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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
200/202

返し技

祝・200話到達 \( °ө° )/ バンザーイ

決着はまだ先ですが、次回はライカ サイド に移動です。

「マクロ、バレット。リピート、トゥウェンティ」


 二〇の光弾が、フレデリカの周囲に生成される。

 剣術とバレットの組み合わせはフレデリカの基本戦術であるが、いつもよりも数が少ない。一〇〇の弾数を維持し続けることにより、攻防に余裕を持たせるのだが、今は五分の一。

 浄焔で身体を焼き続ける、その熱を身体強化で誤魔化し続けているため、一〇〇の光弾を生成し続ける余裕がないのだ。


「ふふ、壮観だな-。剣人会だと一〇個出せば多い方なんだけど、残念だな-。万全ならもっともっと多かったのになー」


「まさかと思うけど、わたしのこと調べたの? 兄貴の直弟子だけど、所詮は初伝と魔導三種よ。中伝クラスが気にすることじゃないと思うけど……?」


「そんなことないよー。今年剣術大会の映像見たときに、ビビってきたんだー。この子強いなーって。強くなるなーって」


「……負けたけどね。油断しすぎだって兄貴にボロクソ酷評されたけどね」


「良いお師匠様だね。ちゃんと過程を評価してくれるんだから」


 何度も斬り込もうとして、結局は動けずにいた。

 何度試しても一足一刀の始動に反応され、動き出す寸前で止まらざるをえない。

 止まれたのは、悠太との稽古があったからだ。始動を潰すように斬り込まれる。始動に合わせたカウンターで斬られる。一足一刀を防ぎ剣を落とされる。一足一刀を躱され一足一刀で首を斬られる。

 数え切れないほどの敗北が、フレデリカの動きを抑制させた。


「目も良い、勘所も良い、駆け引きだって十二分。ふふふ、剣聖さん達がこっちに来るって聞いて、もしものために研究した甲斐があったなー」


 無意識に舌打ちをした。

 研究など生ぬるい表現だ。フレデリカの一足一刀は奥伝の域にある。悠太が完封できるのは軌道や威力を再現できるほどに熟知し、空の目を持って始動点を完全に掴めるから。むしろ、悠太の度肝を抜くために、精度や威力を上げ続けたから今の一足一刀がある。

 一足一刀を磨くことは今も続けているが、これだけではダメだと悟ってからはバレットを始めとした魔導を組み合わせた戦術も磨いている。

 悠太の「目」を前提に組み上がった始動が潰される。

 これは、女の「目」が悠太に近しいことを意味していた。


「……天眼ってのは誇張じゃないのね」


「動かないなら、こっちから行くよ」


 既視感のある構えをする。

 刃に添えた手を後方に下げ、地面と平行になるように刀を維持。そのまま腕と刃を頭上に上げ、刃を掴んでいた手を離す。

 デコピンの要領で威力を上げた、片手の唐竹割り。

 悠太が美しい称し、趣味で扱う型、立居合だ。


「――へぇっ」


「っ、ノンマク――」


 柄の移動、跳躍、半身よって伸びる間合いの内にはいる。

 振るうのはもちろん、一足一刀。加えて火界咒を分割で起動し、一〇の光弾を相手の刀身に叩き込んで軌道をズラす。

 間合いの外からの攻撃は初歩の初歩。

 内に入ることは難しいが、入ってしまえば攻撃はしにくくなるし、威力は落ちる。

 おまけに斬り込みに使ったのは一足一刀。相手からはフレデリカがすり抜けたように思えるだろう。


「マクロ、四」


 フレデリカの剣が、上へと跳ね上がる。

 下から上に向かっての光弾一発。フレデリカのそれよりも大きく重い一発だ。


「――っ、サンマンダ」


 バレットの一部を自身の身体に叩き付け、強制的に体制を整える。

 火界咒を刀身に纏わせ、立て直しの反動さえも推進力に変えた振り下ろしは、女の剣によって防がれた。


「バサ――っ、ラ、ダン」


 柄の右手を下に、刃に沿わせた左手を上に、フレデリカのデバイスごと回転。

 重心が不安定になっていたフレデリカは、デバイスごとたたき落とされそうになり、


「――カンッ」


 火界咒の小咒を解放。

 刀身の炎が爆発的に燃え広がり、浮いていた身体は通路まで吹き飛ばされた。


「……――ぃ、っっ……」


「わーお、こんな強引に仕切り直すなんて、さすがに予想外」


「……巻き落とし……だけじゃない。バレットの迎撃まで計算に入れてたわね」


「もっちろん。お弟子さん専用に、マクロを組んだんだ。バレット一〇〇個前提だから、すぐに終わるかなって思ったけどー、違うみたいで安心したよ」


 小咒の爆発は使いたくないものだった。

 フレデリカは小咒の炎を留めた上で、中咒へと増やして行く予定だったが、二つの想定外により断念した。

 一つはもちろん、自身の剣を研究され尽くされていること。

 一足一刀を上方に逸らされてから、巻き落としまでの流れによどみがなかった。どこまで崩れるかは状況によるが、身体ごと巻き落とされた時点で終わり。吹き飛ばす以外に逃れる術がなかった。

