がった電線のない暗い星空が、自分を祝福しているように感じる。


「あ、起きなきゃ…………あれ? 力、入らない……?」


 腰を抜かしたどころではない。

 全身を支配するダルさが、神経に流れる信号を遮断しているかのよう。

 仕方なく呪力を流して操作しようとするが、こちらも上手くいかない。


「お見事です、ライカさん。身体の方はいかがですか?」


「力はいらなくて、起きられないです……呪力も上手く流れなくて……」


「精神的なものと、呪力を大量に消費した関係でしょうね。起こしますために身体に触れますが、少々我慢してください」


 背中に手を差し込まれ、まず上半身が起き上がる。

 次に右腕が上がり、肩を貸されて腰が浮かぶ。

 曲がった膝がピンと伸びると、立ち方を思い出したかのように力が入った。


「あの、ありがとうございます」


「いえいえ、戦いに手を貸せずに申し訳ございません。草薙の人間ではありますが、荒事はとんと苦手で。ライカさんは確か、魔導戦技で腕を磨かれたのですよね? もしや、悠太殿からも手ほどきを?」


「そこまでは、悠太くんはダメ出しやアドバイスはしますが、そこ止まりで。術式の調整や戦術の部分は、部活の皆で意見出し合って何とかって感じです。あと……ここまで綺麗に作戦がハマったのも、初めてで……」


「謙遜しなくとも構いません。あなたは間違いなく試練――……奥伝の脅威を越えたのですから。慢心はいけませんが誇って良いのです――が、残念ながらまだ終わってはいません」


 奥伝が――ではない。

 カース・パンデミックの脅威はまだ去っていない。


「……はい、分かっています。一応、対処法は持っていますが……草薙さんは」


「このビルだけなら、出来るんですが……ちょっと来てもらいますか?」


 言いにくそうに、手招きのジェスチャーする。

 不思議に思いながらフェンスの方へとついていき、下を覗き込む。


「え? この呪詛、まさか外も!?」


「残念ながら、ちょっと違いますね。外の呪詛は…………香織がやったことです」


 ライカは、何を言っているのかが分からなかった。


「なんで、香織ちゃんが?」


「十中八九、星詠みの指示でしょう。でなければ、鬼の呪詛で気絶させるなんて曲芸をするりゆうはありませんから。ああ、意図の方ですか? 天魔付属が狙われたよりも、広範囲の魔導災害に巻き込まれた方が、周囲からの非難が少ないから、だと思いますよ」


 理屈は通っているが、理屈しか通っていない。

 だが、天魔付属は文化祭で魔導災害に巻き込まれている。

 ここで修学旅行も狙われたとなれば、魔導省や警察などの介入を受ける。

 それを考えれば仕方ないかも知れない。感情は納得しないが。


「…………分かりました。周囲一帯を浄化しますので、許可をください」


「魔導一種保有、草薙家当主、草薙伊織が正式に要請します。魔導災害、カース・パンデミックの浄化を」


「要請、ありがとうございます」


 元いた場所に戻り、印を組む。

 組んだ印は不動明王。

 息を整えてから、真言を唱え始めた。


お読みいただきありがとうございます。

次回は、4月4日(土)1:00 を予定しております。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

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