 もう一つは、呪詛対策の浄焔。

 呪詛特化の火界咒と、通常の火界咒を並列使用した時点で、視界に霞がかかった。小咒を一分でも維持したなら、脳の処理能力がパンクして、ブラックアウトしただろう。


「その構え、特徴的ね」


「でしょ~、普通に構えるんじゃ、詰まらないからね~」


 先ほど同じく、立居合。

 壁に寄りかかるフレデリカに近付くことなく、動かずに佇んでいる。


「ええ、とっても面白いわ。だから、マネしようかしら」


 フレデリカも同じく、立居合。

 だが、左手を添える位置が違う。半身の角度も違えば、軸足の配置も、重心の置き場所も違う。まさに、見よう見まねである。


「ええ~、えええ~、ちょっと舐め過ぎ~。術理が分かったって言いたいの~」


「ただのデコピン剣術じゃないの。分かりやすくてあくびが出るわ」


 間違っていないが、理解が低い。

 左手で刀を挟み、力を溜めることで片手では考えられないパワーを発揮する。

 これに間違いはないが、立居合の初歩でしかない。半身、跳躍、柄の移動、遠心力などにより、間合いを伸ばしながら高い威力を出す技であり、女はさらに上を行く。

 無機質は目こそが、女の剣を高めている。

 人は、瞳の向きでどこを見ているかを知らせる。無機質な瞳とはつまり、動きが見えないということ。自身が見られていないかも、という疑念は、当事者の意識を失わせる。斬りかかられているのに、どこか他人事のように感じられる。

 フレデリカが反応できたのは、悠太という似た目にさらされ続けた経験あってのもの。


「……オン・アニ…………マリシエイ……」


「また火界咒~? 好きだね~、本当」


 悟られないように、聞こえないように、声を潜め、唇を動かさず。

 されど、天眼は見逃さない。呪力の動き、唇の僅かな震え、筋肉の動き。真言による術式使用は、高い集中力を要する。デバイスを介さない故に時間もかかる。その分、現代魔導では再現が難しい効果を出すが、近接戦では徒となる。

 間合いの外であれば問題ないが、すでに女の間合い。

 最初に見せた立居合はブラフ。威力を抑え、間合いを抑えた見せ札。

 より長く、より重い必殺にて斬り裂くために。


「…………え?」


 フレデリカを斬り裂くはずの剣は、軌道を変えて滑り落ちる。

 真似事の立居合ではない。刀身の根元は立居合の軌道上に置かれ、外に流すための道となっている。左腕は道を支えるために使われ、デコピンの要素はない。

 そのはずなのに、フレデリカの放った一太刀は、片手では為し得ない威力だった。

 デバイスでなく真剣であれば、大男の太い腕を骨ごと断ち切っただろう剛の剣。


「マクロ、二」


 バレットによる迎撃で当たりはしなかったが、間違いなく立居合であった。

 間合いの伸びも、威力も、立居合を修めていなければ為し得ない本物であった。


「……なに、いまの~。もしかして、隠してたの?」


「隠してないわ。わたしは実戦じゃ使えないから使わないだけだよ。兄貴は普通に斬った方が早いから使わない。だから、まあ、つまり……兄貴の趣味ね」


「今の返しも、そうなのかな~?」


「兄貴が前に、相手の剣戟を溜めに利用したって言ってたから、それをヒントに考えた返し技。小細工必須だけどね」


 使用したのは、摩利支天の真言。

 隠形故に、発見状態が維持される近接戦では使われない。が、考えてみて欲しい。

 剣士は間合いや動きを隠すために、袴のようなひらひらした服を着用する。わずかであれ、隠形で視認性が阻害されるなら、どれほどのアドバンテージが生まれるだろうか?


「やっぱり、お弟子さんは楽しい人だね」


 有用であろうとも、やはり摩利支天の真言は使われない。

 よほど熟知していなければ隠形の効果は出ない上、身体強化や火界咒のような攻性の真言を使う方が有利だからだ。

 経験したならば、次は通用しなくなる。

 奇襲性とは、露見しないことが絶対条件なのだから。


お読みいただきありがとうございます。

次回は、3月25日(水)1:00 を予定しております。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

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